文春新書『英語学習の極意』著者サイト

2009/11/15(日)23:41

憲法停止に等しい小沢一郎氏の手法

日本の政治(107)

 沖縄県庁の幹部職員が防衛省や国交省に陳情に行く。  経団連の役員が経産省へ陳情に行く。  自民党時代に、自民党の幹事長が 「これから中央官庁への陳情は、かならず自民党の県連などを通じて自民党幹事長室に集約すること。 自民党幹事長室を経由せずに政府へ直接陳情しても、門前払いにしてやる」 と発表したら、どうなったろう。 「自民党幹事長は、自分を何さまだと思っているのか」 「自民党は政府を私物化する気か」 と、世の中がひっくり返るほど非難囂々(ごうごう)だったはずだ。  耳と口がある者どうし、地方自治体や業界団体と中央官庁が政策につて直接相談するのが、なぜいけない。  ところが、である。  11月2日に民主党がまさにそういう役員会決定を発表したのだが、世の中はじつに静かだ。  いったいどうなってしまったのか。 ■ 小沢一郎幹事長へ全国からの陳情を一元化 ■  日本各地でどんなことが起き始めているか。兵庫県の例を見てみよう。11月8日の『神戸新聞』報道 から。 ≪民主党兵庫県連 要望・陳情窓口を設置  民主党兵庫県連は7日、常任幹事会を開き、県内の自治体や業界団体、 個人からの政策要望や陳情に対応する  「民主党兵庫県連政策会議(仮称)」 を設置した。 自公政権時代は中央省庁の官僚らが直接、要望などを受ける形だったが、民主党は 「霞が関詣で」 の一掃を図っている。 政官癒着の排除と利益誘導型政治からの脱却を目指し、透明性、公平性を確保する、としている。 今後は、まず民主党の都道府県連が地方の要望・陳情を受け付け、民主党本部幹事長室に伝える仕組みを築く。 民主党の小沢一郎幹事長のもとで一元化された要望や陳情は、優先順位を付けた上で政府の内閣府・各省の政務三役 (閣僚、副大臣、政務官) に取り次がれるという。 この日、新たに設けた民主党兵庫県連政策会議の議長は、11月28日の民主党県連定期大会までは辻泰弘代表 (参院兵庫選挙区) が務め、要望・陳情を受け付ける。 その後は、民主党県連定期大会で選出される予定の新代表が対応に当たるという。 (藤原 学) ≫ (分かりやすいように 「民主党の」 というような語句を適宜補った。) ■ 「陳情の取捨選択」 こそ権力 ■ 「政官癒着の排除と利益誘導型政治からの脱却を目指し、透明性、公平性を確保する」 とは笑わせる。  小沢一郎氏の野心は、じつに分かりやすい。  これで首相職は飾り物、民主党幹事長の操り人形だ。  全国の都道府県からの陳情の宛先はこれまで、公的機関たる内閣府や各省だった。  そこから専門部局による取捨選択が行われ、首相へ集約された。  陳情者は相手先の官庁に頭を下げる。  官庁の頂点に、首相がいる。  陳情の取捨選択・順位付けの最高責任者は、首相である。  ところが今後は、全国の都道府県からの陳情は、政党という私的組織の幹事長を宛先にせよという。  首相が関与する以前に、私人たる民主党幹事長が、全国の公的機関 (都道府県庁) から公的機関 (中央官庁) への陳情の取捨選択・順位付けを行うというのだ。  首相が出る幕がない。  陳情者は、首相には頭を下げず、生殺与奪の権を握る民主党幹事長に頭を下げる。 ■ 「法治」 が滅び、「人治」 がのさばる ■  民主党という私的組織が陳情をどのように処理すべきか、これを縛る法律はない。  公的行政機関ではないのだから。  民主党は行政機関ではないから、行政手続法には縛られない。  不当な処理をされても、行政訴訟を起こすこともできない。  幹事長の匙加減ひとつで、気に食わぬ陳情は潰し、媚びへつらう者の陳情は優先順位を上げてやることができる。  不公平がまかり通る。不透明の極み。  法によって陳情処理手順や説明責任が決められていないから、民主党幹事長は何でもやり放題だ。  「法治」 がほろび 「人治」 がのさばる。 まさに、中国共産党の天下を思わせる。 ■ 憲法の想定外 ■  日本国憲法からいえば、民主党という私的組織が勝手に党としての方針を決めたとしても、地方自治体や業界団体がこれに従う必要はない。  