2010/04/15(木)08:42
「ガイズ&ドールズ」 笹本玲奈さんと高橋由美子さんの競演
大学1年のころ一度だけ、救世軍の日曜集会に行ってみたことがあります。31年前の話。
前に立った小隊長が
「それでは、軍歌を歌いましょう」
というので、いきなりビックリ。救世軍の 「軍歌」 とは讃美歌のことです。「小隊長」 は牧師さん。
「大森駅前で野戦をしてまいりました」
とは、街角での布教活動、街宣活動をしましたということ。
街宣も 「野戦」 とおもえば、血が沸いてきますねぇ。
ミュージカル「ガイズ&ドールズ」は、昭和23年のニューヨーク、いまよりずっと猥雑なるブロードウェイが舞台。
救世軍の教会、いや、救世軍用語では教会は 「小隊」 でした、救世軍の小隊にいる美しくもお堅い女性軍曹サラ・ブラウンが主人公です。
笹本玲奈さんにぴったりの役ではありませんか。
赤い軍服を着、背筋をのばして、幼稚園の園長さんみたいにタンバリンを叩きながら登場するブラウン軍曹の役作りは、たとえていえば泥に咲く花のようなブロードウェイの聖母です。
でも、この舞台での彼女の見所は、さいころ賭博の大立者スカイ・マスターソン (内 博貴さん) のワケありの誘いにあっさり陥落してハバナへ飛び、日ごろの禁酒スローガンと裏腹に酒と気づかずかカクテルをお代わりしまくり、キュートな酔いっぷりで しなだれかかる姿態を見せてくれるところ。
もし一生に一度、笹本さんとお食事できたとしても、彼女はおすまし玲奈ちゃんでありつづけるでしょう。キュートに酔った笹本さんの姿をこっそり見せてくれただけで、幸せいっぱいになれる舞台です。
サラ・ブラウンの最初の歌は、小休止のあと高い音からいきなり始まる箇所がいくつもある難曲で、歌唱自在の笹本さんが4月7日の夜の部では珍しく苦労していました。
高音で飛び立つ天使の裏声に切り替えられず、いちど声がかすれかけたのには、ひやり。絶不調だったようです。
ですが、そのあとハバナの街では舞台奥の足場の上に姿をあらわした楽団の軽やかなリズムにのって最高のスマイルをみせてくれたし、カーテンコールでもおだやかな笑みを浮かべていて安心しました。
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笹本さんと競演してピカいちだったのが高橋由美子さん。
さいころ博打のショバを仕切るネイサン (錦織一清さん) と婚約をしたはずが、一向に結婚してくれなくてもう14年、かわいく耐える女、アデレイドを演じました。
高橋さんは 「ゴルフ・ザ・ミュージカル ~ ゴルフなんか大嫌い!~」 (パルコ劇場) でとびきりドライなキャディを好演し、すっかりファンになりました。
当時のブログを見ると
≪かわいさをぐっと抑えて割り切り上手のキャディを演じた高橋由美子さん。
ゴルフ・ウィドウを演じた劇中劇の歌も、エネルギッシュでした。≫
その歌唱力から彼女は、ぼくの脳内の 「このひとがいるかぎり舞台がぜったいうまくいく役者さんリスト」 に載せてあります。
4月7日の夜の部では、高橋由美子さんの歌がとりわけハリがあって、まだ1ヶ月ちかくあるのにこんなに飛ばしていいのかなと心配になるくらい。
主流からちょっと外れたところにたたずみ、ちょっと哀愁、ちょっとコミカル。高橋由美子さんのキャラが、アデレイドの役によくはまっていました。
テレビで、「めぞん一刻」 では扇子おどりの好きなおばちゃん役ではじけ、「篤姫」 では大奥の世話役の女を神妙に演じる高橋由美子さんも見たけれど、彼女に歌うシーンが無いなんて、ほんとにもったいなかった!
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このミュージカルをかけるには、シアタークリエは狭すぎたかも。
サイコロ賭博のごろつき連中の歌と踊りがひとつの見所ですが、舞台が小ぶりでエネルギーを発散しきれなかったみたいです。
群舞は公演ごとにだんだん良くなってくるのが常なので、次の観劇日に期待しています。4月15日と20日に、また観ます。
4月7日は3度目のカーテンコールでほぼ満場のスタンディング・オヴェーション (起立拍手) になりましたが、前から5列目、6列目あたりのマスコミ席だけ憮然として席を立たず、その爺(じじ)むささが何とも疎(うと)ましかった。
(東京・日比谷のシアタークリエで4月30日まで上演。)