文春新書『英語学習の極意』著者サイト

2005/09/04(日)13:13

『北京のスターバックスで怒られた話』

読 書 録(57)

夜、電話で、うら若い女性から 「わたし、さびしい」 と何度も言われたら、さあ、どう解釈する? 相原 茂さんという、なかなか洒脱(しゃだつ)な中国語教育者がいる。 NHKの中国語講座でも、おなじみ。 こんなことを書くと、自称「中国語のプロ」の沽券(こけん)にかかわるのだが、じつは この人の『はじめての中国語学習辞典』、けっこう愛用している。 コンパクトながら例文豊富で、学習者の望むツボをよく心得ていらっしゃる。 相原先生の語学エッセーを読んだ。 『北京のスターバックスで怒られた話』 本の題名になっているエッセーも面白いが、いちばん面白かったのは、中国人留学生から夜の10時ごろ電話で、 「先生、わたしさびしい」 ということばを連発されたという話。(69~71ページ) ≪これが日本人女性から言われたのなら喜んでいい。 恋のはじまりかもしれない。≫ そうでしょうよ。 瞳のくりっとかわいい子に言われたら、天にも昇る心地でしょう。 ≪しかし中国人女性が言っているのだ。 これは“我很寂寞。”を日本語にしただけだ。 ただ客観的に「私はいま孤独だ」と描写しているにすぎない。 日本語ほどの情緒はない。≫ うん、そうなんだよな、たぶん。 中国語って、けっこう即物的だから。 だから恋愛小説が発達しなかったのかしらん。 とすると、日本の小説に 「先生、わたしさびしい」 とあったら、中国語では 「先生、わたしは性欲を抑制できません」 と訳すのかね。 いや、これも単なる「客観描写」と解釈されるから、バツ。 もっと単刀直入に先生への「ご依頼文」にしなきゃいけないのかね。 まあ、それは冗談として、相原先生の経験談はもっと強烈。 「家は近くだから、ちょっと寄っていってください」 と留学生嬢に言われて、階段を上がると、 ≪6畳1間ぐらいの部屋の中央に、どーんと布団が敷かれていたのである。 布団がまるで部屋の主のような風景だ。 彼女は、さあどうぞと言う。≫ ここから先は明かせないが、いやぁ、異文化というのは面白い。 ちなみに、相原先生はいま 57 歳だが、この6畳1間の話は十数年前の話だそうで、とすると先生の年齢は いまのわたしより若かった。 先生、よくぞ冷静なご判断が……。 なお、この本、基本的には中国語学習教材の延長だ。 「Hはときに激しく」 という、思わせぶりなタイトルのエッセーもあるが、セックスとはまったく関係がない。 音声としての "h" 音について書いたものなのです。 基本的には中国語の中級学習者以上が対象の本なので、この点、さいごにおことわりしておきます。

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