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テーマ:短編小説を書こう!(515)
カテゴリ:Hannaの創作
きのうのつづきです。
* * * スカートゼミ(2) ほら、耳をすませ、目をこらせ。何か小さなものがたくさん出てくる。しめってやわらかな、去年のかれ葉をかきわけて… 「何だろう?」 細い木によじのぼる…ゆっくりと…目がさめたばかりのように…ほら、あちこちで。 その時、暗かったあたりの景色が、映画館のようなうすあかりにてらされた。 「月だ」 ぼくは上を向いて思わず声を出した。 「おい!」 和也(かずや)が息をつめた声でぼくをつついた。 「見ろよ…のぼってくるぞ…」 ほんとうだ。ぐっしょりぬれたやぶや低木のあちこちに、ぞろぞろのぼってくる、羽のない茶色の虫がいた。かぎのついた前足でひっかけながら、一歩一歩ゆっくり進む。ひらたい頭に丸い大きな目がとびだした、何十という虫たち。それから、 「和也! 白いのが出てくる! 茶色がわれて、白いのが。あっ、黒い目がついてる」 ぼくはこうふんしてささやいた。森のあちこちで、白いものが月光にぼーっと光っている。ぼくらは時を忘れてその光景を見つめた。 「これは、セミの子供たちよ」 ギョロ目姉ちゃんのしずかな声がした。 「六年間も暗い土の中ですごしたあと、こうやって羽のあるすがたに生まれ変わるの。最初はまっ白でやわらかい。だんだんにからだや羽がのびて、そして……」 「やっほー、かんたんにつかまえられるぜ!」 黒ブチめがねの大声に、ぼくはハッとわれにかえった。黒ブチめがねは、もう茶色い幼虫を一ぴき、手に持っている。枝からひきはなされた幼虫は、かぎのついた前足でのろのろと空(くう)をかいた。 「つかまえよう!」 和也も急にいさましくさけび、さっそくやぶをのぼっている一ぴきに手をのばした。 さあ、それからみんなは一度にざわめきたって、かん声をあげながら幼虫をつかまえ始めた。その間にも、次々とま新しいセミが幼虫のからをやぶって出てくる。 ぼくも手近な幼虫をそっとつかんだ。わりあいかっちりしている。うるさく鳴いたり、ぶかっこうに飛び回ったりするおとなのセミにくらべて、こいつは何て無口でおちつきはらっているんだろう。 黒ブチめがねは、今度は高い枝にじっととまって、今にも皮をぬぎ始めそうな大きな幼虫に手をのばした。 「もうつかまえるのは、いいでしょう」 急にまた、ギョロ目姉ちゃんの声がした。 「だって、たくさん持ってって観察するんだ」 「…もう三びきもとったじゃないの。さあ、そろそろもどるわよ」 そこで、みんなは回れ右をした。また一列になって歩きだす。 その時ぼくは、黒ブチめがねが虫かごのふたをいじっているのに気づいた。 「あれ、おまえ、それ…」 「しっ、ギョロ目にはないしょだぜ」 黒ブチめがねのやつ、いけないと言われたあの大きな幼虫を、やっぱりあきらめきれずに枝からとって虫かごに入れたのだ。ぼくは何も言わずに和也のあとから歩きだした。 帰り道はずいぶん長く感じられる。月も雲にかくれたのか、またまっ暗になり、背中がゾクゾクした。やがて、森からわきでるような低い声が前方から聞こえてきた。 つづく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 24, 2025 11:56:25 PM
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