2013/03/20(水)17:20
音楽の感動とセックスの感動は、同じ脳部位がつかさどっている
こう言っちゃ何だけど、ミュージカルでとびきり感動するのって、セックスと同じなんだ。
ミュージカルのいいところでコンビニ袋をがさがさやられるのって、セックスでいきそうなときに電話が鳴るようなものさ。
……という比喩を温めてきたのだけど、これがまんざら間違いでないことがわかった。
≪カナダのマギル大学のザトーレ教授は、お気に入りの曲を聴いて背筋がゾクゾクする快感(いわゆる「鳥肌が立つ」感覚)をおぼえるときの脳の活動を、PET(癌検診にも使われる装置)を用いて捉えることに成功しました。
驚いたことに、音楽を聴いてゾクゾクするときに働く脳部位は、食事や、非合法ドラッグの摂取、性的な刺激によって快感を感じるときに働く部位と同じだったのです。≫ (231頁)
「ミス・サイゴン」 のような名作になると、ミュージカル・ナンバーの前奏が流れ出しただけでからだじゅうが感動モードになってしまうのだが、この説明もこの本にあった。
≪私たち人間には、音楽による感動という “ご褒美” をあらかじめ予測してドーパミンを出す脳部位 (尾状核) と、感動することによってドーパミンを出す脳部位 (側坐核) の2つがあると言えます。
……
直前に 「来るぞ来るぞ」 と思って期待する脳の働きと、その後、「来た!」 と感動する脳の働きのそれぞれで、脳がご褒美を得られるわけです。
サビやクライマックスの直前で、少しテンポを遅くするピアニストがいますが、これは、聴き手が感動を予測することで得られるご褒美を増やそうとしていると言えるかもしれません。≫
『ピアニストの脳を科学する ― 超絶技巧のメカニズム』 古屋晋一 著 (春秋社、平成24年刊)
名演奏の情感には、テンポのゆらぎが関わっているのだという。
まったく楽譜どおりの機械的な演奏 (= ゆらぎゼロ) から、優れたピアニストが弾いたとおりのゆらぎがある演奏まで、ゆらぎの程度の違う演奏を5つ用意して、多くのひとに聴かせて 「どのくらい情感豊かな音楽に聞こえるか」 点数をつけさせた。
≪その結果、ゆらぎの量が減るにつれて、聴き手は、演奏の情感が乏しく機械的だと感じることがわかりました。つまり、ピアニストが演奏に込めた表現は、決して独りよがりなものでも無意味でもなく、聴き手の心にちゃんと届いているのです。≫ (221頁)
本書の前半では、ピアニストが練習して体得する能力が脳のどの部位に反映しているのかを語ってくれる。
巻末の参考文献リストを見ても、ほとんどが英語書きのもの。日本の読者にとってユニークな本である所以である。