2009/02/01(日)23:51
金曜日のラララ 7
前回までの話はこちらです。
第三音楽室には防音を施した二つの小さな個室がある。
元々は他の音に邪魔されずに楽器の練習をしたり、レコードを聴く為にあるのだが、軽音部の連中にとっては格好のデートスポット化している。
さすがに学校内でそうきわどい事はできないが、キスするにはもってこいと言うわけだ。
今も二年の先輩がA室に、彼女を連れ込んでいる。
私と博志は幼馴染の悪ガキコンビのように、顔を突き合わせて、ヒソヒソ話に興じていた。
「どれ位持つかなぁ、雄二先輩」
「うーん、半年以上は大丈夫」
「大甘。三ヶ月がせいぜいだぜ」
「そうかなぁ、けっこう本気っぽく見えるもん。意外と上手くいくと思うな」
もちろんこれには私の願望も多分に含まれている。
どうして軽音部の男はチャラいのが多いんだ?。
すぐに終わってしまうような付き合いなら、最初からしないほうがマシってもんだと思うんだけど。
しかし博志の分析はシビアだ。
「最初は誰だって本気に見えるさ。それが続くかは別問題」
「それは博志のことでしょうが」
なぁんて下らない事をあれこれ言い合っている私達に、シンバルで遊んでいた同じバンドの慎哉が呆れた声を上げる。
「博志、文化祭が近いんだから、さっさと曲を作っちゃってくれよ。博志が作んなきゃ、麻美が詞をつけられない、オレ達だってアレンジできない・・・ですよ」
慎哉の髪は真っ黒で太くて、クルクルと天然パーマ。
大きな瞳と、逆にちょんとついてる小さな鼻。
愛すべきお調子者。
広い音楽室の前方は一段高くなっていて、ステージとして使える。
そこにピアノ、キーボード、ドラム、アンプにスピーカーなどなど一通り置いてある。
軽音部には一年と二年に二つずつのパンドがあって、三年生はほぼ引退して受験体制・・・ってことになってる。
今は二年の片方が練習中だけど、アンプにつなげてないので、各自好き勝手に楽器をいじってるって感じ。
ボーカリストは個室に彼女と引きこもっている、その人だ。
先輩がこんな状態だから、私達は音楽室後方に置かれたドラムセットの回りにたむろして、彰が「これ良いよ」と持ってきたテープをラジカセで聞いている。
二年生のもう一つのバンドは今日は揃っておさぼり。
一年生の片方は、個室Bで大音響でレコードを聴いているらしく、扉から低い音が漏れ出してる。
彼らはイギリスのハードなバンドが好きだから、大御所グループのどっちかかな。
そもそも軽音部に“練習”はない。
ただただ音楽と遊ぶために集まっているだけ。
運動部から「おふざけクラブ」と陰口たたかれても仕方がない。
「文化祭まで二ヶ月切ってるんだぞ」
彰はシャカシャカと情けない音をさせて、ギターの弦をはじいている。
彰の印象は一言で言えば「鋭角」。
とがった顎、鋭い視線、高い鼻、切れるような唇の端。
この顔で素っ気無い事をバシバシ言うので、彼のことを本気で恐がってる女の子もいる。
ホントはクールな振りをしているだけなんだけどね。