2007/04/07(土)02:19
棚から100冊<其の伍>「マローン御難」
「マローン御難」(ハヤカワ文庫)
クレイグ・ライス 著 山本やよい 訳
有能で誠実な弁護士が、自分が巻き込まれたトラブルをどうにか切り抜けようと
奔走する殺人ミステリー。
もとい、有能なことに誠実な弁護士が。
依頼人には常に誠実。どういうお人がそうであれ。
何しろマローン弁護士は、灰色のものを白に。白いものは当然白に。
黒いものも何というか、白に。
本文の端々にも出てくるけれど、以前からさながら司法の錬金術師的所業と言えそうなそれはもう輝かしい仕事振りらしいです。
本作ではマローンを中心に殺人事件のお膳立てが整い、事情を飲み込めない弁護士は、いきなりトラブルの真っ只中に放り出されてしまいます。
彼は持てる知識とコネを駆使して、誰に対しても「問題はないとも。」と信頼のおけるきわめて明確な根拠があるように、聴衆に安心感を与える声と表情で言いさしながら、何とかそのいただけない「罠」から逃れなければなりません。
24時間以内に。
タイムリミットあり! マローンのときめきも2~3回あり(よくときめく暇があるな~)!
一体どうしろと言うのかハイパーなお子様一人あり(早く家に帰ってくれないと、こっちが犯罪者)!
本人も事態を把握出来ていない状況における主人公の弁護士の、切り替えの早い「頭の回る」頭の中身が面白かった。
「いい仕事をする」マローンだから、警察にも頼り(?)にされ、しかし時に「高潔の士」から忌み嫌われることも、またあちこちで画策の種を芽吹かせるワルイお方達に気安く声をかけられることも(それで一緒につるんでいるのじゃ世話がないけれど)。
今回も『大活躍』だった、トラブルメイカーのブロンド美人(「美人じゃないブロンドがいるの?」)とその夫に、マローンがいろいろな意味で振り回されつつ事件を解決(玉虫色に?)したのであろうその前作も、とても読みたくさせました。
けっこう昔の本(1957年頃に発表されたのかな。邦訳の初回は1959年です)なのですが、昔の感触はしません。全然古さを感じなかったです。
訳者の方がいつの時代でも「今」の感覚で読みやすいような訳し方を心がけているからなのかなと思いました(本書は2003年に山本やよいさんが改訳)。
作者のクレイグ・ライス。
ストレスからアルコール依存症になり、1957年8月に本書の発表直後49歳で急逝。
作品からは、暗い感じはしてこないんですがね。
むしろあたたかいし楽しいほうの読後感です。
ただ、マローンがジンを飲む時は、必ず「ビールをチェイサーに」を心がけさせます。
でもいささか、必ず書き添えてもたいして免罪符にはならん気がする程にはジンの飲み過ぎのような気もする。
原題は「Knocked for Loop」で“ぶちのめされる、泥酔する、はめられる”というような意味があるそうです。山本やよいさんがあとがきで書かれているように、本作にはいかにもうってつけのタイトルでした。
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本が好き。