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Mar 6, 2010
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テーマ:詩(875)
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
ぼくは大学1年の11月に自分で詩集 『ハイウェイの木まで』 を出してから、結局そのあとが続かなかった。

東京があまりに彩りにあふれていて詩に専念できなかったのと、せっかく本として出したのにキャンペーンが下手で次の一歩につなげられなかったのと。

駒場祭に屋台を出して詩集を売ったあと、 『詩と思想』 という詩誌から声がかかり、昭和54年3月号の 「座談会・二十歳の見た現代詩」 に顔写真入りで登場し、作品1篇も載せてもらった。

いま思えば、取っ掛かりとしては相当恵まれていたのに、それを次につなげられなかったのは、ぼくに詩の道を進もうという努力の心がなかったせいだ。

詩作が進まないなら、英語やエスペラントの現代詩の翻訳に取り組む手もあったのだが、おもえば大学のころはエスペラント雑誌の編集や学習記事執筆に夢中で、そちらに時間をささげすぎてしまった。



さてこの、平田俊子さんの詩集 『詩七日』。

書名が、死者を祀るあの 「初七日(しょなのか)」 のモジりと思い、いささかあらたまった気持ちで読み進み、ふとあとがきを見たら 「詩なのか? (=これって、詩なの?)」 のモジりと知った。
はなはだしい拍子抜け。

詩集のなかの6作目 「六月七日」 を読んで、がしっとつかまれてしまった。
端的にクライマックスに跳び、芝居の山場を味わえる快感が、よい詩にはある。

≪ゆうべ誰かがやってきて
泊めてほしいとつぶやいた
ためらいもせず部屋にあげ
ドアを閉めると
二重にカギをかけた≫


これが、第1聯(れん)
読み返してみると、さいしょの3行に7・5のリズムがある。すっと引き込まれたのは、そのせいもある。

安部公房作品のような肌合いのちょっとした非現実。
これっくらいの非現実が、ぼくにはこころよい。

≪この日がくるのを待っていた
この人がいつか ひとを殺して
匿ってほしいといってやってくる日を
そしたら命がけでこの人を守ると
何年か前 こころに決めた
この日のために引っ越しもせず
電話番号も変えなかった≫

第3聯。谷川俊太郎さんの詩を読むようなリズム感。
ドラマのエッセンスを一気にあおる高揚感がある。

そして最後の3行。

≪もう何があってもきみをはなさないよ
古ぼけた映画のセリフみたいなことを思い
やせこけた頬をつついてみたりした≫


この、かろみ。このかろみが、またいい。
かるいのに、しっかり色がつき、適度に脂がのっている。
やられた。じつに、正統派の現代詩だ。


いっぽう 「十三月七日」 は、母と自分のことを書く。
これも、最後の聯の転進がうならせる。
教科書に載せたいくらい、うまい。

≪シミやシワをきれいに隠す
液体のファンデーション
わたしはそれで
自分のこころを
隠そうとしているのかもしれない≫

「自分のこころを隠す」 というモチーフが、それまで語ってきた母との自分史を総括していて、すとんと落ちる。



平田俊子さんという詩人を、ぼくはまったくフォローしていなかった。
つまるところ、大学2年生のころ現代詩から離れてしまったぼくは、詩人の知識が荒川洋治さんや伊藤比呂美さんどまりだ。

調べたら、平田俊子さんは伊藤比呂美さんと同年の昭和30年生まれだった。

荒川洋治さんや伊藤比呂美さんの最近の詩集を読んだが、ぼくの心にはもう響かなかった。
このふたりの詩人は、ぼくから見てあまりに最果てのところに行ってしまった。

平田俊子さんの構成力、ことばへの愛着、はずし方の適度さ。
これから、平田さんの作品をいろいろ読んでみようと思った。

『詩七日』は、しらべたら第12回萩原朔太郎賞を受賞していた。納得の受賞。

(『詩七日』 思潮社、平成16年刊、1,800円 + 税)





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最終更新日  Mar 6, 2010 09:19:25 PM
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