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カテゴリ:金曜日のラララ
前回までの話はこちらです。
金曜日のラララ (1) 金曜日のラララ (2) 「こーじ!!」と博志が大きな声で呼びかけ、二人ともがこちらを向いた。 「よしなさいよ」 私は肘で博志を突こうとしたが、博志はその肘を取って自分の方に引き、更に抱えるように私の口元を押さえ込んでしまう。 結構細身だと思ってたのに、さすがに男の子の力は強くて、「ちょっと離して」と言う私の声も、博志の大きな手のひらの内に消えてしまう。 私達を見る浩二の瞳に、一瞬淡い影がよぎる。 私の事、それほど本気だったわけでもないのに、今では由美がいるというのに、こんな私と博志を見るのはちょっとね・・・、そんな表情を浩二は時々する。 由美がもの凄く恐い目で睨んでる。 いや、博志を見てるのだ。 「ほうら、やっぱり博志、何かやったんじゃない?」 遥がこっそりつぶやいた。 「由美がお前にシカトされたって言ってる。誤解だって言ってくれよ、博志」 うっわー、浩二のその声、情けない。 博志はふいに力を緩めて私を解放すると、かったるそうな足取りで水飲み場に行き、水道の蛇口をひねった。 身体を傾けて、突き上げる水に唇を寄せて含む。 「生ぬるい、まじぃ」 「呼んだのに振り向きもしなかったじゃないの」 キイキイ声を由美がぶつける。 アララララ・・・と私と遙は音が出ないように舌を打って、顔を見合わせた。 「“一ぱつ触発”の“ぱつ”ってどう言う字を書くんだっけ」 暢気な声で慎哉がボソリと言う。 「バカ、“一触即発”」 彰ってばこんな時までなんで冷静?。 「おい、博志・・・」 言いかけた浩二の顔に水しぶきがかかった。 博志が蛇口の元を指で押さえて、浩二に向けたのだ。 呆然とする浩二の髪から水滴が一粒一粒、やけにゆっくり落ちるのが見える。 「オレの名前はね、柏木って言うんだよ。だからちゃんと“柏木君”って呼んでくれたら、返事するよ。分った?」 由美へのセリフのくせして、彼女をチラリとも見ない。 だから由美が耳まで真っ赤に染まってることに、博志は気付かない。 でも例え気付いたとしても、博志は全く意に介さないだろう。 由美が左手をギュッと握り締めた。 由美がラケットを持ってて良かった。 利き手があいていたら、由美は発作的に博志の頬をはたいていたかも知れない。 怒りより、むしろ羞恥心で、プライドの高い由美には耐えられないだろう。 由美とは同じクラスだけど付き合うグループが違うので、私はそう親しい感情を彼女に対しては持っていない。 自分の容姿への自信を隠そうともしない由美を、どちらかと言うと苦手としていた。 でもこれはあんまりだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年02月27日 23時07分30秒
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