文春新書『英語学習の極意』著者サイト

2010/04/11(日)23:38

「江戸」 は 「金沢」 を模倣した、とは?

金沢城公園・兼六園とその周辺は、金沢21世紀美術館をふくめ、あたらしい血が通う文化空間として育まれていて、みやこの構想力を感じさせる。 4月10日には、石川県政記念しいのき迎賓館 が金沢21世紀美術館の向かいにオープンした。 大正13年竣工の 旧石川県庁舎のファサード (正面側) はそのまま生かし、建物の裏側はガラスでモダンに仕上げ直した。 ふつうなら全館を美術館として利用するところだが、しいのき迎賓館はレストラン・喫茶室と貸出スペース (集会室、画廊) が中心だ。 この一帯にはすでに美術館がひしめいているので、さらにもうひとつ美術館をつくることは避けたのだろう。 むしろ憩いのスペースをつくろうという判断だったか。 オープンの日の4月10日の 『北國新聞』 コラム 「時鐘(じしょう)」 が 「復元とは単に昔の姿を取り戻すことではない。 自分たちの街が日本史の中で果たした役割を確認し、ふるさとに誇りを持つためのものだろう」 と書いていた。 名言哉(かな)。伝統とは、役割の再確認行為なり。 『北國新聞』 平成22年4月10日 コラム 「時鐘」 ≪「江戸」 は 「金沢」 を模倣した街である、と言えば、ベラボーメと江戸っ子が怒りそうだが、れっきとした学説である。  徳川家康が江戸城を築き始めたのは1590年。 その7年前の1583年に前田利家は金沢に入り街づくりに着手した。やがて二重の惣構堀で城と街を囲むドーナツ型の城下町金沢が生まれた。 江戸は、この円形都市プランを真似たというのである。  以上は、都市研究で知られる建築史家の内藤昌氏に聞いた話である。 城下町には、長方形や円形など色々なパターンがある。 規模や地形は異なるが、金沢と江戸の基本構造は城を中心に据えた同じ円形であり、歴史的には江戸は金沢の弟分だということになる。  きょう旧石川県庁を利用した「しいのき迎賓館」がオープンする。 金沢城本丸の高石垣と復元された宮守堀が見渡せるのがミソだ。 都市全体の、ほんの一部分に過ぎないが、金沢が各都市に与えた影響を知ることができる象徴的な場所である。  復元とは単に昔の姿を取り戻すことではない。 自分たちの街が日本史の中で果たした役割を確認し、ふるさとに誇りを持つためのものだろう。≫ 同じく 『北國新聞』 平成22年4月10日 社説 ≪しいのき迎賓館  「歴史の審判」 に耐えうる施設  きょう開館する 「しいのき迎賓館」 は、大正ロマンの面影を残す広坂側と、全面ガラス張りの近代的な金沢城址側という二つの 「顔」 を持つ。 重厚でモダンな外観は存在感抜群で、「堂形のシイの木」 を従え、風格すら漂わせている。 ふるさとの新たなシンボルとして、「歴史の審判」 に耐えうる施設になるだろう。  旧県庁跡地の有効利用は、前知事の中西陽一氏が県庁移転計画を打ち出して以来、ほぼ20年来の懸案だった。 当時、金大移転後の跡地(金沢城跡)、金大附属小中跡地(広坂1丁目)とともに、金沢の真ん中に広大な 「空き地」 が生まれようとしていた。 金沢の魅力の中心は、歴史遺産が集積する都心部にあり、利用方法を一歩間違えれば、景観や都市機能が台無しになっていた可能性がある。  県庁跡地で言えば、中西知事時代の 「ガラス屋根付きのイベント広場」 構想に始まり、博物館、総合学習センター、国際会議場、参加型科学館、未来型図書館、NHK金沢放送局の移転先など、さまざまな案が浮かんでは消えた。 県庁跡地の利用と連動して、隣接する県中央公園敷地をバスターミナルに整備する構想もあった。  もし、未来型図書館という名の巨大なハコモノ施設が完成していたら、また高さ50メートルのアンテナを持つ放送局が移転していたら、都心部はどうなっていただろう。 四高および金大理学部の跡地を受け継ぐ中央公園の木々や芝生が掘り起こされ、コンクリートのバスターミナルに変わっていたら、景観は一変していたに違いない。  都市の記憶を刻む旧県庁舎に新たな命を吹き込んだ、しいのき迎賓館という選択肢は、過去に出たどの案よりも優れているように思える。 残る広坂庁舎の解体と地上駐車場の緑地化、地下駐車場整備計画を粛々と進めてほしい。  金沢城跡では 「河北門」 の復元が進み、この春、宮守堀に水がたたえられた。 金大附属小中跡地では、金沢21世紀美術館が開館から6年目を迎え、設計者が 「建築のノーベル賞」 といわれるブリツカー賞を受賞した。 県庁跡地を含めた三つの跡地利用が成功裏に推移していることを心強く思う。≫ こうして解説を受け、あらためてこの一帯の地図を見ると、文化空間の設計が並々ならぬ賢者の営みであることを知る。

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