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HANNAのファンタジー気分

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Hannaの創作

December 13, 2019
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テーマ:創作童話(658)
カテゴリ:Hannaの創作
久しぶりに創作短編童話です;
だんごむしの おみせやさん

 あきの おわりの、しずかな あさ。
 こうえんの すみに、ちいさな おみせが でました。

 おちば いろいろ

 はっぱを ならべているのは、だんごむしさん。
 おや、さっそく おきゃくさん。
「いらっしゃいませ。」
「かぞく みんなで あったまる、おおきな おふとん ありますか。」
「はい。なにいろに いたしましょう。」
「ぼくたち てんとうむしの だいすきな、おひさまの いろが いいな。」
 てんとうむしさんは、おおきな あかい はっぱを えらびました。おかねの かわりは、きのこです。
 おさんぽちゅうの ちょうちょさんも、
「あら、これ、わたしの はねみたい。きれいで、かるくて、じょうひんで。おへやの カーテンに ぴったり。」
 ちょうちょさんは はなの みつを くれて、きいろい はっぱを もっていきました。
 だんごむしさんが ちゃいろい はっぱの ひるごはんを たべていると、
「ぼくにも ください。」
 つつーっと おりて きたのは、みのむしさん。
「じくの ところが ほしいんだ。おうちの やねに するんだよ。」
「じくは サービス、ただです。」

「わあ、おちばが いっぱい!」
 こどもたちが おみせを みつけました。
「まるいの、ながいの、とがったの。おてての かたちの はっぱも あるぞ。」
「あなあき はっぱも、おもしろーい。」
 おやつの ぶどうの かわを もらって、おちばの おみせは だいはんじょう。

 みんなが かえって、ゆうがたです。
 つめたい かぜが ぴゅうー。
「だんごむしさーん。」
 おや、まだ だれか おきゃくさんかな。
 いいえ、それは ゆき。
 ふわふわ、ちらちら まいおりながら、
「こんやは さむくなるよ。はやく おうちへ はいってね。」
「ふゆが くるんだな。」
 だんごむしさん、そろそろ みせじまい。

                        おわり

 じつはこの作品、所属している児童文芸家協会の保育絵本用作品に応募したのですが、まるっきり落選してしまったものでした!
 保育絵本には、季節感や行事が盛りこまれるのが良いという注意点があったので、留意して作ってみたのですが、あとから選考結果の総評を読むと、年少組さんから年長組さんまで、それぞれいちばん大事なテーマは、友人といる楽しさ、相手の気持ちを知ること、知恵や工夫、だそうです。
 なるほど! 知ってしまえば当たり前の大事なことばかりですが、私にはそういう視点はまったくなかったです。
 自分が幼稚園のころ毎月もらった保育絵本のなかでは、自然科学っぽいお話が大好きだったので、そんなふうに作ってしまいました。

 また機会があったら、今回学んだテーマで再チャレンジしてみたいものです。






Last updated  December 13, 2019 12:38:39 AM
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November 29, 2013
カテゴリ:Hannaの創作
 お弁当づくりのため毎朝5時頃起きるので、もうじき話題の「アイソン彗星」が見られるかしらと思っていたら、今日のニュースで、彗星は蒸発・消滅したかも、ですって。ああ残念。

 思い起こせば1986年のハレー彗星大接近のときは、高価な反射式天体望遠鏡を買ってもらい、関連本を読みあさり、地元の勉強・観測会などにもちょこっと参加したりして、自分なりに盛り上がったのでした。
 しかし、あの時は期待はずれに彗星は暗くてちっとも彗星らしく見えず、な~んだ で終わりました。
 その後、1996年春にたぶん百武彗星というのを肉眼で見た(確証はない)ように思いますが、ハレーと同様、しっぽらしいしっぽは見えなかったので、彗星を見たという実感がわきませんでした。この年の秋に長男が生まれてからは、のんびり彗星を見るどころでなく、有名なヘール・ボップも見逃しています。

 私、どうも彗星とは縁がないみたいです。

 それでも、高校生の頃、ちょっとセンチな短編をつくってみたことがあります;

地球を愛した彗星

 太陽系のあるところに、ひとりの彗星がおりました。彼はほかの惑星たちのようにきれいな円を描いて太陽の周りをまわることをしませんでしたので、彼らからはずいぶん軽蔑され、というより話題にものぼらないぐらい、のけものにされていました。それに通ったあとにゴミを散らしていくので、苦情を言われることもありました。


 (中略――ある日、彗星は遠くから、青く上品な第三惑星を見かけて一目惚れする。しかしなかなか近づけないまま、何度も軌道をめぐる。そのうち、大接近の機会が訪れ、彗星はわくわくしながら、第三惑星に言葉をかけるチャンスを待つ。近づく第三惑星の美しいこと。)

 なんてすばらしいひとだろう、と彗星はあんまり感動したので、その時まとっていた微小な物質をみんな燃やしてしまいました。その炎は長く尾を引いて、彼の通ったあとをいろどりました。

