2009/08/31(月)00:40
民主党政権は国債の大増発で禍根を残す
民主党政権の財政の論客として、これからは早稲田大学の榊原英資(さかきばら・えいすけ)教授のメディア露出度が増すだろう。
榊原氏は民主党のブレーン。
積極的な国債増発論者である。
民主党は、公約実現のための財源を国債の大増発に求めるだろう。
民主党マニフェストを改めて読むと、国債増発をしないという約束はどこにもない。
(消費税の税率を4年間は上げないという鳩山由紀夫代表の口約束はあったけど。)
■ 「日本全体で見れば借金はない」 ■
まず、榊原英資氏の主張を聴こう。
日本の財源は、どうせすでに一般会計歳出の4割が国債の発行でまかなわれているのだから、あらたな財源が必要なら国債でまかなえばいいじゃないか。
これが、氏の主張である。
≪今、日本の国債と地方債は合計で 800兆円。
日本人の貯蓄残高は総額 1,500兆円だから、日本全体で見れば借金はない。
国債は有力な財源だ。
子ども手当も、高速道路の無料化も、暫定税率をゼロにするのも、国債を発行すればいい。
国債の長期金利は今、1.45%で決して高くない。
これから20兆、30兆円を追加発行しても、10年債で2%は超えないだろう。
1,000兆円ていどまで行っても、そこで止まれば問題ない。≫
(産経新聞、平成21年8月21日号8面の榊原氏発言)
これをす~っと読んでしまうか、電卓を叩いてみるかで、判断はずいぶん変わってくる。
現状、1.45%の金利で 800兆円を借りている。
金利負担だけで年間 11.6兆円。
1日あたり 318億円。
1時間あたり 13億円。
あえて扇情的な言い方をすると、
国債を買えるような富裕層のために、国民全員で毎時13億円払い続けているのである。
家族4人の平均的家庭が1日あたりに負担する国債金利は1千円と計算できる。
1年あたり36万円。
国債・地方債が800兆円あるというのは、そういうこと。
各家庭が年間36万円のカネを、国債・地方債の金利として金融界・富裕層に貢ぎ続ける世の中を意味する。
(年間36万円というのは、金利分だけ。
元本を返済しようとするとどうなるか、電卓で試算してみてください。)
■ 1家庭、1年間に63万円の金利負担 ■
榊原氏は言う。
≪財源論はナンセンスだと思う。
財源の話になると、増税か歳出減かの二者択一になる。なぜ、国債発行を財源の選択肢に入れないのか。≫
榊原英資氏の言うように国債を1,000兆円まで増やし、榊原氏が許容する金利2%を適用すると、どうなるか。
年間の金利負担は20兆円。
1日あたり547億円。
1時間あたり23億円が、日本国民の負担する金利である。
家族4人の家庭が1年間に負担する国債・地方債の金利は 63万円に達する。
(しかも、金利分だけ。元本返済分は入ってません。)
榊原氏に言わせると、63万円が高いか安いか論ずるのは 「ナンセンス」 なのだろうが、読者諸賢はいかがか。
ちなみに63万円の消費税を支払うには、1,260万円分の買い物をしなければならない。
63万円とは、そういう金額だ。
「国債増発は、未来の世代にツケを回すことになる」
と、よく言われるが、未来世代どころか現役世代にずしりとくるのである。
■ 少子高齢化で、貯蓄率が急落しつつある現実 ■
榊原英資氏の強気の辯(べん)は、
「日本人の貯蓄残高は総額1,500兆円だ」
という事実に基づいている。
だから、あと200兆円くらい借り増ししても問題ない、と榊原氏は言う。
財源の当てがないのに マニフェストで約束してしまったバラマキ政策を実現するため、 民主党政権は榊原英資氏を御用学者として推し立てるだろう。
*
ところがじつは、そもそも日本人の貯蓄率が急速に低くなっているという、別の事実がある。
東京大学の伊藤元重(いとう・もとしげ)教授が 『VOICE』 誌8月号29~31ページに書いている。
≪日本の家計部門の貯蓄率が急速に低くなっていることを知っているだろうか。
1990年代の初めには15%もあった日本の家計部門の貯蓄率は、2007年には3%前後まで下がっている。≫
≪もっとも説得的な理由は少子高齢化の進行である。
人口のなかに占める高齢者の割合が増えるほど、経済全体の家計部門の貯蓄率は低くなる傾向になる。≫
≪金額で見ても、約 1,400兆円あるといわれる個人金融資産の 70%前後が 60歳以上の人によって保有されている。≫
≪若いときには たくさん稼いで貯蓄に回し、 年をとったらその貯蓄を崩して消費に回していく。
これは1人ひとりの個人についていえることだが、同時に国についてもいえることだろう。≫
■ 60歳以上の人びとが貯蓄を食いつぶす ■
国債・地方債を日本国内の低金利の資金で消化できるのは、1,400~1,500兆円の貯蓄をかかえる銀行が国債・地方債を買っているからだ。
金利をいくら払っても、日本人が日本人に支払うカネなのだから国外流出はない、という安心感が国家財政の借金を増やしてきた。
だが、そんなラクな世の中がいつまで続くのだろう。
「約 1,400兆円あるといわれる個人金融資産の 70%前後が60歳以上の人 (=新たな所得がほとんどない人) によって保有されている」
ということは、どういうことか。
約 1,000兆円の貯蓄が60歳以上の人たちの個人資産なのだが、高齢化に従ってこれがどんどん食い潰されてゆく。
貯蓄率は下がっているのだ。貯蓄残高は確実に減ってゆく。
伊藤元重氏も言う。
≪通常は政府の財政状況が悪ければ、長期金利の急騰が起こるか、悪性のインフレとなることが少なくない。
日本の場合にそうしたことが起きていないのは、潤沢な国民の貯蓄資金が国債をファイナンス(=金融的下支え)しているからだ。
国民の多くが銀行などの金融機関に預けた貯蓄の相当部分は、政府の国債購入に回っているのだ。≫
■ 貯蓄残高が政府債務をカバーできなくなる日 ■
≪問題はこうした政府債務のファイナンスがいつまで持続可能であるのか、ということだ。
増えつづける国公債を誰が所有してくれるのか。≫
コラム前半で、榊原英資氏の説に基づいて行った計算を振り返ろう。
国債を 1,000兆円まで増やし、許容できる金利として2%を適用すると、家族4人の家庭が1年間に負担する国債・地方債の金利は 63万円に達する。
榊原説に乗って国債を増発したあと、貯蓄残高が落ち込んでいったらどうするつもりだ。
日本人の貯蓄残高にオンブにダッコができなくなると、国債の借り換えをするたびに、金利3%、いや、4%…… と高金利で資金調達しなければならなくなる。
ないしは、俗な言い方をすれば日本銀行券を刷りまくって、つまりインフレを起こして借金を目減りさせるという荒療治が必要となる。
■ ワイドショーにご注目 ■
民主党は、来年の参院選で負けぬよう、バラマキ公約実現の財源を、けっきょく国債に求めるだろう。
ワイドショーに榊原英資氏が出始めたら、この配信コラムを思い出していただきたい。
国債増発で各家庭の金利負担が加速度的に増えるくらいなら、消費税率を上げて国家財政の健全化を図るほうが、痛みが少ないはずだ。
電卓で計算してみよう。