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文春新書『英語学習の極意』著者サイト

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詩詞・短歌・俳句

Jul 20, 2015
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テーマ:読書(3020)
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
与謝蕪村の
菜 の 花 や 月 は 東 に 日 は 西 に
の心境・心象を英国人ワーズワースが詩にうたうとしたら、どんな作品になったか。

オーストラリア出身の Claire Maree さんが実作した。

Behold, mustard flowers unfold
Beneath the moon which rising high
Softly lights as it climbs
The edges of the eastern sky
And still the sun remains aglow
As it lingers west, so low
In the corner of the field
Where flowers their beauty wield

’Tis such a sight as to be seen
O’er farmhouse meadows afar
As day says her last farewell
Sun and moon together gleam
Twinned they shine upon the face
Of spring flowers in their place
Greeted by the rustling breeze
Which sweeps from Vale through fine new leaves

Fluttering blossoms, ne’er confused
Whence to show their golden eyes
For moon and sun are friends this day
In a field where happiness lies
Nestled in a bed of gold
Such beauty I’ve yet to behold
East and west join to be one
The radiance of moon and sun

I pause perchance to catch a glance
Of Mother Nature’s playful dance
Should the night be ne’er to come
My wand’ring soul shall hitherforth
Stay within the charms of light
Trapped in this time not day not night
Beside the flowers as they grow
Beneath the moon and sun that glow


ほれぼれするようなワーズワース調。風景美を分析してみせ、かつ分析者としての「わたし」が文面に登場する。2分間のビデオクリップ。

読んだのは、この本で。数ある小論のひとつ、エリス俊子 「『菜の花』への眼差し 『外』から眺めた日本語について」(165~179頁)


小林康夫・船曳建夫 編『新・知の技法』(東京大学出版会、平成10年刊)

この小論の後半で知ったのは、蕪村の句が陶淵明の五言絶句を俳諧化したものだという話。

白 日 淪 西 阿
素 月 出 東 嶺
遥 遥 万 里 輝
蕩 蕩 空 中 景


輝く日は西の丘に沈み
くもりなき月は東の嶺に出る
遥か遥かに万里照らされ
広大なる みそらの眺め 

蕪村の俳句がちょうど色紙に収まりそうなのに比べ、陶淵明の五言絶句は一幅ないし対(つい)の掛軸にしたくなる。

ひとつの心象が絶句、俳諧、英詩のそれぞれの舞台にどう収まるものか、みごとな比較だ。

こうして見ると、俳句という形式が成立しうるということが奇跡のようにも思える。
俳句の強みは、それが単なる17音ではなく、連句という長い流転の世界のはじまりを告げる「発句(ほっく)」として出発したことにあるのだろう。

少なくとも芭蕉や蕪村の時代には、発句(ほっく)は連句の流転を暗示する形式であり、その気構えをもって作品がつくられた。
その出自こそが、俳句のもつ「広がり」のちからを生んでいるのではないか。






最終更新日  Jul 20, 2015 07:11:05 PM
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Jan 26, 2014
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
新年にあたって宮内庁が発表した御製(ぎょせい)と、歌会始(うたかいはじめ)での御製に、天皇陛下が水俣のことを詠(うた)われている。

(わずら)ひ の 元 知 れ ず し て 病 み を り し 人 ら の 苦 し み い か ば か り な り し

ひとの苦しみがもっとも深いのは、苦しみの原因そのものが分からないときだろう。そこに思いを致して発せられたおことばを拝読して、心が顫(ふる)えた。


平成25年10月27日に天皇皇后両陛下は水俣市を訪問された。
第33回全国豊かな海づくり大会海上歓迎行事ご臨席およびご放流 のためであるが、この際に両陛下は、水俣市に到着すると先ず 水俣病慰霊の碑にご供花 に向かわれた。