 (中略――彗星は第三惑星にあいさつし、第三惑星もあいさつを返す。大喜びで軌道を遠ざかる彗星。しかし、再会のときはなかなかめぐって来ず、長い時間のうちに彗星は気落ちしてボロボロくだけ始める。やがて、ようやくもう一度接近の時が来るが、なんとしたことか、第三惑星は赤茶けてどす黒いガスに包まれ、病んで死にかけていた。)

 彗星はたしかに、嗚咽のような泣き声と、かすかな言葉を聞きました。
「さようなら」
と。
 彗星は悲しみの炎を曳きながら通り過ぎました。彼の涙は第三惑星の引力にひかれて落ちてゆき、黒ずんだガスに触れると小さな爆発をいくつも起こしました。そして、またたく間に変質して腐った燃えかすとなり、第三惑星のおもてに降り注ぎました。
 彗星は悲しみのために軌道を飛び出し、太陽系を突っ切って、銀河の真っただなかへ飛び出してしまいました。まっすぐ、どこまでも彼は行きました。二度と太陽系には戻れません。
 軌道を失ってしまったので、もう彼はただの水蒸気やチリのかたまりでした。何も感じられなくなって、ブラックホールやパルサーの間を転々とさまよい続けました。


 (後略――気の遠くなるような時間の果てに、彗星はあるときむかしの彗星仲間に出会う。仲間は、自分は必死の思いで太陽系を脱出してきた、母なる太陽が年老いて第四惑星までをのみこんでしまった、小惑星たちが火の帯になって燃えさかるのを最後に見てきた、と言う。彗星はその知らせに、今度こそ胸がはりさけて、名も知らぬ星とぶつかって爆発し、粉々に飛び散って星間物質の海に沈む。)

おわり。



 
 
 






Last updated  November 29, 2013 11:34:37 PM
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October 10, 2013
カテゴリ:Hannaの創作
ナカノシマ・25時(つづき)

 画面の光点が消えて、にじんだような深紅の文字が現れる。

  BREAK IN!  BREAK IN!

「とびこみ記事! オペレーション、ストップ!」
「救難信号、キャッチ!」
「動力室へ連絡!」
「第三エリアが救助に向かいます。バックアップ要請!」
 き・いーん、いいーんときしりながら、あちこちのスピーカーの音声が一つの束になり、光ケーブルのようにフロアじゅうをめぐった。アリたちは倍速で駆け回って忙しそうだ。中の一匹がまっすぐぼくの方へ駆けてきて、先端がぬれたように黒光りする触覚で、名札に何か文字を書きつけた。
 フロア中央にはマストのような巨大な丸柱があり、半透明な内部がリフトになっていた。ピストンみたいにそのリフトが上下している。
 と、ドアが開き、中から白いアリが4本の腕を使ってさかんに手招きし始めた。残り2本で足踏みしながら、
「早く、早く!」
 ぼくを、呼んでいるのだ。気づくと同時に走っていって飛び乗ると、ず・うーん!
 リフトは一気に奈落へと落ちてゆく。光・闇、白・黒。何度か入れかわり、やがてシャッとドアが開く。
 そこは暗く脈打つ、心臓の内部のようだ。

 ど・しん、ど・しん、ぐ・おん、おおん

 轟音がひっきりなしに辺りをふるわす。何十メートルもの高さの、巨大な油くさい鉄のピストンが、上・下、上・下とエネルギーを送り出す。化け物のような歯車が、狂った抽選箱のようにぐるぐる回る。そこへ、
「輪転ストップ! 輪転、ストォォップ!」
こだまする大音声は、一緒に下りてきた白いアリ。とたんに、ず・しん!と機械は止まり、怪獣のため息のような、ふしゅーっという風が吹き抜けた。

 「工場長だ! 転輪聖王(てんりんじょうおう)」
その声に仰ぎ見ると、機械たちの間を貫く脊椎に似た白いブリッジを、しずしずと長い裳裾をひきずりながら、黒い仮面の姿が近づいてきた。ぼくの前で立ち止まり、確かめるように首をかしげて、ぼくの目をのぞきこむ。
 仮面の奥の目は、深淵のブラックホール。光と未来が閉じこめられて、解放を夢見てうるうる回っている。高速輪転機、燃える風車、それともねずみ花火か?
「最終版に間に合ったね」
墓場のカラスみたいなしわがれ声が、突然おそってきた機械の静寂に吸い込まれ、油じみたこだまをはき出した。
 ぼくはそのこだまに包まれ、闇の目に魅入られて、方向感覚も重力もなくした。うすっぺらになって、転輪聖王の目の中にやきつけられ、ぼくはネガになってくるりと回る。ぼくを抱いた女王がとつぜん闇の衣を開くと、星くずに飾られた巨大な蜘蛛の巣が天井をおおった。
「…よろしい。降版なさい」
「了解、抜錨します!」

