テーマ:中国&台湾(3301)
カテゴリ:中国が育てる広告塔・加藤嘉一
中国語で発信する、日本出身、27歳のコラムニストがいる。加藤嘉一(よしかず)さん。
こういうニューウェーブの論客が出るのは結構なことだと、プラスの先入観をもって加藤さんの文章を読み始めたところ、次々と違和感におそわれた。 ■ 香港のニュース雑誌のコラム ■ 香港のニュース雑誌 『亜洲週刊』 8月14日号に、加藤嘉一さんの書いたコラムがあった。 題して 「中日民族主義之争」。 平成22年9月の尖閣諸島沖の漁船衝突事件について、加藤さんはこんなふうに書く。 ≪日中両国の外交筋から内々に話を聞いたところ何れの側も、国内の 「民族主義 (nationalism)」 感情が激化して外交交渉が原則と柔軟性を失うことを望んでいなかった。 残念なことに、日本政府が中国漁船の船長を逮捕し、拘留期間を延長しながら結局は中途半端なかたちで釈放したが、これによって両国間の多くの領域の外交交渉や民間交流が滞ってしまった。 たとえば中国側は、もともと9月中旬に開催を予定していた第2回の東シナ海問題原則認識共有のための政府間交渉を先送りすることを決めた。 日中青少年・企業家等の間の交流も、キャンセルや延期を余儀なくされた。≫ 文中に 「第2回の東シナ海問題原則認識共有のための政府間交渉」 とあるのは、日本では 「日中両政府による東シナ海ガス田開発の条約締結交渉の第2回会合」 などとされる。 ■ 悪いのは日本側、ですか…… ■ そもそも問題の発端は中国の偽装漁船の違法行為にあった。その後も、フジタの社員の不当逮捕をはじめ、事態をエスカレートさせたのは中国側だ。 そのことを完全に棚上げして、日本政府の行為が日中交流を妨げたのだと書き散らす神経には、ほとほと感心する。 日本人が書いた文章だと思って読むと腹が立つが、加藤嘉一さんは軸足を中国に移している。 だから加藤さんの文章は、「日本人」 が書いたものだと思わずに 「へぇ、いまどきの中国の若者はこんな見方をしたがっているのか」 ぐらいに思って読んだほうがよい。 加藤さんに言われて気付いた。昨年9月の偽装漁船の蛮行の理由。 あれはやはり、直後の9月中旬に予定された東シナ海問題の日中交渉を無期延期にしてやろうという、中国軍部の策謀だったと考えるのがいちばん自然ではないか。 ■ 北京大学で育てられ、養われ ■ 加藤嘉一さんは静岡県出身で、山梨県甲府市にある高校を卒業して、中国政府の国費留学生として北京大学で学んだ。 現在は北京大学朝鮮半島研究所の研究員として給料をもらう傍ら、ファイナンシャル・タイムズの中国語版に書くコラムをはじめ、中国で7冊、日本で3冊の書籍も出版している。 今年4月29日のファイナンシャル・タイムズの加藤コラムは 「私の北京大学体験」 と題している。 そのなかで ≪感恩北大,没有北大,就没有今天的自己。≫ (北京大学には恩義を感じており、もし北京大学がなかったら今日の自分もないだろう)と。 いやはや。 東大や慶応大の出身者が、ここまで開けっぴろげに出身校のことを賛嘆することは、ありえないでしょう。異文化ですねぇ。 ■ 共産党批判には踏み込まない ■ 同じく4月20日のコラムは 「中国は人民元を解放すべきだ」 と題した。 元安(げんやす)の維持が輸出促進のために本当に必要なのだろうかと論考し、結論としては ≪もっと自信をもって、強大な工業力を背景にして人民元を 市場に向わせる (=自由に外貨と交換できる通貨にする) ほうがよい。≫ と論じている。 わたしに言わせれば、人民元の外貨交換を制限しているのも、つまるところ通貨を中国共産党の独裁の道具として使うため。 そういうところには踏み込まず、中国の 「強大な工業力」 をほめそやして筆をおく加藤嘉一さんの流儀は、さぞや中国政府に覚えめでたかろう。 これなら、朝日・岩波も御用論者として安心して使えそうだ。 ■ 主体性を貫けるか ■ 昨年9月の尖閣紛争について言えば、わたしの意見はクリアで、偽装漁船の船長を逮捕・拘留した時点で、撮影したビデオ全篇をネット上で公開すべきだった。 日本側が現場情報を刻々と公開するとなれば、これは中国軍部にとっては脅威だ。 情報化社会においては、中国の軍国主義に対して、あるていど意味のある抑止力になる。 それがわたしの意見である。 加藤嘉一氏は、『亜洲週刊』 8月14日号のコラムの後半で 「インターネット・ナショナリズム」 について論じている。 ネット利用者に対して中国政府は積極的に かつ粘り強く情報を公開すべきであり、怒れる若者たちに対して知識層は適切な 「知識リード型の素材」 を提供すべきだ、と言っている。 とすれば、海上保安庁が撮影したビデオの全面公開にも加藤嘉一氏は賛成すべきであろうが、中国共産党が怖くてそこまでは書けまい。 加藤嘉一氏は、中国政府にとっても、日本のゆがんだメディアにとっても、じつに利用価値の高い人だが、今後どこまで主体性を貫けるだろうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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