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2009/05/19(火)23:33

現代能楽とおもって観るといい 「タトゥー」@新国立劇場

映画・演劇(とりわけミュージカル)評(243)

父と娘が悦びつつ交わる、南の国のどこかの部族の習慣にセリフが及んだと思ったら、これが伏線だった。 長女が父の子を孕(はら)み、次女が父の子を孕みという筋立てだが、ストーリーが感動を呼ぶお芝居ではない。 現代能楽の実験に軽くお付き合いするつもりで観れば、1時間半の1幕ものに大きな不満なく劇場をあとにできる。 セリフが徹底して情緒を廃し、掛け合いのことばがすべてト書きを読んでいるような棒読み調だ。 素人がこれを真似たら、単純に 「下手」 と判断されて罵声が飛ぶだろうが、さすがにプロの役者さんだから、棒読み調なのにだんだん不思議なリズムがことばを支配していることに気づかされた。 そういえば能楽も、セリフが徹底して棒読みであることによって、非日常・非現実の言語空間をつくり、劇的効果をあげる藝術だ。 ドイツの劇作家の平成4年(1992)の作品だが、セリフは多くの ほのめかし で成り立ち、素直な会話が存在しない。 象徴性の積み重ねばかりで、とくに前半はいささかダレた感じだが、後半は観ているこちらが慣れてきたせいもあって、だんだん楽しめるようになった。 前半のテンポをもう少し上げ、セリフにおりおり自然な会話調をまぎれこませれば、これが棒読み能楽のなかで面白いアクセントになるはずだ。 翻訳は、いかにもうちの娘がものうげに喋っているような雰囲気が出ていて、いける。 舞台美術を見るだけでも、一見の価値はある。 天井から吊り下がる 「窓」 のオブジェ群は、劇への期待感を大いに高めてくれた。 あまり万人ウケしそうにない劇だったが、小劇場はほぼ満員だった。 「父」 ヴォルフガング役の吹越 満(ふきこし・みつる)さんと、「長女」 アニータ役の柴本 幸(しばもと・ゆき)さんの集客力だろうか。 (5月31日まで、東京・初台の新国立劇場小劇場で上演)

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