 再び、機械の動き始めるとどろきが聞こえた。
「刷版オール・ラジャー。輪転、再開」
「磁場、よし! 動力、よし! 最終ロック、解除!」
「3、2、1、発進!」

 ぐ・おーん、どんどど、ぐ・おーん、どどど…

 ブリッジから見下ろすと、下は底なし沼のような黒い水面。輪転機が回るたび鉄の外輪が水をかく。泡立つ暗い水のおもてに、ガソリンを流したような虹色の映像が流れていく。それは森羅万象の影、この真夜中の地下工場で人知れずつくられた、あらゆるニュースたちだった。
 「どこへ行くんですか」
ぼくは工場長であり船長である女郎蜘蛛/転輪聖王に訊いた。
「『あした』へ行くのです」
「ぼく、間に合ったんですね」
「そう、おまえが今日の最後でした」
 ぼくは転輪聖王の後について長い長い螺旋階段を上がり、ビルの屋上へ出た。ヘリポート、白いマスト、満艦飾の星くず。林立するビル群はいっせいにきらめきながら、ぐ・おーん、ぐ・おーんという汽笛とともにゆっくり川を下り始めていた。遠く、ターミナル・ビルが灯台のようだ。
 河口から朝(あした)へ続く大洋へ、ナカノシマは今、漕ぎだしてゆく。

 

おわり。

 今は建て替えられなくなってしまいましたが、地下に輪転機のある印刷工場をそなえた、新聞社のビルがモデルのお話でした。






Last updated  October 12, 2013 12:25:11 AM
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October 7, 2013
カテゴリ:Hannaの創作
ナカノシマ・25時 つづき

 灯台のような標識灯に、黄緑の丸い光がペカッペカッとパルサーのように点滅している。その横に停泊しているバス、あたしを待っていた。
 白い流星のようなバス。中は深緑の藻の色のシート。運転士がただ一人、黒いコクピットに座って、銀のコショウをふりかける手つきで、あいた窓からタバコをはたいている。

 真夜中のまっさらなバスに乗りこんで、あたしはどこへ行くのだろう。ターミナルを離れ、つらなって泳ぐ魚群のような車の列にとけ入って、快調に進む。「つぎとまります」の緑のランプが、ブレーキのかかるごとにあやしく光っては消えるのは、ロックコンサートの照明を思わせる。
 いま、高速道路に入る。黄色の光あふれる料金所で、暗い帽子の運転士は関守の老人と秘密の護符を交換し、無言でブロック・サインを交わす。

 び・ゆーん---

 重力もついてこれぬ心地よさで、バスは加速する。まるで冬季オリンピック、ボブスレイの暗黒版。ホタルの列のように並んで横を流れてくオレンジの高い提灯。沈む暗闇。カーブ、ぐ・いーん---
 ハイウェイは血管だ。あたしのバスはそこをきらめきながら流れる赤血球。下でのろのろ止まったり動いたり、数珠つなぎのあれらは、静脈を行くがらくたたち。歯並びのよいビルは、無言でおとなしく、いささか鈍重な巨人のようにすてきだ。
 暗い川が近づいてきた。その向こうは血管に取り巻かれた心臓、堂々たるナカノシマのビルの群体だ。宇宙要塞、あるいは夜の海を漂うカツオノエボシにもっと似ている。

 つぎとまります

 ブリッジは飛行場のよう。び・ゆーんとカツオノエボシの脳の中へ呑みこまれていく。
 バスが泊まって、あたしは下りた。両替機にコインを入れたら、ジャンジャラと七色のガラスくずが出てきた。あるいは星のカケラ? 運転士は黒い帽子の下からちらりとあたしを見、白い歯を光らせてほほえんだ。
 そこは無人の地下駐車場。どこかさらに下から、ぐ・おーん、ごん、ごんという大地のうめき声が聞こえる。あたしの足音もこだました。遠く明るいガラスドア。開ければ、樹脂ばりの廊下。ぐ・おーん、ごん、ごん。かすかに振動する床をぺたぺた踏んでゆくと、つきあたりに手術室めいた広いドアがある。

 編集局

 ギイ、と開けると、真っ白な室内と、倍速映像のように動き回るアリたち。駆け回り、駆け戻り、何かをくわえ、上へ下へ。そのざわめきが幾重にも重なって、さっきのうめき声も消し去るほどだ。
 ディスプレイボードが並んでいる。一つを覗くと、画面は真っ暗で、心電図のような光点がゆっくりと、左上から下へ、さらに折り返して右上へ、右下へと、グラフを描く。一往復すると、ぱちっとシャボン玉のようにはじけて、今度は金平糖の形の光点になった。さっきのお釣りの星くずのようだ。
「脈拍を測っている」
 顔を上げると、あたしと同じ大きさの真っ黒なアリが、触覚を振りながら説明してくれている。
「誰の?」
「この船の、ですよ、ぼっちゃん」
 アリにぼっちゃんと言われてむっとした。
 けれど気がつくとぼくは紺の半ズボンの制服を着た男の子になっている。胸には空色のチューリップ形の名札。だが名前を記す場所はまったくのブランクだ。

 そのとき、壁の非常ベルが鳴った。

 び・いーっ、いーっ、いーっ!



