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よろず屋の猫

『悪夢の棲む家』 小野不由美

今アニメで放映されているのは“悪霊”シリーズと呼ばれていまして、現在のエピソード『血塗られた迷宮』編の後に、『呪いの家』編、更にマンガ化されていない『ゴーストハント・悪霊だってヘイキ!』と言う小説があります。

『悪夢の棲む家』は“ゴーストハント”シリーズと名づけられた続編ですが続きは無いです。

ネタバレしています。かまわないわと言う方だけ、どぞ。

阿川翠は母と供に念願のマイホームに引越してきたが、途端に怪現象に悩まされる。友人の咲紀に相談したところ、咲紀の同僚の広田と供に渋谷サイキックリサーチ(SPR)に依頼に行くこととなる。
そのSPRではナルがリンと供にイギリスから帰国(と言うより来日)したところ、依頼を受けることとする。

母子二人では心配と広田も泊まることになって家に、調査に入るSPR。一室を借りてベース(調査のための機材の置き場所、メンバーの集合場所ともなる)を作る。
三方が隣家に近く隙間が少ないためか、窓と言う窓にガラスがはめ込まれている不思議な家。
起こる怪事件はいつの間にか物の置き場所が変わっていたり、家電に不具合が起こったり、電話に雑音が入りほとんど聞き取れないと言うもの。
また翠の母・礼子は誰かの気配を感じるとも訴え、精神的にも不安定に陥っている。

調べるうちにきちんとした原因を見出したナル。
隣家の笹倉が、翠の家を購入を望み、していた嫌がらせも分かり決着。
だが、調査を終了させるには引っ掛かりがある。

一方、広田は強固な霊現象否定者で、霊能力者を完全に否定、ことあるごとにSPRに突っかかる。そしてナルに言い負かされて、自分は東京地検特捜部の者で、ナルがジーンを殺したと疑っていることを明かす。

解決したはずなのに続く怪現象。
対応すべく、次々と呼ばれる協力者のぼーさん、真砂子、ジョン。
ナルは家から見つけ出した品物でサイコメトリーを試みる。持ち主は子供、その子が語るかつてこの家に住んでいた家族に起きた悲劇。また“コソリ”とは何?。

麻衣の夢にジーンが現れる。
死体を発見したことで、ジーンは成仏したはずなのに。

安原がついに見つけたこの家の真実。
自らも霊現象にあった広田は、頑なに反発することを改め、調査に協力、SPRは、翠と笹倉、両家のそれぞれ前に家に住んでいた家族達の間に起こった壮絶な事件の内容を知る。
数々の怪現象はそれが原因だった。
問題なのは被害者だった翠の家に住んでいた一家の霊ではなく、加害者である隣家の住人の霊。

綾子も呼ばれ、協力者達とリンは建物の外からの除霊をすることに。
しかしその夜は事件のあった日。加害者の霊に憑かれた笹倉家のものが、家に残る麻衣、ナル、翠、礼子、広田を襲う。

その時、鏡を介して現世に姿を現せるようになったジーンが。
ナルはジーンの力を借りて、広田と供に霊と戦う。


悪霊シリーズのティーンズハートからホワイトハートに移って、麻衣の一人称から、三人称に変わっています。
昔はティーンズの方は“主人公は普通の女の子で、その子の一人称でなければいけない”と言うきまりがあったと、小野先生があとがきに書いています。

三人称になったことで、麻衣が登場しないシーンも書けるようになりました。文章も落ち着いて、小野先生のホラーだなぁと感じさせてくれます。
ティーンではない私としては、こちらの方が好きです。
導入部分は翠視点で書かれていて、まだ家を購入する前ですが、得体の知れない恐ろしさを感じます。

最初のうちは霊現象と思えるものも、何らかの原因があって、また人の悪意によるものもあり一段落かと思わせます。しかし明らかに霊現象と思えるものは続き、徐々に正体も分かる、この辺りが恐いです。

ナルが、咲紀が霊体験を話して自分は霊感があると言うと、ハイウェイ・ヒプノシス-高速道路催眠現象を持ち出し、幻覚ですねと告げるシーンがあります。
ナルは研究者であって、霊現象と言われているものには科学で説明がつくものがある、しかし説明もつかないもの確かにある、と言うスタンスに立っています。
この考え方が結局広田を変えて行く訳ですが、これは小野先生の霊現象に対する考え方でもあるのかもしれないですね。
ぼーさんに、霊能者はペテン師が多いから「俺は霊能者、キライだもん、基本的に。」なんて発言もさせてます。