そして昼食会のあと、胎児性水俣病患者および通所施設 「ほっとはうす」 施設長と懇談の時間を持たれた後に、豊かな海づくり大会の行事に向かわれたのである。


慰 霊 碑 の 先 に 広 が る 水 俣 の 海 青 く し て 静 か な り け り

歌会始の御製である。


平成25年には、水俣病認定申請棄却処分取消等請求訴訟の最高裁判決が出された。
その結果、福岡高裁での裁判は最高裁によって熊本県庁の上告が破棄され患者側が勝訴した。
また熊本県庁が勝訴していた大阪高裁での裁判は最高裁によって差し戻しとなり、県庁側が控訴を取り下げることで患者側が勝訴した。

最近の一連の訴訟のことが熊本県庁のこちらのページにまとめられている:
http://www.pref.kumamoto.jp/site/548/keika12.html

患者側が善で県庁側が悪として整理すれば無難な世の中だが、とかく多人数の訴訟には、正当切実な要求に混じって根拠のない要求や争議そのものを自己目的化した動きも含まれるだろう。熊本県庁側でこの件に向き合い続けた人たちの苦労もあわせてしのびたい。

天皇陛下が水俣病のことをお詠みになっても政治的メッセージと解釈されない世の中が実現したから国民が目にすることのできる御製2首である。






最終更新日  Jan 26, 2014 07:50:42 AM
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Feb 10, 2013
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
現 実 と 真 実 の ご と ブ ラ ン コ は 二 つ 並 ん で 一 つ が 揺 れ る   東(ひがし)直子

 「現実」 そして 「真実」 という抽象が、ほんとに実在物として空間を動いているように見えてくる、ふしぎな短歌。

 1日1作品を紡ぎ出しひねり出した、作家 平成19年の短歌日記の、10月19日篇から。

今 つ よ く お も っ た こ と を 告 げ た く て 花 道 走 る よ う に 枯 葉 は

 枯葉の唐突で付和雷同な動き。情念の極みの唐突なほとばしりも、風にもてあそばれる枯葉の動きのように見えてしまうのか。
 情念のはかなさ、情動のかなしさを、ほろりと感じる。


東 直子 著 『十階 短歌日記2007』 (ふらんす堂、平成22年刊)

 十階というのは、東さんがいるマンションの階数らしい。そこから、そこで、感じたもの。

や わ ら か い も の に 匙 を 入 れ る と き、 え、 と 小 さ く そ れ が さ さ や く

 このデリケートな感性そのものを味わいたい。
 しかし、「ものに匙を」 と破調なのが、ちょっと好かない。「え、と小さく」 は 「えっと小さく」 と数えれば破調ではないが。

片 寄 り て 花 び ら 池 の 面(も)に 腐 る  そ ん な ふ う で も 愛 し た か っ た

 歳を重ねてみて想い至る、せつない愛のイメージだ。

粗 塩 を ふ り て 並 べ し 手 羽 先 の 同 じ 角 度 で ち ぢ ん で ゆ き ぬ

 目にくっきりと浮かぶ。その画像が自分の脳のどの回路にピッとつながるかは、そのときの風まかせだね。

簡 単 に 死 ね る 装 置 の あ る 都 市 に 集 い 触 れ 合 い 重 な り 泣 き ぬ

 「簡単に死ねる装置のある都市」 にしびれる。そこに動詞がたたみかける。

ク シ ャ ミ し て ご め ん と 言 っ て さ っ き ま で の 深 刻 だ っ た 話 が 終 わ る

 なんとなく石川啄木を感じた。あぁそういうことってあるよねと。

声 あ れ ば 何 を 言 い た か っ た の か 生 ま れ た ば か り の よ う な 顔 し て

 短歌日記には毎日添え書きがあって、この短歌への添え書きは
「沖縄のお土産をいただいた。小さな赤いシーサーが、小さな小さな舌を見せている」。
 それならいっそ、
声あれば何を言いたかったのか生まれたばかりのようなシーサー
とすればよかったのでは? と、「NHK短歌」 選者もつとめた作家の短歌を添削したくなってしまった。

こ の 街 が 廃 墟 に な っ て も 後 ろ 手 に 空 を 見 上 げ た ま ま な の で し ょ う

 この短歌の添え書きは、
「公園の緑がせり出している舗道に、ふんわりと笑っている女の子の銅像がある」。
 それなら、いっそ
この街が廃墟になっても後ろ手に空を見上げたままの銅像
ではどうだろう。また添削してしまった。