* * *
つづく。

 

 







Last updated  October 7, 2013 11:00:53 PM
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October 4, 2013
カテゴリ:Hannaの創作
 むかしの即興的散文をふと思いだし、手直ししてみました。初回の舞台は改装前のJR大阪駅前がモデルです。

* * *

ナカノシマ・25時

 夜更けの街ってのはビルのライトが主役だ。あたしがターミナルの信号待ちで見上げると、夜空はネオンで青く照らされている。点滅のたび、空の色が変わるんだ。分厚いビロードの青から、透明な墨汁色まで。
 風がビーッビーッ、植えこみを揺らしていく。バスターミナルはだだっ広いアスファルトの海に突き出した緑の岬。二週間ごとにとっかえひっかえされる花壇から咲きなだれる花、はびこる低木、垂れこめる藤棚で、さながらジャングルだ。
 その上から、世界の壁みたいにでかく、うすっぺらなターミナル・ビルが、巨人のようにチビどもを見下している。いっせいに青に変わった横断歩道の四辺形の真ん中に立って見上げると、あたしの肩にななめにのめりかかってきそう。
 ターミナル・ビルに限らず、都会は崩壊の不安をはらんでいる。沈みかかった月そっくりに、かしいでいるのは極彩色の広告板だ。端からトララララとネオンがともっていくたび、ちょっとずつずり落ちていくんじゃないかな。何の広告だか、文字は読めないけれど。あたしは眼鏡を忘れてきたから。

 もう人はまばらだ。日曜日という旅が終わって、みんな疲れ切っている。どんどん前を向いて帰り着いて、なじみの寝床にもぐりこむだけ。そうして旅のことをしみじみ夢に見りゃ、明日からのルーティンをさしあたり忘れられる。
 横断歩道の対岸に渡り着いてみると、ジャンジャジャ、ギターが鳴っている。汚れたジーンズに時代遅れのざんばら長髪な吟遊詩人が、フラワーポットのへりに腰掛け、悲しげな歌を歌っていた。
 見物人はだれもいない。だから彼も安心して歌い続けるんだろう。ランララ、使い古されたコード。通り過ぎるとき、ちらっと歌の文句のかけらがとびこんできた。

   光りながら 漕ぎだしていけ

 あたしはジャングルの中を岬の突端へ向かう。高層ビルの複眼に似たぎらつきも、茂った草木に遮られている。エリオステモン、アブティロン、ヒベルティア・ペドゥンクラータ、呪文のようにからまる名を持つ植物たち。1番、2番…オレンジ色の電光板の招くバス埠頭はがらんとして、さえた昼間の月面に負けぬくらい清潔なベンチが白い。路線案内図はもつれあう色とりどりの綾取りだ。
 灰色の身なりの日焼けした男が、ベンチの一つに寝そべっていた。雑誌を数冊枕にし、一冊を手に持って解読するように見つめている。
 あんなふうに寝ころんで、見上げたら、バズだまりの茶色の屋根や伸び放題の枝、街灯、色を変える空、それらが一度にあって、まるで無人島気分だろうな。そう思っていると、男はハタッと雑誌を下げ、よく光る、黒いまん丸な目であたしを見て言った。
「間に合わないところだったな」


* * *
つづく。







Last updated  October 4, 2013 11:35:40 PM
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July 30, 2013
カテゴリ:Hannaの創作
 ちょっと忙しくしているうちに前回連載から日がたって、梅雨があけてしまいました。でも昨今のゲリラ豪雨などを思うと、やっぱりこの季節のお話でOKかなと思います。
 ともあれ、ようやく今日で完結です。

* * *

おばけ雨雲アマグモン(3)

 ぴゅーっ!
 そのとき、下の方から、ほそい、青いロープがとんできました。
「たえちゃん、ママよ!」
 ロープの上を、サーカスの人よりじょうずに、ママがつなわたりをしてきました。
 ママは白いエプロンをひらひらさせながら、アマグモンの前へくると、
「いいかげんにしなさい!!」
と、すごい声でどなりつけました。
「なんだとお! 雨雲にしずめてやるぞお。」
「できるもんですかっ!」
 ママは、ぐんと両うでをのばして、たえちゃんをひっぱりあげました。
「ママ!」
と、たえちゃんは、ロープにしがみつきます。それを見とどけると、ママはアマグモンに、むきなおりました。
「どうしてこんなに、よごしたの!」
 はっ、とアマグモンは、どろどろ、ぶくぶくのからだを四角にしたようです。
「だってっ! こんなはい色のところしか、すむばしょがないんだもの!」
 たえちゃんは、あれえ? とおもいました。
 ママは、すこしやさしい声になって、
「だめねえ。こんなにひろいお空を、あなた、じぶんでよごしちゃったんでしょう。それに、まず、かおや手をきれいにしないとね。」
 アマグモンはきゅうに元気なくしぼんで、どろどろの手でかおをかくしました。
 そこで、ママはロープの上にぴーんと立つと、声をはりあげました。
「せんたく、はじめえ!!」
 すると、まあ! そこらじゅうのはい色どろどろが、ぶおーっと、まわりだしたのです。
「せっけん、ようい、どん!」
 ママがどなると、パララ! 雪のようなこながふってきて、ぷくぷく、あわだちます。
「な、なにをするんじゃーあ」
と、アマグモンは、なさけない声を出しました。あわあわの、半分ちぎれたひげをなびかせて、大うずまきの中、ぐるぐるまわっています。
「たすけて、うおーおーいいぃぃぃ。」
 声といっしょに、アマグモンはきゅーっとちぢんで、ぷつぷつ、サワサワ、まっ白なあわにうもれてしまいました。
 たえちゃんは、すこし心配になりました。
「ママ、アマグモン、だいじょうぶ?」
 ママはにっこりして、号令をかけました。
「すすぎ、はじめえ!」
 しゅーっとあわが下へしずんできえ、かわりに、とうめいな風がさーっとながれこみました。あたりはみるみる青く、あかるくなっていきます。青空です。それに、白い雲。
 アマグモンは、どこへ行っちゃったのかな。
 ママがさいごの号令をかけました。
「だっすい!」
 すると、青空はくるくるまわり、白い雲が一つ、ふわっととんできました。おや、それはまっ白、ぴかぴかになったアマグモンです。
 ママは、エプロンのポケットからせんたくばさみを出すと、しゃかしゃか、ぴん! アマグモンをロープにつるしてしまいました。

