June 4, 2018

『英国幻視の少年たち』1--あまり英国的でない緻密な心象風景

 読書メーターのランキングでタイトルを知って、何しろ「英国」「幻視」ですから、作者や作品についての予備知識もなしに1巻「ファンタズニック」を読んでみました。

 文章がみずみずしくて「現在」ですね。現代の若者の心のヒダを緻密に、でもくどくなく、流れるように綴っていて、このお話に出てくるピュアな精霊の銀の髪の毛に似ています。言葉遣いが若くて、テンポがよい。
 おもしろいのは、主要な登場人物カイとランスが、どちらもテンポの良い方ではない、むしろスローでぐるぐるして、微妙な間合いが常にあるようなタイプなのに、カイが一人称でつむぐ二人の様子ややりとりが、とてもアップテンポでリズミカルなこと。

  「…ってなんだよ」「なんとなく」「とりあえず」「みたいだな」「とにかく」「…だ。いや、…かもしれないけど」

というような表現が多発するわけです。まるでコミックスのセリフとか、ラップみたいに心地よい。まあ、これをアップテンポと感じる自分は、前世紀の遺物かもしれませんが…。

 で、イギリスの地方都市の風景、丘とか大学構内の木立や湖とかが舞台で、お皿洗いをしてくれる小さな妖精もさっそく出てくるんですが、なぜか、思ったほどイギリスっぽくないんですね。
 でも私の思うイギリスは古くさい前世紀、いやもーっと昔の小説や映画の中のイギリスで、私の旅行したイギリスもかれこれ30年ほど前ですから、たぶん現在のイギリスとは雰囲気が違うのかもしれません。

 妖精も、あとから出てくる水の精たちも、イギリスの妖精っぽくなくて、日本のアニメやコミックスの妖精みたいな印象。つまり非常にリアルなつくりもの、CGみたいな。
 ランスも、英国人だぞというより現代青年。コミュニケーションや自己主張に対して腰が引けていて、表情・表現にとぼしく、でも内面は優しくて繊細で個性豊か。そこんとこは、カイ(日本人)と同じ。
 たとえば各所でこまかく描写されている、息を吸って、はいて、という動作。カイは自分が生気に乏しいことを意識していて、生きている/死んでいる の違いにこだわっています(生きる/死ぬではないのが、ミソ)。でも大げさに悩みまくるんじゃなく、息を吸ってはく、ひとつひとつのかそけき呼吸を、そっとそっと意識して積み重ねていくんですね。そういう生き方してるんだ、現代の若人。
 
 というわけで全体的に期待外れだったか、というと、そうでもないのが不思議。それはそれで独特の世界を醸し出していて、ある意味幻想的。妖精スーの言葉を借りると、「あまい」世界。
 (この「あまい」のいろいろな使い方が、すごくいい。はっきり説明できにくいニュアンスを的確に「あまい」と言い当てている感じ。)
 そこへ、唯一原色でなまなましく圧倒的なのが、白い雪/肌と赤いマフラー/血の記憶。印象が強烈で、「あまい」幻想体験すべてを上回っています。もしかして、だからイギリスっぽくないのかな?

 こんなふうに、いろいろと楽しめたお話でした(ラノベだったんだ、と読み終わって知りました。こういうラノベもあるのですね)。続きもあるようです。そのうち。(ちょっと文体が伝染っています。)





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Last updated  June 5, 2018 12:13:27 AM
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