上海株式市場、下落続くも怖れなし 市場急騰時に得られる大きなリターンを狙う
今年に入って乱高下が続く世界の株式市場にあって、唯一、傾向が変わらない市場がある。何が起きても、上海株式市場が下落をたどるという傾向は揺るがない。例えば9月の初め、米連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)に対する米政府の救済措置の発表を受けてほかのアジア市場が急伸する中でも、中国株は下落したインフレや輸出の減少、米国はじめ諸外国の需要減に対する投資家の懸念を反映し、上海株式市場は年初来で64%下落。アジアの中でも群を抜いて低迷している。下落はまだ続いている。2007年10月16日に史上最高値の6124ポイントを記録した上海総合株価指数は、9月17日にはその後の最安値となる1929.047ポイントで取引を終えた。 上海市場を専門とする数少ない米国人ファンドマネジャーにとって、今は決して良い時期ではない。米ミシガン州立大学卒のアーロン・ボースキー氏(33歳)はそんな1人。上海上場株に特化した独立系ファンド、マルコ・ポーロ・ピュア・アセット・マネジメント(香港)の創業者兼CEO(最高経営責任者)だ。インサイダー取引で有罪判決を受けた1980年代の著名投資家、アイバン・ボースキー氏のいとこでもある。 ボースキー氏は、マルコ・ポーロは上海市場崩壊の“象徴”だと自嘲気味に言う。同氏は2004年にこのファンドを設立した。今年初旬のピーク時には1億7500万ドルの資産を運用していたが、上海市場の暴落が主因で、現在の運用資産は約1億1500万ドルまで減少したという。「我々は上海市場を襲った激震の震源地にいる」と、ボースキー氏は言う。 打撃の規模はどの程度なのだろうか。ボースキー氏は上海株暴落を2000年代初めのIT(情報技術)バブル崩壊になぞらえる。しかし、ITバブルは数年かけて崩壊したが、上海バブルはわずか数カ月ではじけた。 中国株は「きっと上がると信じている」とはいえ、ボースキー氏の顧客が被った傷は浅い方だ。上海市場が好調だった2006年と2007年の大半には、マルコ・ポーロは市場平均を上回る100%以上のリターンを上げていた。「昨年は133%のリターンを上げた」と、同氏は誇らしげに語る。現在、同ファンドは年初来37%下落しているという。それでも、同時期に46%下落した米モルガン・スタンレー(MS)の中国A株ファンド(CAF)などのライバルと比べればまだましだ。 上海市場がピークに達した昨秋よりかなり早い段階の昨年8月、ボースキー氏らは景気後退局面を視野に入れた策を講じ始めた。空売りが禁止されている上海のような株式市場では難しいことだが、マルコ・ポーロは海外ETF(上場投資信託)や先物の空売りでリスクをある程度回避できたという。だが、「基本的に、当ファンドは値上がりを期待して株式を保有するロング重視のファンドだ」と、同氏は説明する。中国株の展望については、今年の暴落にもかかわらず「きっと上がると信じている」と言う。 それに、新興市場に投資する人なら誰でも知っている通り、上海のような市場は臆病な人には向かない。マルコ・ポーロへの出資者は、乱高下する市場が急騰する時に得られる大きなリターンを狙っている。ボースキー氏はファンド設立直後に市場が41%下落したがその後急騰したことに言及し、「市場の暴落を経験するのは初めてではない」と語る。 とはいえ、今回の暴落には中国株の上昇を固く信じる投資家さえも不安を抱いている。中国政府が株価安定基金の設立などで上海株式市場の回復を図ると見る向きもある。だがボースキー氏はその説を否定する。 「異常なほどの暴落は、中国政府が成熟していることの表れだ。中国政府は大規模な介入はせず、市場の成り行きに任せている」(ボースキー氏) 株価が今よりも下落する余地はあまりない?有名ないとこのアイバン・ボースキー氏はマルコ・ポーロとは関わりがないようだ。「アイバンは偉大な革新者だった。過ちも犯したが」と、アーロン氏は話す。そしてアイバン氏を「今日のヘッジファンド業界を活性化させた買収合併アービトラージ(裁定取引)を実質的に考案した」人物と評価する。 悲観的な現状において明るい材料を挙げるとすれば、上海市場には下落の余地があまりないことだとボースキー氏は言う。 上海上場銘柄の平均PER(株価収益率)は現在15倍で推移している。1年前には72倍以上だった。上海市場誕生以来の平均PERは約30倍だと同氏は指摘する。 「もう相場は底に近い」と、同氏は期待を込めて言う。さらに、非常に急激な大暴落だったため、来年は反動が期待できるという。「ハードルは大きく下がっている。(来年は)簡単に利益を上げられるだろう」。最新中国株情報 WINTRADE