 まぁ、東 直子さんはプロだから、ぼくごときが考える代案などは脳のなかで瞬時に考え出しては捨てているのだろう。むしろ、「ん?」 と立ち止まらせ、気にかけさせる作品をつくろうとしている。

 昭和38年生まれの作家。Wikipedia によれば、大学在学中に演劇活動を行っていたとあって、親近感をもった。






最終更新日  Feb 10, 2013 08:39:52 AM
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Jan 20, 2013
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
批判ではありません。心配におもうだけです。

1月16日に行われた歌会始の皇太子殿下・妃殿下のお歌は、いずれも敬宮(としのみや)殿下にまつわるものだった。
内向きなご家族である。

お題の 「立」 で、もっと広い世界に目を転じて詠んでいただけたならなぁ。

幾 人 の 巣 立 て る 子 ら を 見 守 り し 大 公 孫 樹(いちょう)の 木 は 学 び 舎 に 立 つ

皇太子殿下のお歌。産経によると、≪母校であり、長女の敬宮愛子さまが通われる学習院初等科の 「大いちょう」 の下で、児童らが遊ぶ姿を見た感慨を表現された≫ という。

愛子さまおひとりにではなく、「幾人の」 と、一群の子どもたちに目を向けておられるところに、まだ救いがある。

十 一 年 前 吾 子(あこ)の 生(あ)れ た る 師 走 の 夜 立 待 ち 月 は あ か く 照 り た り

妃殿下のお心は、ひたすら愛子さまおひとりに向かっているようである。現在でも未来でもなく、十一年前の過去に向きあう。
産経によれば ≪愛子さまが誕生された日に見た、十七夜の 「立待ち月」 を思い起こされた≫ ものという。

皇太子妃殿下のお歌は例年、愛子さまのことを詠まれたものが多いが、昨年はそうではなかった。

吹 く 風 に 舞 ふ い ち や う の 葉 秋 の 日 を 表 に 裏 に 浴 び て か が や く

妃殿下のこのお歌を拝読し、昨年は安堵を覚えたのだけど。
しかし、このいちょうもまた、今年皇太子殿下が詠まれた学習院初等科のいちょうだとしたら、愛子さま歌にはちがいない。






最終更新日  Jan 21, 2013 12:31:58 AM
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Dec 13, 2012
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
K’s Gallery (京橋三丁目) で開催の「京橋 K’s 句会」に飛び入り参加しました。
俳句にはかつてのめり込みましたが (だから一家言もっていますが)、句会というものへは初参加。

会場の主である K’s Gallery オーナーの増田きよみさんにご紹介いただいたので、小さな蛮勇で。

投句締切はとっくに過ぎていましたが、4句つくっていきました。以下にご披露しておきます。
季題は 「湯ざめ」 「玉子酒」 「狐火」 と、比較的つくりやすく、場が盛り上がりやすいものでした。

か ら こ ろ と 鳴 る 石 鹸 に 湯 冷 め な し  伊澄航一

伊澄航一は、ぼくの俳号です。
「湯ざめ」 ということで、おそらく人々は右下がり発想で盛り下がる句ばかり作ってくるだろうと思って、逆を行ってみました。

♪小さな石鹸 カタカタ鳴った
という、かぐや姫の 「神田川」 が下敷き。唄には軽く 「カタカタ」 がぴったりですが、俳句に
カタカタと鳴る石鹸に湯冷めなし
では、うるおいがないので、「からころ」 と。

敗 戦 の 帝 國 ホ テ ル た ま ご 酒  

洋酒が似合う帝國ホテルですが、たまご酒をぶつけてみました。
敗戦の帝國ホテル、だから、洋酒ではなく、したたかにたまご酒なんです。
玉子酒を、病気や爺婆にぶつける句は、いけませんね。

敗戦というのは、むろん、昭和20年8月15日の終戦の日ではなく、昭和20年9月2日、戦艦ミズーリ上で降伏文書に調印した日のことであります。
8月15日のあとも、日本固有の領土の千島列島で、侵略者ソ連に対する祖国防衛戦が繰り広げられておりました。

