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カテゴリ:金曜日のラララ
前回までの話はこちらです。
金曜日のラララ (1) 金曜日のラララ (2) 私は博志の横に行くと、水道の蛇口を博志に向けて全開にした。 私のテンションそのものに、水は勢い良く飛び出して、由美の右手の代わりに博志の頬をピシャリと打った。 慌てて博志がよけると、水は放物線を描いて下に落ち、乾いたコンクリートに染み込んで行く。 ボトボトボトと情けない音がしているのに、誰も笑わない。 「あなた一体何様のつもりよ。良いわ、私もこれから“柏木君”って呼ぶ。その代わりちゃんと“はい”って答えるのよ。“あぁ”でも“おぉ”でもないのよ、“はい”よ。そうだあなたも私を“櫻井さん”って呼んでちょうだい。“麻美”だなんて気安く呼び捨てしないですよね。」 一気にまくしたてた後、 「聞いてるの?、分った?、博志!!」 だなんて、自分でも何をいってるのか分らない支離滅裂っぷり。 「オ、オイ、麻美・・・。」 オタオタしてるのは浩二の方だ。 博志は濡れた前髪に指を突っ込んで、水を飛ばして遊んでる。 シャツの襟から肩までビショビショだが、この暑さなら気持ちが良いと言うもんだろう。 あ、虹がかかってる。 水の放物線の向こうに見つけて気がそれた途端、私の前髪からも水がしたたり落ちてきた。 博志が今度は私の方に水しぶきを飛ばしている。 本当に気持ちが良いじゃないの。 「アハハハハ」と博志が大笑いしている。 それからはもうバッド・トゥ・ミーのメンバーに遙、そして何と由美まで加わって、水のかけっこになってしまった。 一列に並んだ五個の水道の蛇口は全部開かれて、水は誰かの手によってシャワーのように辺りに散らばっている。 スローモーションで水滴が青空の中ではじける。 陽を受けて、キラキラ光って遊んでる。 私達の喚声が、その合間をぬって高く上っていく。 淡い色の虹が現れては消え、私達をからかう。 この子供じみた騒ぎに、グラウンドの運動部の連中が練習を止めて、呆れて見入ってる。 指差して、どこかうらやましそうにしているサッカー部の一年生は、同じクラスの男の子だ。 「こらー!!」と野球部の顧問の先生が、こちらに駆け寄ってきた。 「やべー、逃げろ!!」 水道の水を出しっぱなしにして、私達は反対方向に駆け出す。 「由美、クラブ、どうするんだよ」 「もう、今日はサボり」 「由美は良いよなぁ、着替えがあるから」といつの間にか、呼び捨てして博志。 振り向くと先生が水道の蛇口を閉めながら、「お前ら、いい加減にしろ!!」と怒鳴った。 「先生、ごめんねー」と私達は声をそろえた。 私達はまだ一年生で、先の事なんか何も心配しなくて良い。 ただこうやって楽しくふざけていれば、そのうち陽が沈んで、今日と言う一日が終わる。 明日だって面白い一日に違いない。 私は学校の敷地を囲むフェンスに沿って植えられている常緑樹の木々を見上げた。 深い緑の葉の間から、陽がこぼれ落ちてくる。 サーっと風がふいて、私の濡れた頬を気持ち良くなでていった。 まだ夏が濃厚に残る九月初旬の一日。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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