 と、おもったら、それはまっ白なパパのシャツになっていました。
 なあんだ! たえちゃんは、ほっとしてわらいました。
「さあ、おかいものに行きましょう。」
 たえちゃんはママと手をつないで、ロープからぽんととびおりました。そこは、すっかりはれたベランダ。アマグモン、いえ、パパのシャツは、ぴかぴか光っていました。

 音符お日さま出れば アマグモン
  とってもいい子で まっ白よ
  お空でゆれる パパのシャツ

 たえちゃんは、うたいながらでかけました。



おわり。






Last updated  July 30, 2013 10:37:00 PM
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July 9, 2013
カテゴリ:Hannaの創作
おばけ雨雲アマグモン(2)

 たえちゃんは、ドキンとからだがちぢまって、いすから手をはなしてしまいました。
 ズボッ。
 あれっ?
 ゆかにドシンとおちるかとおもったのに、たえちゃんは、じめじめ、もやもやしたはい色のあわの中に、ななめにつっこんでいました。あわてて立とうとすると、
 ぴしゃっ!
つめたい水がかかり、おもわずくびをすくめてしまいました。
 もくもくもく、どぶどぶどぶ…
 はい色のものが、そこらじゅうにありました。たえちゃんが手足をばたばたさせても、どろんこにはまりこんだように、ぜんぜんうごけません。
「やーん、これなに。出してよおー」
 はい色のそこなしぬまです。おまけにはい色の空から雨つぶがおちてきます。いすも、まども、かべも、おうちもありません。みんな、むくむく、どろどろに、のみこまれてしまったのでしょうか。たえちゃんは、
「やーん、いやよう。うわーん」
と、あっぷあっぷ しながらさけびました。

「なにっ、いやとな!? わしのくにが、いやだといったな!」
と、とつぜん、ぐわんぐわんひびく、ものすごい声がしました。
 はい色のどろどろが、たえちゃんの前でぶわっとふくれあがったとおもうと、おそろしい大おばけのすがたとなったのです。雨雲のかたまりのような、ぶわぶわしたからだ。まっくろなひげにうまったかお。ゲジゲジまゆげから雨がふりそそぎ、まっかな目玉からは、いなづまがピリピリピリッと光っています。おばけ雨雲アマグモンです!
「それに、わしのかおを、こんなにふうにまっくろ、どろどろ、ゲジゲジにかいたのは、おまえだな!!」
 その声に、たえちゃんは、からだじゅうをぎゅーっと、ねじってしぼられたような気がしました。
「いやな雨雲で、わるかったな! きたないボール紙色で、わるかったな!」
 アマグモンはひげだらけの口をくわっとゆがめ、あわのかたまりのような雨雲をあちこちへふりとばしました。
「おまえも、どろどろにしてしまうぞお!!」
アマグモンは耳がヒリヒリするほど大きな声でわめいて、ごごごーっと、たえちゃんにのしかかってきたのです。
 目の前がはい色にぬりつぶされます。たえちゃんは雨雲の大波にさらわれ、もみくちゃです。
 と、そのとき、小さな四角いものが見えました。はい色のあわにまみれた、はい色のボール紙。それは、アマグモンの絵をかいた、たえちゃんの画用紙でした。
 たえちゃんはとっさに、画用紙をつかみました。すると、アマグモンの絵がくるっとうらがえり、白いさいごのページにママのかおが見えました。
「あっ、ママ! ママーァ!」
 ひっしの声も、すぐにアマグモンの大あらしにかきけされてしまいます。ああ、もう…
 アマグモンのギョロ目からかみなりがとどろき、あたりいちめん、はい色にあれくるいました。ああ、もう…
 たえちゃんの口に、もわもわした雨雲がかぶさってきます。目にも、しぶきがはいります。ああ、もう…


