よっちー君のブログ

第13回　特別編　追悼　トニー・ベネット

　今日、令和5年7月22日の京都新聞の朝刊に、トニー・ベネットの訃報が掲載されている。96歳だったそうで、亡くなったのは7月21日でニューヨークだったそうだ。　いまの若い世代はトニー・ベネットといっても、よほどポピュラー音楽に通じている人でないと知らない人が多いと思う。最後のアルバムは、レディ・ガガとのデュエットアルバム「ラブ・フォ・セール」であるが、私の手元にある彼の歌手生活40周年を記念して発売された「FOTHY YEARS  the artistry of TONY BENNETT」(4枚組CD)のレコードリリース一覧によれば、最初のレコードは「Because Of You」で1952年7月2日にリリース（シングルはその前年）されたことがわかる。　彼がCBSコロンビアレコードと契約した1950年から数えても70年以上現役でいたことになる。私がトニー・ベネットの名前を初めて目にしたのは、1972年の中学3年生の時にレコード店でもらったCBSソニーのカタログだ。しかし、彼の歌そのものを聴いたのは、もっと後で大学を卒業して、勤めだしてからのことである。その頃少し小遣いに余裕があるときに、CBSソニーがポピュラー音楽のLP10枚組のボックスを発売していたものを購入した。その中の1枚が音楽で世界旅行するというようなタイトルで、曲名に世界の名所が入ったものを集めたもので、そこで「霧のサンフランシスコ」を聴いたのが始まりである。　しかし、その後仕事で忙しかったのか、あまりレコードを聴いておらず、東京へ研修に行った際に、一人で夕食をとってから、当時六本木にあったレコード店WAVEに出かけた。そこで輸入盤のアルバム「霧のサンフランシスコ」を見つけて買って帰った。しかし、まだ若かった私にはトニー・ベネットのよさがわからなかった。しかし、京都の十字屋や東京のWAVE（出張したときに行っていた）で、「イン・パーソン」や「ザ・ワンダフル・ワン」などの国内盤、カーネギーホールでのコンサートの2枚組、“TONY BENNETT‘ALL-TIME GREATEST HITS”（2枚組）いずれも輸入盤のLPを購入して、だんだん聴くようになっていった。　とくに30代を過ぎたころから、そのよさがわかり始めたと言える。彼は1972年にCBSコロンビアとの契約を解除し、しばらくは別のレコード会社や自分でレコード会社を立ち上げたりしてレコードを出していたが、1986年にCBSコロンビアに復帰した。この独立していた時期には、あのビル・エヴァンス（ジャズピアニスト）と組んで2枚のアルバムをリリースしている。この復帰第1作「ジ・アート・オブ・エクセレンス」を最初はLPで、その後はCDで購入し、この頃からCDが全盛期（いまはアナログ：LPが相当復活しているが）を迎え、CBSソニー（現ソニーミュージックレコーズ）が名盤復刻したものや輸入盤でオリジナルのLPアルバムのCDが発売されると、これまでずいぶん収集して聴いてきた。　私がいまでも心に残っていることがひとつある。それは、1980年代後半から1990年代のある時期に、民放が夜にトニー・ベネットの野外コンサートを衛星中継したことがあった。私は途中から放送されていることに気づいて観たのだが、彼がいくつかの曲を歌い終えて、会場が静かになったとき、おもむろにピアノに近づいて、そこに持っていたマイクをおいて、ピアノの演奏だけで「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」をマイクなしで歌いだしたことに、驚くというより、その声が鮮明に会場に響き渡ったのことに本当に感動した。まさに、あのフランク・シナトラをして、金を払ってでも聴きたい歌手と言わしめた、トニー・ベネットの歌唱力が本領発揮された場面であったと言えよう。　その後も、よくトニー・ベネットを聴いてきたが、亡くなった家内が彼の歌い方が好きではなく、ちょっと遠慮して聴いていた時もある。ここ数年は家でCDを聴くより、スマホに録音して通勤電車のなかで、疲れたときに聴いていた。本当に私にとって、中学・高校時代のアンディ・ウィリアムス、大人になってからのトニー・ベネットは、かけがえのないアーティスト（トニー・ベネットの場合はエンターテイナーと呼ぶべきだろう）である。　ここで、少し私なりのトニー・ベネットの聴き方というより、このブログを読んでくださっている方へ、私の思い込みをお伝えしておきたい。私は彼の「アローン・トゥギャザー」というバラードのアルバムが好きなのだが、夜高級ホテルのラウンジでこのアルバムを聴きながら、ウィスキーの水割りなど飲むと雰囲気がでるのではないか（私は飲めないけれど）と思ったりしている。もし、このブログを読まれて、初めて彼の歌声をお聞きになるのであれば、数十枚におよぶ彼のアルバムに収録されているジャズナンバーやスタンダードの名曲もいいけれど、試しにアルバム「霧のサンフランシスコ」に収録されている「霧のサンフランシスコ」はもちろんのこと、「テンダー・イズ・ザ・ナイト」（映画「夜は帰ってこない」のテーマ曲。原作はフィッツジェラルドの『夜はやさし』）、「スマイル」（チャップリンの「モダンタイムス」のテーマ曲）、アルバム「トニーの素晴らしいジェット旅行」の中に収録されている「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」とボサノバの「ハウ・インセンシティヴ」、そのほか「ムービーソング・アルバムの「いそしぎ」、古いところでは「ビコーズ・オブ・ユー」、「ラグズ・トゥ・リッチズ」、「ストレンジャー・イン・パラダイス」、アルバム「サムシング」に収録されているビートルズの「サムシング」、「ロング・アンド・ワィンデング・ロード」をカバーしたもの、ルイ・アームストロングが歌ってヒットした「この素晴らしい世界」のカバー（この曲のなかにはルイ・アームストロングが少しだけだが一緒に歌っているように聞こえる）などがお薦めである。これは、あくまで私個人の好みによるものなので、ご了承いただきたい。　今夜は、トニー・ベネットのこれまでの様々な活躍を偲びつつ、彼の冥福を祈りたい。