国民からの陳情に対して政府機関が門戸を閉ざし、私的組織たる一政党を政府機関のエージェントとして指定し、陳情を政党経由とすることを義務付けることなど、憲法や諸法規はまったく想定していない。  しかしこのままいくと、やがて世の中は なだれを打ったように、民主党幹事長という一点に向かって頭を下げる。  陳情が向かう宛先が、これまでは公的機関たる各官庁に分散していたが、これからは私的組織たる民主党幹事長室に集中する。  せっかく陳情を行うからには、高い優先順位で関係省庁へ取り次いでもらわねば意味がないから。  日本国憲法は、私的組織たる政党の内なる幹事長が、国家における絶大な権力をもつことを、まったく想定していないのに。  立法機関に代表を送り込むことを目指して設立されたはずの政党が、あたかも行政機関のようにふるまうなら、公私混同の極みであり、三権分立への不敵な挑戦だ。 ■ 福井県の場合は ■  『朝日新聞』 福井版の11月15日の報道 を読んでみよう。 (分かりやすいように語句を補ったので、正確な原文はリンク先で読んでいただきたい) ≪陳情、紹介なしは 「NO」 民主県連が窓口 民主党本部が国への陳情の窓口を民主党の都道府県連に一本化する方針を示したことを受け、民主党県連 (松宮勲代表) は11月14日、福井市大手二丁目に週内に新設する民主党の県連本部に首長や業界団体からの陳情窓口を開設することを申し合わせた。 週1回、民主党の国会議員ら3人が対応し陳情をさばく。 民主系地方議員の紹介を不可欠とするシステムを導入し、所属議員の影響力拡大をねらう。 自民系の首長や団体は厳しい対応を迫られそうだ。 民主党は11月2日、民主党所属議員が受ける陳情や要望を民主党本部で一括管理し、政府に橋渡しする仕組みを民主党役員会で決定した。 民主党幹事長室が受付窓口となり、各省庁の民主党など与党出身の政務三役に知らせる。 民主党幹事長室へ地元の陳情を伝える役割は民主党都道府県連が担う。 福井の場合、首長や団体は最初の窓口として民主党県連の地域戦略局を必ず通さなければならなくなる。 民主党県連によると、国に対しインフラ整備など地元の政策課題について陳情を希望する場合、首長や団体は地元の民主系地方議員と相談した上で、その紹介がないと民主党県連の地域戦略局は相談に応じないという。 例えば、福井市長が相談したい場合、民主会派の福井市議の 「紹介状」 が必要になる。知事も例外でないという。 民主党県連は近日中にホームページ上に、陳情・相談を申し込む際のマニュアルと用紙を掲載する。窓口開設は11月21日午前10時、笹木竜三衆院議員と山本正雄、鈴木宏治の両県議が相談員となる予定。 陳情が殺到することも想定し、行政や政策に精通した民主党県連地域戦略局専属スタッフも増強する。 今週中に県内の首長らに陳情の新システムを書類で通知する。 この日、福井市内で開いた民主党県連幹事会で、実際に首長らから相談を受ける県議や市議、町議に対し、民主党県連地域戦略局長の糸川正晃衆院議員らが新しい陳情の仕組みについて 「地方議員の地域への影響力を強めるためのシステムだ」 などと説明。 出席者からは 「一気に陳情がくれば、さばけるか」 と心配する声も上がった。 (足立耕作) ≫ ■ 全国知事会が反対の声を上げよ ■  この記事で民主党衆議院議員が自ら 「民主党の地方議員が地域への影響力を強めるためのシステムだ」 と語っている。  要は、民主党のご都合なのである。  全国の都道府県、市町村から陳情の相談が民主党議員ないし民主党系議員に向けられることになれば、集まる情報も飛躍的に増える。  陳情相談で頭を下げられる機会が増えて、権威も高まる。  地方組織を急拡充したい民主党にとっては、まことに都合のよい仕組みだ。  しかし、その行き着く先は「立憲政治の危機」だと思う。  全国知事会や全国市長会で反対の声を上げてほしい。  メディアは何をボケているのか。  「自民党幹事長が同じことをたくらんだら、どんな激しい反対論陣を張ったろうか」 と自問しながら、メディアの責務を果たして欲しい。

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