つづく。






Last updated  July 9, 2013 10:39:07 PM
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July 4, 2013
カテゴリ:Hannaの創作
 またまた、昔の作品の電子化です;

 1996年4月、紹介してくれる人がいて、「公明新聞日曜版」の童話コーナーに3回連載されたものです(ここに載せるにあたり少し手直し)。
 当時は片江綾子さんという方がかわいい挿絵をつけてくださっていました。
 4月より、やっぱり今頃の話かな~と思います。

* * *

おばけ雨雲アマグモン(1)

 音符白いドレスに くびかざり
  赤いリボンの おひめさま
  お空のくにの おひめさま

 たえちゃんは、うたいながら画用紙に絵をかいていました。ようちえんでもらった、だいすきな色えんぴつで、きれいにぬって、できあがり。
「ママ、見て。たえちゃん、おひめさまよ」
 でもママは、せんたくきのまえでいそがしくしていました。
「ちゃんと見てったらー」
たえちゃんは、ママのそばへはしって行きました。
 でも、
「どいて、どいて」
と、ママはせんたくものをいっぱいかかえて、ベランダの方へ、どかどかといっちゃうんです。
「ちぇっ。」
たえちゃんは、せんたくきをにらみました。
 雲みたいにもりあがった白いあわが、ぶおー っとまわっています。たえちゃんはいすにもどって、おひめさまをかいたページをぺりっとめくりました。
 ところが、がっかり。画用紙には、あたらしいページがありません。おひめさまのうらは、この前かいた、ママのにがお絵なので、白いページはもうのこっていないのです。
「ママー。画用紙、おしまいだよお。あたらしいの、かって…。」
「あとで。おかいものにいったらねー」
ママのせなかがいいました。しゃかしゃか、両うでをうごかして、青いロープにパパのシャツをつるしています。
「でも、いま絵をかいてんの! いま、いるのよう」
 でもママったら、しらんぷり。
「ふん」
 たえちゃんはしかたなく、画用紙の台紙のうらに、つぎの絵をかくことにしました。でも台紙は、よごれたみたいな、はい色のボール 紙です。こんなきたない紙、やだなあ。
 たえちゃんはぷりぷりして、うたいました。

 音符ゲジゲジまゆげに ギョロ目玉
  はなひげ、あごひげ まっくろけ
  おばけ雨雲 アマグモン!

 すると、ベランダからもどってきたママが、
「やーねえ、たえちゃん。そんなきたないかお、かいて。おふく、よごさないでよ」
と、まゆげのあいだにしわをよせて、いいました。
「だってっ! こんなはい色のところしか、かくばしょがないの!」
 ママはもう、つぎのせんたくものをもってベランダにむかっていきましたが、
「あらっ。雨がふってきたわ!」
と、さけびました。
 見ると、ボール紙色になった空から、ぷつぷつ、ぽっつん、雨がふりはじめたのです。ママは大いそぎで、ほしたばかりのシャツをとりいれはじめました。
 絵なんか、もうやめ! たえちゃんはいす にうしろむきにのって、ドスコン、ドスコンとゆらしました。いつのまにか、まどの外は、ザーッと、雨が線になってふっています。
「やーねえ、アマグモン、そんなきたない色で」
 たえちゃんは雨ふりの空をにらんで、ママのまねをしました。すると、むくむく、むっくり! はい色の雲がふくらみます。
「ふーんだ、お空ももっと、よごしちゃえ!」
 ドスコン、ドスコン、いすをゆすると、もくもく、もっくり! ボール紙色の雨雲は、せんたくきのあわのように、ふくれます。
「いやな雨雲、アマグモン!」
 ドスコン、ぐらり。あっ、おちる!


つづく。






Last updated  July 4, 2013 10:46:40 PM
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May 20, 2013
カテゴリ:Hannaの創作
つづきです;

* * *
 おじいちゃんのおそうしきがすんで、何日かたった。あした帰るという日、ぼくはなにげなくにわをのぞいて、びっくりした。
 便所守(べんじょのかみ)がいる。便所のうらてで、長いえのついたひしゃくをもち、バケツになにかくんで入れている。あれは、ぼくやおばあちゃん、ママ、しんせきの人たちが、たべて、出したものだ。くさいだろうな。きたないだろうな。
 便所守はやがて、バケツをさげて畑のほうへ行ってしまった。すぐ見えなくなったけれど、またもどってきて、何度もくんでいる。おじいちゃんのかわりに畑にこやしをやっているんだ、とぼくは思った。くさいのも、きたないのもかまわずに…

