2024/01/28(日)22:22
ノンフィクション小説「節約好きで寒がりな男に起きたミステリー」前編
節約好きで寒がりな男に起きたミステリー
男は家賃を節約するため、いわゆる訳アリ物件を探して住んでいました。
「訳アリといってもその訳が問題だよね」
男はそお思い、不動産屋さんに尋ねました。
「この訳アリ物件の訳ってなんですか?」
不動産屋さんは、答えました。
「以前、住んでおられた方が心臓麻痺でこのお部屋で亡くなられました。」
男は思いました。
「なんだ。心臓麻痺か。殺人事件があったとか首つり自殺とかならさすがに嫌だけどね。心臓麻痺ならまあ自然死じゃないか。俺的には特に問題ないね。」
そしてその部屋に住むことになりました。
「駅から近いし、綺麗だし、以前住んでいたところよりも住環境がはるかに向上した上に家賃が6000円も安くなった。嬉しくてしょうがない。」
男は大変喜んでおりました。
さて、その男には節約する上で一つ弱点がありました。
それは、寒さに弱いということです。
アパートの決まりで石油ストーブのような炎が出るような暖房機器は使うことができません。
なので男は、エアコンとオイルヒーターを併用していました。
寒がりなので電気代が冬の寒い時期には急増しました。
電気代が一番安い月の5倍以上にもなりました。
「さすがにこの状況はなんとかしないと・・・」
「そろそろ、あと1カ月くらいで暖房機器を使わなくてはならなくなる寒い冬がくる・・対策を取るなら今だ、今ならギリギリ間に合う!」
そお思った男は一念発起しました。
「よし!この冬は防寒対策を徹底するぞ!多少お金をかけても、冬の電気代を半分にできればすぐに回収できるはずだ!」
さっそく、男は、コルクマットを購入し、床に敷き詰めました。
「おおー!あったかい!足が冷たくないぞ。これは良い買い物をした」
次に、丈の長い防寒着を購入しました。
「これを室内で着ていればあったかいに決まってるよなー」
今年、はじめて対策を取ったこと以外にも以前から窓ガラスに断熱シートを貼るとか、床にまで届くカーテンの設置はしていました。
とはいえ、寒さに弱い男なので、暖房機器を使わないわけにはいきません。
去年の冬はエアコンとオイルヒーター弱モードを併用していました。
「よし今年は、エアコンは使わず、オイルヒーターも省エネモードでしか使わないようにしよう」
その他にも男は照明類をお風呂場以外全てLEDに変更しました。
そして電力会社も変更しました。
「電力自由化ってありがたいよねー」
そしていよいよ、暖房機器を使わなくてはならないほどの寒い時期が到来しました。新たに契約した電力会社に切り替わったのは、ほぼ同時期でした。
変更した電力会社を使用し始めて5日ほどたったころ男は自分が使っている電気使用量を調べました。
男が新たに契約した電力会社は自分がどのくらい電気を使っているのか、時間別、日別、月別で使用量をネットで確認ができるようになっていました。
「これだけ対策したんだ。昨年の半分くらいにはなっているだろう。」
そお思いながらワクワクして電気使用量を確認したところ、男の電気使用量は半分になるどころか
このままでは昨年の2倍以上になるペースになっていました。
「そ、そんなバカな!?どういうことだ!?」
男は狼狽しました。
無理もないでしょう。
あれほど電力削減に努力したにもかかわらず電気使用量が2倍以上になってしまったのですから。
まさにミステリーです。
「これだけ突然電気使用量が増えるということは・・・ま、まさか漏電!?」
「漏電しているのならばこの状況の説明がつく」
そお思った男は電力会社に問い合わせの電話をしました。
サポートの女性は「漏電ではありません」とキッパリこたえました。
「漏電ならばなんらかの対策を取らない限りずっと漏電しているはずです。お客様の場合、電気使用量ほぼゼロの期間が存在します。なので漏電ということはあり得ません」
節約のため冷蔵庫も使っていない男は、外出している際の時間帯は、ほぼ電気使用量ゼロになっていました。
男はその説明には納得しました。
しかし、いや、だからこそ納得できませんでした。
男は現在の自分の状況をサポートの女性に説明しました。
「アタクシは、昨年はエアコンとオイルヒーターを併用していました。今はオイルヒーターのみでエアコンは全く使っていないんです。
それなのに電気使用量が増加するっておかしくないですか?」
サポートの女性はこたえました。
「あ、きっとそれですよ。オイルヒーターというのは、他の暖房機器と併用して使った方が電気使用量が抑えられるものなんです。」
「うーん・・・。」
男は声には出しませんでしたが心の中で思っていました。
「サポートのお姉さん。そのことは俺も知っているんだ。だから去年まではオイルヒーターとエアコンを併用していたんだ。今回はそれを超える節電をしたのに・・」
男はとりあえず漏電ではないことを確認できたことに溜飲をおろし電話を切りました。
「漏電ではない。と、なると、ほかにどんな可能性があるのだろうか?」
男は考えました。