かつての両家にあった事件は本当に悲惨で、子供も被害者になっているので、心が痛みます。家族の一人の少女は、一家惨殺の夜は家に居らず、帰って来た家に家族がいないことに不安を覚え、その思いが殺された(帰って来た日に、加害者に殺されました)後も残っていたのです。その少女に「帰ってきてはダメ。」と語りかけていた家族の霊たち。
悲しい話です。
SPRのおかげで成仏出来たなら、本当に良かったね、と思います。

さて、このシリーズの面白さは話の巧みさと並んで、登場人物のやりとりがあります。そこら辺りを。

先ず、麻衣。夢の中で会っていたのがナルではなく、実は死んだ双子のジーンだった訳で、麻衣の好きな人は結局ジーンだった、と言うのが“悪霊”シリーズの最後でした。
ナルに恋愛感情を持たない麻衣は強いです、言いたいことはバシバシナルに言ってます。
ナルはそうそう麻衣に言い負かされるようなキャラではないですが、冒頭部分でイギリスから帰国早々依頼を受ける事になったのは、麻衣にやりこめられたから。
スカッとしましたよ。

麻衣はその雰囲気で広田、翠や礼子の気持ちをほぐしていきます。この麻衣が良い感じです。
“悪霊”シリーズでジーンと麻衣の雰囲気が似ているとありましたが、分かる気がします。ジーン亡き後、麻衣が、かつてジーンのしたことをするようになるのかなぁと想像させます。
その一方でナルは真摯な態度で調査に臨んでいるので、翠たちの信頼感を得ていきます。

ナルは相変わらず人を見下した話し方。「バカだな。」「物を知らないな。」を連発。ジーンにまで「役立たずだな。」と言っているのにはビックリ。

広田とナルが口論するシーンの一つに、ジーン殺害を疑われたナルが、警察には被害届も出した、しかし何をしてくれた、見つけたときは解剖も出来なかった、と言うのがあります。
これを聞いてメンバー達はそれは犯人を捜すため、やはりお兄さんへの思いがあったか、などと解釈します。
ところがナルは続けて、「ジーンは真性のサイキックだったんだぞ。徹底的に解剖すれば(霊現象を解明する)手がかりになったのに。」とのたまうのですよ。
これにはナルに恋してる真砂子ですら、「わたくし、ナルの家族でなくて、心底よかったと思いますわ。」と言います。
ジーンが成仏できずに現世にいるのも分かる気がします。
こんな兄弟が居たら、そりゃ心配だわ(ナルをよ)。

この話で一番面白かったのはナル。
霊との戦いの場面ですね。
ジーンが姿を現すのは鏡の中なので、ナルも当然鏡を見るわけです。
この姿を広田に「自分の姿に見とれてる場合か。」と言われます。
サイキックを使う場面で、鏡の中のジーンの力を借りるために(力の補給みたいなもの)、鏡の前に立ち、手と手と合わせます。これをチャージとよんでいます。
そこで再び広田、「いちいち鏡にすり寄るな。」
戦いが終わり鏡の中のジーンと語らうナル。その姿にメンバーの会話。
「とんでもない光景だな。ああして鏡になついていると、正真正銘のナルシスくんだ。」
「まったくですわね。」
「はまりすぎて、ぶきみ・・・。」

ちょっと鏡の前にじーっと立っているナルを思い浮かべてみてください。
もう爆笑ものです。
あぁ、このシーンをいなだ先生の絵で見たい!!。

戦いのシーンで皆は二階にバリケード築いてこもっています。霊能者達は家の外、この状態にまだ気付いていない。窓は開かず閉じ込められた状態。一階からは霊に憑かれた笹倉家の気配がしています。
そこでナルは広田と供に一階に下りて、笹倉家と対する決意をします。麻衣はPKを使うつもりのナルを止めます。使えばナルの命に係るから。
その麻衣にナルは言います。
「依頼者は誰だ。守るべき人間を間違えるな。お前はプロだろう。」
こう言うところがカッコ良いんですよね、ナルって。



ジーンが成仏していないので、小野先生は続きを書くつもりだったのかなぁと思ったので、ちょっと調べてみました。
小野先生が続きを書かない理由は、“悪霊”の読者にとって『悪夢の棲む家』は望んでいたストーリーと違っていた、また小野先生はファンが望むような話は書けない、と言う事だそうです。(Wikipediaより)

ごめんなさい、小野先生。私、思ってしまいました。麻衣とナルの恋愛は無し?、って。

でも小野先生が恋愛話をあまり書かないことはよーく存じてますので、その要素は無くたって良いんです。アニメ化された今、続きを是非!!。
それから講談社様、同人誌で発表された短編を一冊にまとめて出して頂けないでしょうか。

まれに中古が入荷することもあるようですが、入手は困難です。
私は図書館で借りました。手元に置くことに拘りがなければ、お近くの図書館で探してみてはいかがでしょうか


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