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カテゴリ:BOOK REVIEW
落合恵子『母に歌う子守唄』(朝日新聞社、2004年) 要介護度5で多くの病を持つ筆者の母。筆者は母のプライバシーとの関係から本書を執筆することに迷いがあったようだ。ただ、介護の個人体験を普遍化したいという筆者の強い思いが筆を運ばせたのだろう。筆者の職業は作家なので新聞、雑誌、講演など忙しい日々を送っている様子が伝わってくる。その中でホームヘルパーの助けを借りて、介護を行う毎日を過ごしている。 本書の特徴は作家の個人体験であることだ。巧みな描写や叙述、会話を通じ介護体験をリアルに描いており、筆者自身が感じる迷いや喜びが如実に伝わってくる。その表現力によって、本書は読者自身が現場で介護に携わっている雰囲気をかもし出すことに成功している。また、これから介護を携わるかもしれない読者には、自分自身が介護をしている将来の様子を想像させる。私自身この作品を評価できる理由がここにある。エッセイを味わうことができるだけではなく介護保険の利用、ヘルパーや医者との接し方、痴呆の実態を筆者の体験から確実に学ぶことができる。 後半部は彼女が医療や介護関係者と接した中で感じた医療や介護の問題点を示している。「うるさい家族」となり医療、介護関係者に自分の意見を積極的に訴えかける著者の姿勢を見ると母への愛がさらに伝わってくる。医療や介護に対して「うるさい家族」になることが医療や介護の改善につながると主張している。 先週、石川県の老人ホームでヘルパーによる介護虐待事件が起きた。事業者側やヘルパー個人の質の問題もあるのだろうが、同時にヘルパー1人の労働力負担も大変なのだろう。個人の費用負担も大変である。筆者によると年間平均300万円の介護費用がかかるという。この負担は一般世帯ではなかなか負担に耐えられる額ではない。そう考えると、高齢化に拍車がかかるといわれる今日、医療、介護問題に対してさらに注目していかなくてはならないと感じる。本書は非常に有用であり、知人にも勧めようと思う。エッセイってこんなに素晴らしいんですね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年03月06日 18時30分06秒
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