「エアコンのリモコンを誤って踏んで知らないうちに運転していた・・とか?」
しかしそれもあり得ませんでした。
男は、エアコンを使わないと決めたときからエアコンのコンセントを抜いていました。
たとえリモコンを操作したとしてもエアコンは動かないのです。
「まさかLED蛍光灯は通常の蛍光灯より実は電気を沢山使うなんてことは・・・?」
「いや、もしそんなことがあったら世の中大騒ぎになっているはずだ。そんな話は聞いたことが無い。」
「他に電気を使うものと言えば・・・、パソコン、電子レンジ、スマホの充電、プリンター、洗濯機・・・。」
「あ、洗濯機か?」
男は洗濯機を部屋の外に置いていました。
なので、いくら戸締りをキチンとしても、他人が使うこともできてしまいます。
「いや、いくらなんでもそんなことは誰もしないだろう。絶対無いとは言い切れないが、まず無いだろう。」
「あと考えられる原因は・・・うーん」
「エアコンはフィルター掃除ちゃんとしていないと電力食うって聞いたことがある。オイルヒーターにもエアコンのフィルターに相当するところがあるのだろうか?」
男はオイルヒーターの説明書を調べました。
「フィルターに相当するものは・・・そおいうものは無いみたいだ。」
「本体の見える範囲は綺麗に掃除して、使わないときはビニールをかぶせていたから手入れ不足ってことも無いだろう」
「あ、そうだ。そもそも省エネモードだと強中弱に比べてどのくらい節電になるのだろう?」
オイルヒーターの説明書にはこう書かれていました。
強1200W:約32.4円/時間
中 700W:約18.9円/時間
弱 500W:約13.5円/時間
「省エネモード」を設定すると電気代がさらにお得に。
「まあこの説明通りならやっぱりオイルヒーターが原因では無いだろう。コンセントを抜いているエアコンも違うだろう」
実際、オイルヒーターのパネルには強モードにすると大きい炎のマーク、中モードにすると中くらいの炎のマーク、弱モードにすると小さい炎のマークが表示されました。
そして省エネモードにすると葉っぱみたいなマークが表示され、いかにも省電力な印象でした。
男はオイルヒーターを去年は弱モードで使っていて今年は省エネモードでしか使っていないのです。
「他に考えられる原因は・・・?。」
「だいたい、去年より半分の電気使用量になるはずが2倍以上のペースなんだ。なにか大きく決定的な違いがあるはずだ!」
「決定的に何が違うのか!そこを考えないと。」
とはいえ、男が所有している電化製品は、LED蛍光灯以外は去年と同じものです。
男は悩みました。
「あ、決定的に違うことがあるじゃないか!」
「電力会社、電力会社を変更したよな。・・・でも・・・」
男は電力会社を変更するにあたり、ネットで一括見積もりをしたり、自分で電気料金計算のシュミレーションを徹底的にやりました。
そして一番安くなると推定される電力会社に変更したのです。
なので、決定的に違うところではあるが、それによって電気使用量が2倍以上になるとは考えにくいのです。
「まさか、新たに契約した電力会社が何か不正なことでもやっているのか?」
「いや、不正とまではいかなくても、電力メーターの不良で使用量が正確に測れていないとか?」
男は新たに契約した電力会社のことを調べ始めました。
「ん! なんだこれは!?」
ネットで調べたところ
一人暮らしにはおススメできない〇〇でんき。
〇〇でんきのシュミレーション通りには安くならない。
等々が出てきました。
「○○でんきは、俺が新たに契約した電力会社だ。俺は一人暮らしだが、なんだっておススメできないんだ?!」
「なになに・・・〇〇でんきは20Aの契約ができない・・・と。うん。まあ確かに一人暮らしならば20Aで十分かもしれないな。」
男は30Aで契約していました。
しかし以前契約していた電力会社も30Aで契約していました。
「別の電力会社で20Aに変更すれば、安くできるかもしれない。が、電気使用量が増える要因とは違うよなー。」
「うーん・・・次に・・・」
「シュミレーション通りには安くならない? というのはどういうことだ?」
「俺は、電力会社を変更するにあたり、シュミレーションを徹底的にやった。〇〇でんきのシュミレーターも当然使った。その上で、決めたのに、それは間違いだというのか?」
男は〇〇でんきのネット情報を読み進めました。
すると、
〇〇でんきのシュミレーションには、燃料費調整額と再生可能エネルギー促進賦課金は含まれていないんです。
シュミレーターの下の方に小さい字でキチンと書かれていますよ。
という情報が書かれていました。
「え?! そんなのは気付かなかった。」
男はあわてて〇〇でんきのシュミレーターにアクセスしました。
すると確かに、
※シミュレーション結果には燃料費調整額、再生可能エネルギー発電促進賦課金は含んでいません。
と、小さな文字で書かれています。
「燃料費調整額? 再生可能エネルギー発電促進賦課金? なんだそれは?」
男は、さらに調べを進めました。