 夏がきた。夏休みになるとすぐ、ぼくはおじいちゃんちに行った。
「♪おじいちゃんち だぁーいすき! おいしいトウキビ できたかな」
 車の中でぼくが歌うと、ママが言った。
「…おじいちゃんがなくなったからね、あのお家も、なくなるかもよ」
「えーっ、じゃあ、おばあちゃんは?」
「おばあちゃんは、うちのちかくに小さいお家を買って住もうかって」
「わー、まいにちおこづかいもらうぞ!」
 ぼくはよろこんだあと、はっと思った。
「ねえ、じゃトウキビは?」
そしてあの便所守は? トウキビにこやしをやっていた、便所守のすがたが目にうかんだ。
「ことしでさいごになるわねえ、あのおいしいトウキビも、やさいも」
 ガーン。ぼくはしばらくだまりこんでしまった。…すぐ便所守にしらせなくっちゃ。

 その夏たべたトウキビは、歯にきゅうっとしみこむほどおいしかった。これも便所守のおかげだ。便所守は、ぼくが便所に行くとちゃんといて、いいことをおしえてくれた。
「いちばんりっぱなトウキビをのこしといて、秋にむらさき色になったらもってかえり。春になったら、たねをまくんや」
そして、またとくいそうにつけくわえた。
「たねからトウキビがはえて、トウキビにたねがなる。ええか、みんな…」
「みんなぐるぐるまわっとるんや」
 ぼくが便所守の口まねをして言うと、便所守は茶色いかおをくちゃっとゆがめて、まんぞくそうにうなずいた。
 おじいちゃんちがなくなったら、どこかにひっこすのかときいてみた。でも便所守は、ないしょじゃ、と言うだけだった。
 だが、なぞはやがてとけた。
 秋、むらさきにじゅくしたトウキビの実を、ぼくは家にもってかえった。そうして、つぎの年の春、特大のうえきばちにたねをまいた。
 その夜、ぼくはトイレに入ってびっくりした。便所守が、なんとトレーニングシャツすがたで、ちょこんとすわっている!
「どや、わしのニュールック?」
 ウインクして、にたーっとわらうそのかおは、ちっともかわっていない。
「かっこええ水洗トイレにあわせて、わしもイメ・チェンしたんじゃ。よろしゅうな」
「わあ、よろしく、便所守!」
「ダイスケくん。その便所守っちゅうのは、かえたいんや。ひっこしたし、イメ・チェンもしたし、どや、ここでひとつ、トイレマン、というんは?」
 ぼくはぷっとふきだした。
「トイレマン? ぜんぜんにあってないよ!」
 しまった。またしつれいなことを言っちゃった。ぼくはあわててつけたした。
「トイレマンじゃやすっぽいからさ、せめて、『便所の神さま』で、どう?」

                               おわり

* * *

 あとがき。出版されました『天までひびけ! ぼくの太鼓』と同じく、「おじいちゃん」のお話です。こちらの方ができたのは先で、モデルは私自身の祖父です。祖父は昭和天皇と同じ年の生まれで、1975年5月に亡くなりました。
 戸建ての「おじいちゃんち」の庭は、団地住まいの幼い私の目には広大な土地に思えました。しかし別に農業をしていたわけではなく、たぶん戦中戦後の食糧難の頃からの習慣で、自宅で食べるぶんの野菜を育てていたのでしょう。

 生け垣の下の暗がり、くみ取り便所、古井戸、ゴミ焼き穴、ウラのお風呂のたき付け口など、現在ではあまりなくなってしまった“秘密めいたちょっと怖い場所”が、「おじいちゃんち」にはありました。身近にそういうファンタジーめいた雰囲気の場所があったことを、今ではなつかしく思い出します。
 そして、自分の執筆動機というのは、結局のところ「生と死」なんだなあ、と気づきました。生と死こそは、この世でもっとも古く普遍的な神秘であるからなんでしょうね。






Last updated  May 20, 2013 10:30:08 PM
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May 17, 2013
カテゴリ:Hannaの創作
 思い立って、ずいぶん昔つくった童話を電子化しておくことにします;
 1991年、児童文芸家協会第4回創作コンクール幼年童話部門二席の作品です。二席なので、雑誌に掲載されることもなかったです泣き笑い
 選評いわく、「題名がもう少しなんとかならなかっただろうか」。うーん、そう言われましても。
 植村花菜の「トイレの神様」の歌やお話がヒットしたのは、確か2010年のことでしたねー。
 で、これは全然べつのお話です、念のため。

* * *

便所の神さま

「ダイちゃん、おじいちゃんちへ行くよ」
 やった! ぼくは思わず歌っちゃう。
「♪おじいちゃんち だぁーいすき!」
 おじいちゃんちは遠いけど、広いにわに、いいものがいっぱいある。カキの木。井戸。畑。夏休みには、とびきりのトウキビが食べられる。ほかにも、ナスにトマトにエダマメ。どれも最高においしい。
「♪おじいちゃんちの もぎたてトウキビ! やきたて あつあつ だぁーいすき!」
 でもまだ五月なので、トウキビは芽が出たところだろうな。そんなことを考えていると、
「ダイちゃん、はやくして!」
ママはなんだか、ピリピリしてる。でも、いつものことさ。
 パピューン。ママは車をぶっとばした。ぼくは、だぁーいすき、と歌っていたが、ふと、一つだけすきでないものを思いだした。
 なにかというと、それは、便所だ。おじいちゃんちの便所は、すみのかどっこにある。夜なかにえんがわをぺたぺた歩いていくのは、じつは、とってもこわい。 おまけに、水洗トイレじゃないのだ。木のふたのついた、まっくらな深いあながあるだけ。一歩ふみはずしたら、くさい中へ自分もボットンだ。ママは「おトイレ」というけど、ぼくはぜったいさんせいできない。あれは、おじいちゃんのいうように、「便所」だ。
「♪あれさえなければ いいけどなぁー、おじいちゃんちの あのべん…」
「ダイちゃん! しずかにしなさい」
 ママが低い声で言った。
「おじいちゃんね、なくなったのよ」

