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2012/03/20(火)23:35

苅部 直 著 『安部公房の都市』 (講談社、平成24年刊)

読 書 録(57)

平成23年に 『群像』 誌に連載された文藝評論。 なんと著者の苅部 直(かるべ・ただし)さんは昭和40年生まれの東大法学部教授、専門は日本政治思想史ときた。多才なひとだ。 安部公房の小説 『榎本武揚』 についての評論のなかで、日本政治思想史の造詣を披瀝して ≪戊辰戦争が始まって薩長の「官軍」が江戸に迫ったとき、勝海舟は英国公使を巧みに利用して無血入城を薩摩に確約させた≫ と書いてある (71頁)。 安部公房から話がそれるが、江戸の無血開城に英国公使がからんでいたとは初めて知ることでびっくり。 世間では総じて、勝海舟と西郷隆盛の腹藝だけで全てが実現したかのような言われ方だが、考えてみれば勝海舟側に強力な交渉材料と裏保証者がなければ、そう簡単にことは実現しなかったろう。 英国公使がどのようにかかわったか、もっと詳しいことをぼくも勉強しなければ。 * 安部公房が 『旅』 誌・昭和29年2月号に掲載のエッセー 「瀋陽十七年」 で、こんなことを書いているという。鋭い! ≪支配民族の特徴はたとえばいま日本にいるアメリカ人であるが、その土地の人間を人間としてよりも、植物や風景のように見るということだ。 つまり土地の人間は風物の一部なのである。 (中略) これは相手を見失うばかりでなく、同時に自分をも見失っているのだが、その点にはめったに気づこうとしないのだから、やっかいだ。≫ あと、昭和53年のインタヴュー 「都市への回路」 で安部さんはこんなことを言っていて、これまた鋭い。斜(はす)に見ることを知っていたから、いつまでも古びないひとなのである。 ≪祭りというものは、けっこう権力の規制のテクニックとして有効に機能しているものなんだよ。裏側から見れば、祭りが人心の爆発、燃焼の代行をしているわけだ。≫ ところでぼくは自称 「安部公房ファン」 で、『壁』 や 『他人の顔』 は再読三読し、『箱男』 や 『密会』 も読んでいるけれど、本書で取り上げられた作品のうち 『笑う月』 『燃えつきた地図』 『榎本武揚』 『第四間氷期』 『けものたちは故郷をめざす』 は読んでいない。 いまこそ、読まないとね!

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