卵 酒 出 待 ち の 客 は 待 た せ お け

句会の主宰である女優の藤田三保子さん (俳号は藤田山頭女) への挨拶句となっております。
役者の気合。

狐 火 の 伯 母 も い と こ も 生 き て を り

狐火がたくさん。親戚が多いのでしょう。
故郷に思いをはせて。
ぼくの伯母はみな亡くなり、叔母しか生きていませんが、俳句にはやはり伯母でしょう。



4句は紙切れにプリントし人数分もっていきました。
予定があって、2時間の句会の前半しか参加できず、ぼくの句は主宰に渡して失礼させていただきました。さてどんな批評があったやら。

句会では、ほかの皆さんの句を5句選ぶことになっていたわけですが、ぱっと見、選びたい句が1句しかなくて、あ、こりゃあかんわ、と思った次第です。

しかも最高得点だった句は、中途半端な “自由律” の句で、あ、こりゃあかんわ。

申し訳ありません。なんか、ぼくの4句がいちばんよかったんですよね (笑)
というわけで、薄情なる泉くんは 「京橋K’s句会」 にはこれっきりだと思いますが、主宰の藤田山頭女さんのノリはなかなかのもので、楽しい時間でした。

ありがとうございました。






最終更新日  Dec 13, 2012 07:40:56 AM
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Apr 30, 2012
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
こんなことばがあった。

≪感情生活には、喜怒哀楽といった大ざっぱな分類にはあてはまらない、曖昧模糊とした部分がいっぱいあります。その曖昧模糊とした部分に、三十一文字という定型の詩のかたちをとった言葉をあたえてやるのです。≫ (19ページ)


岡井 隆 著 『今はじめる人のための短歌入門』 (角川選書、昭和63年刊)

≪はじめから結句のわかっている歌など、だれが詠むでしょう。
初句にはじまって、第二句、第三句と進んでいくうちに、予想外の言葉があらわれてくる。そのたのしみにこそ、短歌のすべてがあります。≫
 (57ページ)

≪今までの人生の上で、あるいは最近の体験のなかで、いま思っても苦しいほどに特殊な状況をえらんで、くりかえし、その時の感情をおもいおこしつつ、歌ってみるのがいいのです。≫ (149ページ)

≪「近代短歌史」 の常識は、これは、作歌経験がある段階に達したときには、必須課目であります。初級の短歌という言葉を、もし使うとすれば、初級の短歌の最終講義は、この「近代短歌史」であります。≫ (168ページ)

本書はもと角川選書で出ていたが、平成23年に角川ソフィア文庫から再刊された。






最終更新日  Apr 30, 2012 06:19:21 PM
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Jul 17, 2011
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
観 覧 車 回 れ よ 回 れ 想 ひ 出 は 君 に は 一 日(ひとひ) 我 に は 一 生(ひとよ)  栗木京子

ぼくの好きな短歌。
あまりにも ことばが流麗だけれども、読み返すたびに心に がしっとひっかかる。

たとへば子供と観覧車に乗ってゐるとするぢゃないか。子供はきょろきょろわくわくする。きっとぼくより はしゃいでゐる。
たぶん記憶があせて消えるのは早く、砂丘の風紋のやうに明日は別の場所に別の模様がある。

でもきっとぼくは、観覧車の光景を増幅させながらそれを一生いとほしむ。

あるいは、観覧車の相手は心を寄せる恋人かもしれない。思ひの深さを比べれば、それは確実に片思ひの恋だ。
彼女は君に明るく応対するだらう。時はほがらに流れ、楽しい一日でしたね、で幕となる。

記憶は君の心の暗室のなかでだけ輝きつづける。

昨年 (平22) 11月の 『學士會会報』 を読んでゐたら、名古屋大学名誉教授の諏訪兼位(すわ・かねのり)さんの午餐講演録 「科学を短歌によむ」 に、栗木京子さんが観覧車の短歌を作ったときのことが書かれてゐた。

