寒い日に...「大雪海のカイナ」TV版&劇場版
ほぼ全編寒くて、ペールトーンで幻想的な異世界を描くアニメ「大雪海のカイナ」。この季節に見ると(よけい寒さを感じるけど)いいんじゃない? と思います。 2023年にTV版を観て、続編映画はアマプラで先日観ました。 最初からアニメで創られたお話らしく、コミック版は登場人物の表情が乏しい感じであんまり良くなかった。アニメは主人公カイナとヒロインのリリハが、単純に私好みの顔というか表情というか(昭和的ともいう?)。 舞台・背景の方も、凝った設定のSFコミックスを描く弐瓶勉が原作なのでじっくり見たかったのですが、映画部分(後半)はコミカライズされてない。 で、その背景世界の第一印象は、ナウシカ&ラピュタ的世界です。文明衰退後の厳しい自然の中で、過去の遺物や言い伝えを頼りに生き抜く話なので、どうしてもそう見えちゃう。もちろん細部は異なり、極寒で昼でも薄明。泡みたいな白い小球でできたいちめんの「雪海」、そこに立つ世界樹的な巨木「軌道樹」、上空を覆う「天膜」、舞台設定はこの三つだけ。このうち巨木は、中山星香『フィアリーブルーの伝説』とか、オールディズ『地球の長い午後』とかにこういった設定があったなあと思い出します。人間が小さくて無力で、巨木や巨大昆虫が圧倒的迫力で、みたいな。 TV版では、初めて天膜に来るリリハ、初めて雪海に行くカイナ、途中旅する巨木の幹、というふうに、三つの舞台設定が紹介される感じで、ビジュアルも凝っていて楽しかったです。昆虫や海洋生物(「大雪馬」というのが超キュート)などにも、独特の雰囲気があります。 クライマックスには旧世界の怪物ロボット(ラピュタのロボットとか巨神兵みたいな)を操る悪者相手の戦争沙汰があり、これも普通に面白いです。ただ、この世界の成り立ちや危機(水源である軌道樹が枯れていく)に多くの謎を秘めたままTV版が終わったので、続編の映画版に期待しました。 ところが、映画版でも登場人物たちのストーリーは分かりやすくまとまっていたのですが、肝心の世界設定が説明不足というか、だいぶ力わざな感じで、うーん、いろいろと疑問が湧いてしまいました(以下ネタバレ含む)。 まず、伝説の「賢者」が水源すなわち命の糧として軌道樹を創ったのだから、大事にすべきだ、というのが主人公たちの信条。これに対して独裁者ビョウザンは、「賢者の記録を読んだら軌道樹を切り倒せとあった」と言って怪物ロボットを使って軌道樹の親玉「大軌道樹」の破壊を試みる。 この時点で思ったのが、ヒロインのリリハを始め多くが過去の文明を賢者って崇めてるけど、過去文明はなにか過ちを犯して滅んじゃって、あげくにこんな極寒の環境になったり水が涸れたりしてんじゃないの? ということ(冒頭にそんな解説があった)。賢者を盲信していいのかなあ。 もう一人のヒロイン亡国の女戦士アメロテは、現在の状況から、軌道樹を無くするのが正しいかもしれない、と言っています。けれど現在の世界しか知らない登場人物たちが、その世界の文字通り根幹である軌道樹を破壊することは、心情的にも無理でしょう。無理を通すには、ビョウザンのようにパラノイア的カリスマ性で皆を強引に引っ張るしかないのかも。ただしビョウザンは選民主義の妄想狂で、ムスカみたいで、いつ「人がゴミのようだ」と笑っても不自然でない感じだったけど。 このように考えると、このお話自体が、記録や歴史の継承・その正しい読み解きの大切さを説いているのかな?という気もしてきます。 ともあれ、主人公カイナは幸い文字が読めたので(一般人は文盲なのです!)、滅びた文明装置の記録・制御室へ入り、装置を読解することができました。この場所が弐瓶勉の真骨頂だろうと思ったのですが、いやまず、そこへ入るのに暗証キーがあるけど暗証番号がすぐ横の壁に手書きで書いてある、っていうのがダサすぎです。 なぜ書いてあったのか、たとえば部屋を閉ざした過去の人々が、きっと衰退した子孫たちは文字も読めなくなってるだろうと予測して壁に書きなぐっておいたのでしょうか? そのいきさつが分からないと、この場面はつまんないですよね、謎解きの一つもなく暗証番号が分かってしまうなんて。 部屋の中は、とってもハイセンスな情報装置が独特の雰囲気を醸し出していてステキ。なんですけど、あっという間に映像が流れていくので、映画を観る方も静止画面にして、東亜工業(弐瓶勉のトレードマーク的な)の文字を読み取らねば、この世界全体の設定である、惑星改造、地球化計画などはわかりがたいのです。 その後のいくつかの場面でも、細部の文字を読み取って、私にもようやく分かってきたのは、賢者=惑星改造者ではないかもしれない、ということ。実は天膜・軌道樹・雪海などは、惑星改造者がテラフォーミングを自動設定して創った人工環境なので(ああナウシカ世界だなあ)、そのままいけば時至れば自動的に軌道樹は切り離されて一大変動が起こり豊かな土地や水や光が惑星に満ちるはずだったのでしょう(それにしてももう少しゆるやかな変動にしないといろいろ悪影響がありそうですね。最後の場面、軌道樹を衛星軌道に打ち上げちゃったりして、宇宙に破片がいっぱいでしたけど)。 ところがこの自動的な計画に途中で故障が起こったらしく、支障、修復などの文字が見えます。修復はされたものの、その後は自動装置のタイムテーブルがうまく進まなくなったようで、次の命令待ち(と書いてあります)の状態だったよう。 そこで、キノコのような精霊「ヒカリ」の登場です。賢者の使いだというんですが、この精霊が人の心を読んで、思いやりのある人物2人にある言葉を言わせることで、惑星化計画の最後の一大変動へのゴーサインとする、と設定し直したようなのです。 TV版の頃から出てきたこの精霊、SF的設定にあまりそぐわない気がしてましたが、たぶん最初の計画が破綻したあと修復した人(それが「賢者」かな)の、AIかなんかだと理解すると、SF的に落ち着きますね。清い心の持ち主にしか見えないなどと、仕組みが今ひとつ理解不能ですが…、ファンタジーならいいんですが、この話は設定がSFだと思うので、なにか理屈が欲しい感じ。 結局、カイナとリリハは2人で声を合わせて精霊に惑星化計画完了、と言うことで、世界を救い、新たな世を導きます。うーん、「バルス」ですねこの場面。肝心なところでラピュタを思い出させちゃうって、やはりもう一ひねり足りないのではないかしら。 などと、あれこれツッコミつつ、これは「シドニアの騎士」または「人形の国」なんかと時系列でつながるのかなあ、とちょっと空想が広がります(よく知らないけど!)。