 おじいちゃんちについたけれど、しらないよその家みたいだった。黒いせびろふくが何人も、出たり入ったりしている。ぼくはもう、歌どころじゃなかった。まっすぐ二階へ行かされた。トウキビも、なんにも見ないうちに。
 ゆうがた、おばあちゃんが、ハンカチを目にあてて二階に上がってきた。
「ゆうべ、夜なかにお便所に行って、そのあと、またねたのに…けさになってもおきてこんかった。こんなに早く死んでしまうとは」
 おじいちゃんはほんとに死んじゃったのか、とぼくはそのとき、はじめて思った。

 夜、ぼくはもじもじしていた。トイレに行きたくてしかたない。でも、行きたくない… なぜかって、便所に行くには、くらいえんがわをとおらなきゃならない。よこのへやにはまっ白なさいだんが作られて、おじいちゃんの写真がたてかけてあった。ろうそくの火がゆらゆらゆれている。ただでさえこわいのに、これじゃ、たまらない。
 でも、もうがまんできない。ぼくはかたにぞわーっとさむけをかんじながら、えんがわのはしに立った。一、二、三、ダダーッ!
 なにがなんだか、とにかくこわい! と、
「はしるんじゃありません!」
ママのどなり声。ぼくはホーッとした。
 ガタン、と便所に入ると、あみ戸のまどから外が見えた。用心しながらふたをとって、ハアー、やれやれ、ひと安心。ぼくは、うんとのびをして、外をのぞいた。ぼうっとうすあかるい。こげ茶色の畑のうねに、ペロッとしたトウキビの芽が、ぎょうぎよくはえている。
 かすかに、畑のにおい。雨あがりの公園みたいで、ひんやり、はなのおくのほうまでしみこむ。おじいちゃんちのにおいだ。
「さてさて、いそがしなぁ」
 とつぜん声がしたので、ぼくはとびあがった。もう少しで便所のあなにおちるところだ。「だっ、だれだ」
「わしや。べんじょのかみじゃ」
 見ると、昔話のような、てぬぐいを頭にかぶった小さなやつが、便所紙(べんじょがみ)の上にあぐらをかいている。
 つけくわえておくと、便所にはトイレットペーパーがない。かわりに四角く切った習字の半紙みたいなのが、はこに入れてある。それが「便所紙」で、小男はその上にいた。
 あんまりびっくりして、ぼくはこわいなんて思うひまがなかった。そいつはくりくりした目で、かおは茶色く、しわだらけ。ぼくを見ると、にたっとわらって、
「便所紙とちゃうぞ。むかしのおさむらいは、住んでる場所の名前をとって、河内守(かわちのかみ)、とかいう。わしは便所にいるから便所守なんや」
 そうして、こんどは外をのぞきながら、
「ゆうべおじいちゃんに、畑をたのむ、て言われたけど、こりゃ重労働やな。でも、ダイスケはトウキビたべるんをいっつもたのしみにしてるから、て、おじいちゃん言うてなぁ」
 ぼくはおばあちゃんのことばを思いだした。たしかに、おじいちゃんはゆうべ便所に行ったのだ。でも、なんでこんな便所紙──じゃない、便所守なんかにたのんだんだろう?
 すると便所守はのびあがって、口をはんぶんあけ、まどの外をのぞきながら言った。
「ここの畑のもんが、あおあおしておいしいのはなんでやと思う? あんたのおじいちゃんが、便所からくみとったこやしをまいとったからじゃ。なによりええ肥料になるんやで」
「便所の? わー、きったねぇー」
 ぼくは言ったあと、口をおさえた。便所に住んでいる便所守に、しつれいだったかな?
「きったねぇーくても、いちばんの肥料や」
便所守はぼくの口まねをして言った。
「あんたのおしりから出たもんが、やさいやトウキビのえいようになっとる。それでもって、やさいやトウキビが、あんたのえいようになってるんや」
「おえーっ、それじゃ、おしりから出したものをまたたべてることになる!」
「そや。出して、たべて、出して、たべて、みんなぐるぐるまわっとるんや」
 便所守はとくいそうにふんぞりかえった。
 きゅうにそのとき、外からママの声が、
「ダイちゃん、おなかのぐあい、わるいの?」
「ううん、だいじょうぶ」
 ぼくはあわてて木のふたをした。便所を出るとき見ると、便所守がウインクをしていた。


つづく。






Last updated  May 17, 2013 11:33:04 PM
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