≪栗木京子さんは、京都大学理学部出身の歌人です。京大短歌会にも属してゐました。
ゼミの仲間たちと楽しく遊園地で過ごしたとき
「観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日(ひとひ)我には一生(ひとよ)
といふ歌が、すんなりとできてしまひました。

この、いぢらしさのにじみ出た、深刻さうな歌を、若い戦争未亡人がよんだ哀感にじむ歌だと思ひ込んだ人がゐたやうです。≫

ぼくがこの歌を読んだときは男の視点でぼくの想像をひろげたのだけど、女性の視点を想起して夫を戦争で亡くした妻の歌ととらへる読み方もあったか。



諏訪兼位さんが紹介してゐる短歌には このような作品もある。

ア ウ シ ュ ビ ッ ツ は 本 当 だ っ た 人 間 の 髪 で 織 ら れ し 毛 布 の あ り て  森尻理恵

森尻さんは地球物理学者で、産業技術総合研究所で重力調査・磁力調査などを行ってゐるさうだ。

無 人 戦 車 無 人 地 球 の 街 を 野 を は た は た と 哂(わら) ふ ご と く ゆ き か ふ  坂井修一

人類滅亡の SF 映画本篇を長歌(ちょうか)とすれば その反歌(はんか)のやうな。
坂井さんは東京大学で情報処理システムの開発研究にたずさはってゐるといふ。

肉 体 の 死 に や や 遅 れ 億 の 死 の 進 み つ つ あ り Tubercule bacillus (ツ ベ ル ク ル  バ チ ル ス)  永田和宏

永田さんが3歳のとき、母を結核で亡くした。その死をとりまく時間を超微視的に見つめきった。母の死と、肉眼では見えない結核菌の億の死滅と。
永田さんは京都大学の細胞生物学者。

(なお、ここで使った仮名遣ひのルールは、「平成かなづかひのご説明」 を参照ねがいます。)






最終更新日  Jul 17, 2011 06:18:22 PM
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Nov 1, 2010
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
ほ ん と う は 海 月(くらげ)に 生 ま れ る 筈 だ っ た
  あ の ひ と の 脚 を 刺 す 筈 だ っ た
                  多治見千恵子 (国分寺)


 愛の短歌。せつなさが、いい。生まれ変わりを連想しつつ歌うのが、なんとなくこの俳句を思わせた。


じ ゃ ん け ん で 負 け て 蛍 に 生 ま れ た の  池田澄子


 海月の短歌は、平成22年10月24日の日経歌壇に掲載された。穂村 弘 選。

 この短歌の世界を俳句にするとすれば、直接的にこう詠むしかないだろう。


愛 す れ ば 海 月 と な り て 君 を 刺 す  伊澄航一






最終更新日  Nov 1, 2010 08:25:38 AM
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Mar 16, 2010
テーマ:詩(566)
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
ぼくの母校・愛光学園 (松山市) の高校1年生に、野村美月というひとがいる。
彼女のつくる俳句の感性が、ずば抜けている。このひとは、伸びる。

世間もほうっておかず、高校生俳句大会のいくつかで受賞している。
美月さんの句は、こんな句だ。

正 統 の 王 を 名 乗 れ よ 雨 蛙    美 月

小 春 日 や フ ラ ス コ の 首 恐 ろ し き

神 無 月 (かんなづき) 標 本 の 蝶 燃 や し け り


第12回神奈川大学全国高校生俳句大賞を受賞した。彼女の自註がある。

≪私の空想の世界では、<雨蛙> は高貴であるし、<フラスコ> は折れそうで そら恐ろしい生き物であるし、<蝶> は炎の中 鱗粉をまき散らし羽をぼろぼろにしながら舞わされる。

この三句は、そのようすを写生した、いわば 「空想写生」 の俳句である。≫


作句のプロセスを 「空想写生」 と名づけたのは、手柄だ。
“空想写生” で Google 検索してみたら、ヒットしたのは4件だけで、俳句とは無関係のものばかり。

野村美月さんは高校1年生にして俳句論のキーワードを創造してしまったわけ。
これだけでも、偉大だ。

ちなみに俳論キーワードのうち、同じ4文字熟語の “二物衝撃” を Google 検索したら 28,400件のヒットだ。
「空想写生」 というキーワードの独創ぶりがわかる。

