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カテゴリ:近ごろのファンタジー
![]() 第1巻の感想で革命じゃなかった、続刊に引き継ぎか?と書きましたが、予想通り第2巻はまるごと革命の嵐です。古今東西の革命や反乱に共通する怒濤の盛りあがり、それが二転三転してころがるように悲劇になってゆく、そのエッセンスをぎゅっと蒸留したような。[以下ネタバレあり] 主人公の一人、高位のお坊ちゃま(後のルーチェ)が自宅の火事と謎の暗殺者から逃れる幕開けがまず、陰謀のニオイに満ちています。貴種流離譚といいましょうか、劇的展開への期待が冒頭から膨らむのです。そして神秘的な森の中で助け出され、僻村へかつぎこまれる場面、 「[前略]…あんたは森で行き倒れてたんだ。すごく弱ってて熱もあったから、ほっとけなくて…[後略]」 ――多崎礼『レーエンデ国物語 月と太陽』 ええと、恥ずかしながら大昔の拙作『海鳴りの石 2巻』の最初もですね、主人公が家族を暗殺され火事から逃れ、神秘的な森の中で助け出されて僻村へかつぎこまれるんですよね; 「あんたはこのちょっと先で行き倒れてた」 ――『海鳴りの石 2巻』 なんか既視感でくらくらしちゃいました。そして彼がもとの身分を封印して暮らすうち荒事に巻き込まれていく、と筋書きもおんなじなんです。こういうストーリーって、読んでいても書いていても文句なしにわくわくしちゃいます。 ただ、こういった物語では、因果応報というか倫理的にと言うか、はじめは大義のためと思いながらだんだん大がかりに殺しを続ける最強の主人公は、どこかで歯車が狂って最後は非業の結末に至るというのが、ある種のパターンのように思えます。『月と太陽』のヒロイン、最強の女戦士テッサもそうです。ごくまともな倫理観を持った悩める乙女でもある彼女を、読者は応援しながら読むのですが、ああやっぱり、悲劇が待ち受けていました。 その悲劇に真っ向から向き合う彼女は、革命の旗印になると決めた以上、失敗に終わっても旗印として磔刑に処され、さながらイエス・キリストのように死んでいきます。けれど私には、たとえ逃げのびても、彼女の始めた動乱で失われた多くの命の重みで、とても生きていけない、というふうにも読めました。生き延びたら、彼女の片割れだったルーチェのように、狂うというか、別人格になってしまったでしょう。 そして伝説・歴史になっていく彼女たちの生きざまが最後に記され、読み手はホッと息をついて主人公たちと同じ視点でのやるせない悲劇から目覚め、ストーリーを俯瞰することができます。 唯一、私的に気になったことをちょっとだけ書いておきますと、バルナバス砦に刻まれていた文句、「レーエンデに自由を」なんですけど、帝国文字だったとあります。それがなぜだか『FREE LEENDE』とわざわざアルファベットにしてあるんですけど、異世界もののハイ・ファンタジーなので、ここでアルファベットが出てくるとちょっと拍子抜けしてしまいませんか。 この物語世界は中世・近世ヨーロッパ世界に似ています。レーエンデがスイスっぽいと前に書きましたが、法王はローマ教皇とか神聖ローマ皇帝の雰囲気があります。でも、れっきとした異世界のはずなので、帝国文字はアルファベットじゃないはずなんです。トールキン風に異世界の歴史を翻訳した物語とするなら、日本語の作品ですから日本語「レーエンデに自由を」で十分だと思うのですけど…。これは本編を貫くスローガンでもあるので、なおさらアルファベットにしないのが良いと、私は思います。どうしても刻んだ文字を描写したければ、帝国文字を創っちゃって欲しかったです。 この第2巻は時代が下ったためか革命のためか、幻想的な場面が少なく、幻影の海や古代魚などの謎は法王の権力の秘密とともに、またもや続巻へ持ち越されました。この点でも読者を駆り立てる、技アリな展開です! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 20, 2025 11:17:38 PM
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