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文春新書『英語学習の極意』著者サイト

Jan 11, 2015
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カテゴリ:世界を見る切り口
12年前に出た未来予測と提言。12年を経て、地方創生が説かれる今だからこそ、政治家・官僚や社会評論者にも広く読んでもらいたい本。
外国人労働者を大量に入れて人工減少を食い止めましょうなどという依然健在の愚論は、はなから切って捨てている。人間の幸福とは何かという問いを軸にしていて、すがすがしい。


松谷明彦・藤正 巖 著『人口減少社会の設計 幸福な未来への経済学』(中公新書、平成14年刊)

前半の経済分析では、日本企業の「売上高至上主義」をしきりと嘆く。この辺りは、12年経ってみて世の中が変わったことを実感する。今や当期純利益を争い、プロジェクトごとに投資効率を問うことが普通の姿になった。
本書を読むと、日本で長年言われてきた他国と比較しての「労働生産性の低さ」という問題も、利益額でなく売上高至上の経済が招いたものだ。国際比較における労働生産性は、1人あたりの利益額(=所得額に通じる)で決まるものだから。

かつての売上高至上主義の理由は、日本企業が資金調達を株式市場からでなく銀行借入に頼ったからだと指摘している。
銀行としては、貸付残高を増やし、できるだけ高い金利で貸したい。利益率が低い企業への貸付は金利を高めにできるし、投資効率が悪くても生産規模を拡大し経営多角化をしてくれれば貸付残高が増やせる。なるほど、株価の上昇を望む株主とは異なる視点だ。

≪縮小経済における自由競争とは、自分の企業をいかに適切にスリム化できるかという競争である。≫(110頁)というくだりは、12年前にはビックリするような指摘だったろう。
今となってみると、「多角化から本業回帰してM&Aで規模拡大」というのが目下のトレンドと思う。

本書の「幸福」の便宜的定義は、「労働時間あたりの所得が多いこと」→「余暇のための時間が多いこと」。
妥当だが、両項が矢印でつながらないことが多いのが現実かな。
日本的経営は戦中戦後をひきずり、「賃金水準を抑えつつ雇用数を増やすこと」を至上価値にしてしまった。人口減少社会は、それを変える好機だと本書は説く。

≪人口の将来推計をしてみると、高齢化率はやがて30%に近くなってそれ以上あまり高くはならない。2030年以降の日本がこれにあたると予測される≫(115頁)という指摘など、将来予測の前提としてよく認識しておくべきところだ。際限なく老人の率が増加するわけではない。高齢死亡者が生まれる子供よりもどんどん多くなる社会ということ。

医療費についても、自費診療・混合診療が増えて、市場の見えざる手が医療の生産性を向上させ、医療費削減の動向が生じるだろうと予測している。さらに、拡大した自由医療市場は世界へ向けて開かれようと。
その方向に少しずつだが確実に向かいつつあることを実感する。

3大都市圏(首都圏、名古屋、京阪神)以外の地域の安定的所得源として「農業」を挙げているのも新鮮で、かつ今日あらためて正論だなという思いがする。
農業といっても、農業生産だけではなく、≪農業を核とし、農機具・農業装置の製造業、培土・肥料・農薬等の化学産業、食品加工業などの関連産業を有機的に組み合わせた重層構造の産業群≫(164頁)である。

日本の地方都市の中心部に人通りのない「シャッター通り」が増えるのも、都市設計の思想が古いからなのだろう。193~200頁に紹介されるイギリスの地方都市の様子は、成熟社会の姿として示唆に富む。

≪どのような町でも日中にきわめて人が多い≫理由は、
・街の中央に歩行者天国(pedestrian zone)があり、歩行者以外はバスや郵便車などの公共の車だけしか入れないようになっており、ベンチが街のあちこちにある。
・車椅子やシニアカー(電気駆動の四輪車)に乗ったひとたちも多い。
・街の中心に多くの公共施設が存在し、それを歩行者天国が結んでいる。図書館が目抜き通りにある。大学も街の中心部にある。大学の多くは≪日本でいえば短大にあたるような、何々カレッジと書かれた学校や、何々分校と書かれた有名大学の分校である。そこにはいわゆる生涯学習の場として College of Further Educationという標識が立っていたりする。≫

そういう町が日本にもどんどん生まれれば、どんなにいいだろう。
我々が抱くべき夢は、まだまだたんとあるではないか。それは、すばらしいことだ。

本書では、地方の賑わいの場のイメージとして、大型の「道の駅」とその周辺に公民館や物販店、食堂、催し物会場、さらには場所によっては日帰り温泉、医療保健センター、在宅介護センターなども集まっているという事例を挙げている。

日本の「道の駅」でそれができるのは、まさに「道の駅」として若干辺鄙な(=地価の安い)ところに、無料駐車場を核とした広がりだからだろう。
本書では地価の問題については触れていないが、日本人の夢がけっきょく すくんでしまうのは、街の中心部の地価が分不相応に高いことにあるのではないか。

いろんなことを考えさせてくれるいい本だ。






最終更新日  Jan 11, 2015 03:16:42 PM
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