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2009/02/16(月)08:21

「罠」 @ シアター1010 ミステリー脚本のみごとな力

映画・演劇(とりわけミュージカル)評(243)

小鳥のさえずりが聞こえる山荘で、男が自分と周囲に八つ当たり状態だ。 妻のエリザベートが、夫婦喧嘩のあとふいにいなくなり、かれこれ戻ってこないのだ。 もちろん、警察には届けを出した。捜索は進展しない。 神父がやってきて、 「エリザベートさんをお連れします」。 ところが、やってきた女は「なりすまし」なのだ。 直ちに 「こいつは、なりすましだ」 と訴えるのに、そして闖入(ちんにゅう)女も男をさんざん嘲笑するというのに、「なりすまし」 であることをなぜか周囲に証明することができない……。 この状況だけでも劇として十分たのしめるが、あるところで、天動説から地動説へと観る者を突き落とす仕掛けがある。 ロベール・トマの書いた、昭和35年初演のミステリー・サスペンス Pie`ge pour un homme seul(ひとりきりの男への罠)。 古典的傑作と言われるのも、よくわかる。 観てよかったと思った。 一度観てスジは知ってしまったけど、いろんな演出で上演されてきた劇らしいので、こんどはまた別の演出で、役者さんの表情の機微を追いかけてみたい。 * 白石美帆さん演じるエリザベートなりすまし女のふりまく嘲笑は凄みがあった。 大口兼悟(おおくち・けんご)さんのカンタン警部も堂々として、しまった演技。 川岡大次郎さんの演じるマクシマン神父も、じつに憎たらしい出来に仕上がった。 しかし、主役の俳優さん (このひと目当てで来た若い女性が多かったと思うが……) の演技は、最初からほとんど最後まで八つ当たりの絶叫調で、テンションに早々に飽きてしまった。 どうも主役さんだけは学藝会になってしまっていた気がする。 声が思うように出なかったのが絶叫調を助長したのかもしれない。 スジから言えばあの演出でよかったのだろうか。 その主役さんも、最後のシーンはみごとだった。 (2月22日まで、北千住のシアター1010で。 この劇場は、エレベーターが不便なので、マルイ店内のエスカレーターを上がってゆくのがコツです。)

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