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2008/05/30(金)00:13

「ルドルフ」の笹本玲奈さん 安らぎのなかに凄絶がこもる

映画・演劇(とりわけミュージカル)評(243)

笹本玲奈さん。5月27日の公演終了後のトークショーが、体調不良でかなわなかったことのおわびが ブログ「れなにっき」 に書かれていました。 元気になって! 年齢からいえば 「娘のことみたいに心配しました」 と言えばいいんだろうけど、それはもう、自分の心の引き出しを全部開けて、笹本さんが千穐楽まで無事に演じとげてくれることを祈りました。 というわけで、公演残すところわずかの「ルドルフ」、5月29日の夜の部を観てきました。 前回観たとき は、笹本玲奈さんが肩の力を抜いて素直に華やぎながら、そのエネルギーでもって哀しい局面もぐいぐい駆け抜けているところに惹かれました。 今回の笹本さんの演技は全体に翳(かげ)りを帯びていて、ところどころは「マリー・アントワネット」の悲壮なマルグリット調もかすかに復活して、男爵令嬢マリー・ヴェッツェラの心情の起伏がより鮮明でした。 だからでしょう、マリーが皇太子ルドルフとの死を決意してからの美しさは凄絶みがあった。 安らいだ表情でありながら凄絶を感じさせるというのは、笹本玲奈さんの新たな境地です。 それまでのマリーの美しさと、顔の表情にはたぶん何も変わりがない。 同じように安らかな微笑みがある。 なのに、死を意識したあとのマリーに感じられるひたむきさは、これは演技の表面とは別の、たぶん 「気」 のちからで表現されているのでしょう。 本調子ではないところを一生懸命乗り切ろうとした瞬間に出たパワーなのかもしれません。 全体のストーリーを知ったあとで改めて2度目を見て、笹本玲奈さんの役づくりに感銘を受けました。 やはり2度観る価値のあるミュージカルでした。 手品師として短い杖をあやつりながら神出鬼没のヨハン・ファイファー、浦井健治さんの軽やかな身のこなしが心憎い。 こんなにカッコいい役って、ぼくは知らない。 カーテンコールのとき、浦井さんの順番が早すぎたように思うな。 ぼくが女性だったら、ヨハン・ファイファーの奴隷を志願するだろう。 劇場を出てなお耳に残るメロディーの筆頭は、やはりヨハン・ファイファーの 「見たいものだけ 見ればいい ここはウィーンさ」。 笹本玲奈さんの声の美しさは言うまでもないけれど、歌声をあやつる確かさでいえば、第2幕の香寿たつきさん 「愚かな英雄」 に最高点を差し上げたい。 香寿(こうじゅ)さんと岡幸二郎さんは、まさに 「このひとが舞台にいる限りお芝居に失敗はありえない」 と思わせてくれるひとだ。 井上芳雄さんのルドルフも、今回は凄みが空回りすることなく、とくに第2幕なかば、大衆に自由の夢を歌いかける 「明日への階段」 が躍動にあふれて、歴史の瞬間を追体験するようなスリルさえ感じた。 奥行きのある舞台空間の活用も絶品。 6月1日まで帝国劇場で公演。

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