燃料費調整額とは、電気料金のコストのうち、燃料費は経済情勢(為替レートや原油価格等)の影響を大きく受けることから、電力会社の経営効率化の成果を明確にするため、燃料費の変動を迅速に電気料金に反映させる制度です。
「なるほど。原油価格や為替レートは変動するからな。それによって電気代を高くしたり安くしたりしているわけだ。どちらになるかわからないからシュミレーションに含めなくて当然だろう。これは納得だな。」
「再生可能エネルギー発電促進賦課金も、それと同じような理由でシュミレーションには含んでないのではないかなあ?」
男は、調べを進めました。
そして電力会社の公式HPにたどりつきました。
そこにはこんな説明がなされていました。
再生可能エネルギー発電促進賦課金」(電気料金の一部)とは、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」によって電力の買取りに要した費用を、電気をご使用のお客さまに、電気のご使用量に応じてご負担いただくものです。
「そもそも再生可能エネルギーってなんだ? 電力の買い取り? あ、あの太陽光発電のことか? そおいえば国か電力会社か忘れたけど、家庭で発電した電力を買い取る制度が騒がれてたことがあったなあ。その費用を俺たちが負担してるというわけだ。」
さらに調べを進めていくと、対象となる再生可能エネルギーは、太陽光以外にも風力・バイオマス・水力・地熱などがあることがわかりました。
2012年から導入された再生可能エネルギー発電促進賦課金は次のように推移していました。
(税込み単価)
2012年8月分~2013年4月分まで 0.22円/kWh
2013年5月分~2014年4月分まで 0.35円/kWh
2014年5月分~2015年4月分まで 0.75円/kWh
2015年5月分~2016年4月分まで 1.58円/kWh
2016年5月分~2017年4月分まで 2.25円/kWh
2017年5月分~2018年4月分まで 2.64円/kWh
2018年5月分~2019年4月分まで 2.90円/kWh
2019年5月分~2020年4月分まで 2.95円/kWh
「1kwhあたり2.95円か。これはバカにならない。これを含めていないのではシュミレーション通り安くならないのは当然だ。」
「それにしても導入当初0.22円/kWhだったのに、それが今では2.95円/kWhだなんて。」
男は計算機を出して計算しました。
「13.4倍か。すごい勢いで上がってるなー。おそらく今後も上がり続けるのだろう。ま、お上に逆らう気は無いんでね。ちゃんと払いますよ。」
「おそらく表向きは下がる可能性も無くなる可能性もあるということになっているのだろう。だから電力会社もシュミレーターに含むことができなかったのだ。」
「はぁーー・・・・」
男は大きく溜め息をつきました。
「それにしても長い時間をかけて調べたのに・・・」
そうです。契約しているアンペア数も燃料調整額も再生可能エネルギー発電促進賦課金も、電気代の増加には関係するが、電気使用量の増加には関係しないのです。
「はぁーー・・・・あとは電気メーター不良の可能性か。」
男は思い出していました。
電力会社を変更すると電気メーターがスマートメーターに変わると。
特に立ち合いも必要なく。いつの間にか変わっていました。
「スマートって言うから細くなるのかと思ったら特に横幅は変わってないと思うけどなー。」
「考えてみればスマートホンもどこがスマートなんだ? ガラケーの方がどう見てもスマートじゃん。」
男は、英語が苦手でした。
なのでスマートには「賢い」という意味もあるとは知る由もありませんでした。
「スマートメーター 不良・・と」
男は検索ワードを入力し、調べました。すると気になるニュースが出てきました。
スマートメーター発火事故相次ぐ、28件。原因は施工ミスと製品不良か!?
「むう・・こんなことがあったなんて大問題じゃないか!」
「しかし・・・」
そうです。漏電と同様にこういった事故の場合、なんらかの対処を取らない限り勝手に治るなんてことは無いのです。
「別に電気がチラつくことも無いし、焼け焦げの臭いも痕跡も無いもんなー。」
男は、調べを進めましたが、スマートメーターが2倍以上もの電気使用量を計測する不良は、全く出てきませんでした。
「うーん・・・それ以外の要因は・・・・こうなるともうオカルト現象だよ。」
男は思いました。
「あ、そっか。ここは人が死んでいる訳アリ物件じゃないか!。きっと妖怪のせいだ。亡くなった方が妖怪電気吸いになって、電気を吸っているに違いない!。」
「よーし、通販で妖怪ウォッチを買って・・・・」
「・・あはは・・はぁーー・・。ちゃんと考えよう。」
男は困り果てて天井を見上げました、そして部屋を見まわしました。
「ん・・・・! な・ん・だ!。こ・れ・は!? どおいうことだ・・・・!?」
「そおか!そおいうことか!」
男は、電気の使用量が増加した原因がやっとわかりました。
電気を食っていた悪魔は天使の顔をしてそこにいたのです。
いつも男のすぐそばに。
そして巧妙に潜んでいました。
前編終了 後編へつづく