「空想写生」 は、美術や音楽を語るのにも使えそうだ。
自分の脳内のプロセスを客観視し、まさに写生することで生れたキーワードだ。



雨蛙の句の 「正統の王を名乗れよ」 は、ロード・オブ・ザ・リングばりの西洋ファンタジーを連想させる。
蛙は、わずか12文字で泰西空想世界にワープした。

“正統の王を名乗る” も、ありそうでいて、美月さんのオリジナルだ。
Google 検索しても、俳句と無関係の1件しかヒットしない。


「フラスコの首恐ろしき」 でふと、ろくろ首を想う。
“フラスコの首” + “恐ろしい” で検索したが、フラスコの首を 「恐ろしい」 と評した用例は出てこなかった。
だから、オリジナリティは高い。

これをたとえば
* 夏 の 夜 フ ラ ス コ の 首 恐 ろ し き
とすると、もろに ろくろ首 の世界で、付きすぎ。
「小春日」 の駘蕩(たいとう)に、フラスコの首をひやりと ぶつける感性がいい。

ぼくの句に
理 科 室 の 人 体 模 型 日 脚(ひあし) 伸 ぶ    伊澄航一
というのがある。
この 「人体模型」 もまた 「恐ろしき」 存在として「日脚伸ぶ」の駘蕩にぶつけたのである。


神無月の句を読んだ翌朝、
「 『蝶の標本燃やしけり』 だったよな……」
とつぶやきつつもう一度、句を見たら、
「標本の蝶燃やしけり」
だった。

「蝶の標本」 では詩にならない。燃やすのは 「標本の蝶」 でなければならない。
標本というモノを燃やすのではなく、標本という仮の姿をした蝶という存在を燃やす。

ぼくみたいな おじさんは、ここですぐに
* 雪 女 郎 標 本 の 蝶 燃 や し け り
みたいな安易な道を考える。
蝶を燃やして散る灰を雪に見立て、犯人として雪女郎をもってくるという、おざなり。

ここで月の名の 「神無月」 という茫漠たる季語を配合したことで、説明っぽさのない句としてまとまった。

角川春樹 編 『現代俳句歳時記』 で 「神無月」 をみると
か ん か ん と 鳴 り 合 ふ 竹 や 神 無 月    山田みづえ
君 骨 と な る を 待 ち を り 神 無 月    秋山巳之流
などの句が、燃える標本の蝶 に近い連想に支えられている。

美月さんには、神無月の句がもう1句ある。
(からす) だ け の プ ラ ッ ト ホ ー ム 神 無 月    美 月

これも、描く世界は さきのいくつかの句と近い。
烏の句は、子規顕彰松山市小中高校生俳句大会で特選となった。



美月さんのいまひとつの句に打ちのめされた。

夏 手 袋 革 命 の 夜 の 脈 打 て る    美 月

夏手袋に、革命、とは。

「夏手袋」 は、貴婦人の礼装用のレースの品。
夏 手 袋 に 透 く 手 美 し 脱 ぎ て も か    辻井夏生
下層の民を連想させる 「革命」 の対極にある。

貴婦人にとって、革命の夜とは。
貞淑を強いる周りのプレッシャーを手袋のように脱ぎすてて、身分ちがいの男に身を委ねる夜。心臓がひときわ脈打つ。

ぼくなりに空想写生の絵解きを行いながら、ぞくぞくした。

夏手袋の句は、第12回俳句甲子園全国大会で ひめぎん(=愛媛銀行)賞をもらっている。

ぼくの絵解きによればアブナい名句ということになるが、さて、愛媛銀行の諸氏はこの句をどう読んだのだろう。

以上、野村美月さんの句と自註は、愛光学園の同窓会誌に紹介されていたもの。
ご活躍をお祈りする。

読んでほしい俳句関連書や俳誌を数冊、愛光学園の恩師へお送りし、美月さんに渡していただくことにした。






最終更新日  Mar 17, 2010 12:54:03 AM
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Mar 6, 2010
テーマ:詩(566)
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
ぼくは大学1年の11月に自分で詩集 『ハイウェイの木まで』 を出してから、結局そのあとが続かなかった。

