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HANNAのファンタジー気分

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July 24, 2025
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カテゴリ:Hannaの創作
さらにつづきです。

* * *
スカートゼミ(3)

 どうやらギョロ目姉ちゃんの声らしい。
「…ある夏の朝、キャンプに来た子たちが、セミの子供をたくさんとったの。都会の子にはセミがめずらしかったのね。虫かごに入れて部屋においといたのよ。ところが夕方見ると、小さなかごにすきまもないほど、おとなのセミがぎっしりつまっていたの。どのセミも羽や体が曲がったり、ゆがんだりしていたわ。脱皮したのに、せまいので体がうまくのびないまま、かたまってしまったのよ。
 みんなはびっくりしてかごをあけた。でもそのセミたち、まっすぐに飛べないの。そして、あかりに目がくらんで、ひとばんじゅう天井でバタバタもがいていた。…朝になると、みんな電灯の上で死んでいたの」
 ぼくらは息もできないほどシーンとしてしまった。暗がりが体にしみこむようだ。と、前を行く和也(かずや)が急にくるっとふりむいた。
「おい、幼虫をにがせ。今の話、聞いたろ」
 和也にしてはめずらしくまじめなその口調に、黒ブチめがねはしぶしぶかごをあけ、
「一ぴき、二ひき、三びき」
幼虫をとり出して、道ばたの枝にのせた。
 けれど、ぼくはまた見てしまった。暗くてわかりにくいけれど、黒ブチめがねのにがしたのは三びきだけだ。最後にとったあの大きな幼虫は、かごのおくに残っている。
 ぼくらはようやく暗い森を出た。

 次の朝。ぼくは和也の声で目をさました。
「おい、まだ一ぴき残ってるじゃないか!」
 和也は黒ブチめがねから虫かごをひったくり、ふたを大きく開いた。そのとたん、
「あっ」
ぼくもふくめて全員びっくりした。中にいるのは茶色いセミの成虫だが、両方の羽の先がまるでスカートのすそのような形にめくれあがっている。かごの底にあたってひん曲がってしまったのだ。“せまいので体がうまくのびないまま、かたまってしまったのよ…”
「こいつ、飛べるかな」
 さすがの黒ブチめがねも心配そうな声を出して、かごをまどから外へつき出した。
「よし、いいか。そら、飛べ」
 まぶしい朝日をあびて、スカートゼミの黒い目玉がキラリと光った。と、ジジジ!
 しゃがれた声とかわいた羽音を残して、スカートゼミは飛んだ。先のめくれた羽で、ぎこちなく木立ちのほうへ飛んでゆく。
「やった…よかった。飛べたねえ」
ぼくも和也も、ほっとして笑った。

 さて、キャンプももう終わりだ。
「さすが、セミネ山だったなあ」
 山道を下りながら、和也がしんこきゅうして言った。
「だってさ、おれ考えたんだけど、ギョロ目姉ちゃんって、セミの女王さまとちがうか」
「そういえば、あのギョロっとした目は、セミそっくりだったな」
「ばかいうな。ギョロ目はただのかんり人だ」
 急に黒ブチめがねがわりこんだ。
「でも、けさは見かけなかったよ」
「きっとギョロ目姉ちゃんは、スカートゼミといっしょに森へ帰ったんだ」
「それに、天井の電灯に黒い影なんて、けさはぜんぜん見えなかったぜ」
「さっすがセミの山、セミネ山だなぁ!」
 だが、黒ブチめがねはむきになって言った。
「ちがう! この地図の漢字を見ろ。セミネ山ってのは蝉(せみ)じゃなくて、瀬峰(せみね)山だ! セミとは関係ないんだってば!」


おわり。

 ずうっと昔、私がキャンプで体験したことをもとにしてできたお話でした。





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Last updated  July 24, 2025 11:55:45 PM
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