3684484 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

よろず屋の猫

『煉獄の丘』ウィリアム・K・クルーガー著

一作目の『凍りつく心臓』がアンソニー賞、バリー賞をダブル受賞したコーク・オコナーのシリーズの三作目です。
シリーズはハードボイルドの良作です。



『凍りつく心臓』が日本で出たのが2001年、その時点でアメリカでは三作目が出てたはず。
随分待たされたものです。
正直言って、前二作の記憶もあいまいで、設定が似ている部分もあるスティーブ・ハミルトンのアレックス・マクナイトのシリーズと間違えそうになりました。
(そんなおバカは私だけでしょうが)


コークの住むミネソタ州オーロラの町の製作所で爆破事件が起こり、さらに焼死体が見つかる。
“環境保護の戦士”を名乗るテロリスト集団から犯行声明が出される。
事件はエコロジストのグループと地元住民と対立に発展。
コークは妻のジョーの反対を押し切って捜査に加わるが、事件の真相にはなかなか到れない。
そんな中、更に製作所の所有者リンドストロム家を狙った事件が起きる。
それはコークの家族をも巻き込むものだった。



コークはアイルランド人と、ネイティブアメリカンのオジブワ・アニシナーべ族の血を引く。
ネイティブと地元民の対立の際に問題を起こし、保安官を辞め、ハンバーガーショップを開いている。
妻のジョーとは別居。
・・・と言うのが一作目の冒頭の状況。
いろいろあって、三作目では一緒に暮らしているが、危なっかしいロープの上を歩いていると言う感じ。

コークと言う人は子煩悩な人でして、何より家族が欲しいと思ってるのですね。
ところがジョーとの間には一作目の事件がまだ横たわっている。

一方、保安官の仕事は辞めたものの、事件があると飛び込んでいく。
コークの父も立派な保安官だったし、コーク自身も保安官の仕事に誇りを持っていたのでしょう。
そんなわけで未練があるわけです。
そしてこの三作目では、現保安官が任期満了後は立候補しないと言う事で、コークにお声がかかる。

ところがジョーとしては立候補により、過去の事件が世間に知られるのではないかと恐れている。
コークはネイティブの血が入ってるし、元々オーロラの出身ですから皆に受け入れられていますが、ジョーは自分に対してのよそよそしさを感じているのです。

『煉獄の丘』はこれらの事に決着がつく巻です。
コークが家族のために頑張ります。
ジョーが活躍しているのも、私には嬉しいです。

前二作を読まなくても、この本から読んでも充分楽しめます。
説明の記述はちゃんと書いてありますので。

さて、本書の魅力はネイティブアメリカンたちが頑固に守ってる信仰や、習慣が随所に出てくるところです。
彼らが守る森林地帯の描写も良いです。
特に凍てつく冬の、人を冷酷に突き放す自然の恐さの描写が好きです。

また彼らが抱える問題、現実に今のアメリカを生きるネイティブとして生まれる同族間の対立も書かれています。
コークは基本的にネイティブたちを尊重し、しかし時にオーロラの白人達との間にたって悩みます。
どちらが良いとも正しいとも言えないネイティブたちの問題に、古き善き文化と新しい世界との、そのバランスの難しさは、何もネイティブアメリカンだけのものではないと思えます。

もう一つ、このシリーズの良いところとしては、ちゃんと“どんでん返し”があるところ。
ミステリーなので、やっぱり最後にあると満足します。
たとえそれが、「そうじゃないかと思ってはいたけど。」な結末であろうと。

ネタバレになってしまうので詳しく書けませんが、事件の結末の一部には、個人的にはすっきりしません。
“死”でもって感動を呼ぶと言うあり方は、余り好きではないので。

米国では既に六冊が刊行され、四作目、五作目はアンソニー賞を受賞しているそうです。
お願いですから、早く訳して欲しいものです。

一作目『凍りつく心臓』


二作目『狼の震える夜』
少年が語る伝承話が良いです。


© Rakuten Group, Inc.