東京があまりに彩りにあふれていて詩に専念できなかったのと、せっかく本として出したのにキャンペーンが下手で次の一歩につなげられなかったのと。

駒場祭に屋台を出して詩集を売ったあと、 『詩と思想』 という詩誌から声がかかり、昭和54年3月号の 「座談会・二十歳の見た現代詩」 に顔写真入りで登場し、作品1篇も載せてもらった。

いま思えば、取っ掛かりとしては相当恵まれていたのに、それを次につなげられなかったのは、ぼくに詩の道を進もうという努力の心がなかったせいだ。

詩作が進まないなら、英語やエスペラントの現代詩の翻訳に取り組む手もあったのだが、おもえば大学のころはエスペラント雑誌の編集や学習記事執筆に夢中で、そちらに時間をささげすぎてしまった。



さてこの、平田俊子さんの詩集 『詩七日』。

書名が、死者を祀るあの 「初七日(しょなのか)」 のモジりと思い、いささかあらたまった気持ちで読み進み、ふとあとがきを見たら 「詩なのか? (=これって、詩なの?)」 のモジりと知った。
はなはだしい拍子抜け。

詩集のなかの6作目 「六月七日」 を読んで、がしっとつかまれてしまった。
端的にクライマックスに跳び、芝居の山場を味わえる快感が、よい詩にはある。

≪ゆうべ誰かがやってきて
泊めてほしいとつぶやいた
ためらいもせず部屋にあげ
ドアを閉めると
二重にカギをかけた≫


これが、第1聯(れん)
読み返してみると、さいしょの3行に7・5のリズムがある。すっと引き込まれたのは、そのせいもある。

安部公房作品のような肌合いのちょっとした非現実。
これっくらいの非現実が、ぼくにはこころよい。

≪この日がくるのを待っていた
この人がいつか ひとを殺して
匿ってほしいといってやってくる日を
そしたら命がけでこの人を守ると
何年か前 こころに決めた
この日のために引っ越しもせず
電話番号も変えなかった≫

第3聯。谷川俊太郎さんの詩を読むようなリズム感。
ドラマのエッセンスを一気にあおる高揚感がある。

そして最後の3行。

≪もう何があってもきみをはなさないよ
古ぼけた映画のセリフみたいなことを思い
やせこけた頬をつついてみたりした≫


この、かろみ。このかろみが、またいい。
かるいのに、しっかり色がつき、適度に脂がのっている。
やられた。じつに、正統派の現代詩だ。


いっぽう 「十三月七日」 は、母と自分のことを書く。
これも、最後の聯の転進がうならせる。
教科書に載せたいくらい、うまい。

≪シミやシワをきれいに隠す
液体のファンデーション
わたしはそれで
自分のこころを
隠そうとしているのかもしれない≫

「自分のこころを隠す」 というモチーフが、それまで語ってきた母との自分史を総括していて、すとんと落ちる。



平田俊子さんという詩人を、ぼくはまったくフォローしていなかった。
つまるところ、大学2年生のころ現代詩から離れてしまったぼくは、詩人の知識が荒川洋治さんや伊藤比呂美さんどまりだ。

調べたら、平田俊子さんは伊藤比呂美さんと同年の昭和30年生まれだった。

荒川洋治さんや伊藤比呂美さんの最近の詩集を読んだが、ぼくの心にはもう響かなかった。
このふたりの詩人は、ぼくから見てあまりに最果てのところに行ってしまった。

平田俊子さんの構成力、ことばへの愛着、はずし方の適度さ。
これから、平田さんの作品をいろいろ読んでみようと思った。

『詩七日』は、しらべたら第12回萩原朔太郎賞を受賞していた。納得の受賞。

(『詩七日』 思潮社、平成16年刊、1,800円 + 税)






最終更新日  Mar 6, 2010 09:19:25 PM
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