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創作小説 よしぞー堂

創作小説 よしぞー堂

嫌いじゃない! 9





 俺は高校生で恋をした。
相手は俺の隣の席に座っていた。
はじめて見たのは入学式。
自分のクラスを探し、教室に入り席に座った。
高校生になった。中学の時より、ちょっと大人になれた気がした。
社会的な尺度から考えれば、高校生になったばかりの子供のたわごとにすぎない。高校生はまだ子供。
それでも俺は、ちょっとだけ大人になれた気持ちに満足していた。
青い気持ちに浸りながら、未来について思いを馳せていた。
その子は教室の出入り口の前に立っていた。
新入生のほとんどはもう教室に入り、自分の席に座って担任を待っていた。
喋ることなく、おとなしくしている中、女の子は顔をいちご色に染めて入ってきて、俺の隣の席に座った。
かわいい顔をしていると思った。
それ以上、興味は湧かなかった。
俺は宮城みたいに、イケメンではない。
俺の隣の名も知らない女の子は、俺とは違う世界の人間だと思った。相手にされるわけがないって。
でも、もし、この娘の恋人になれるなら、幸せだと思った。
担任が来て、ホームルームがはじまって、自己紹介がはじまった。
自己紹介も個性が出る。
お調子者を売りにするやつは、やっぱりそんな感じだ。
宮城はやっぱりクールだった。
山口は違う。なにかふてくされた感じで、簡素な自己紹介だった。クールとも違う。自分に近づくんじゃねぇって言っているような迫力があった。
二見は二見で輝いていた。二見が自己紹介をしたとき、男子はみんなとろけた表情になっていた。二見と一緒のクラスで運がいいと思っていた奴もいると思う。
そうして俺の隣の席に座る、その子の番になった。
「あっ、あの、えっと、ゆっ、ゆっ……」
「そんな緊張しなくても、いいぞ……」
「あっ、あっ、はぁ、はい……」
 担任はフォローしたのだろうけれど、その子はよけい追い詰められた感じになった。
「あた、しの、なっ、名前は、ゆっ、湯谷、まっ、まさ、こ、です……。趣味は、どっ、読書で、あっ、まっ、まんが、とっ、とかじゃなくて、たとえば、しょ、小説、とか……」
 くすくすと嘲笑が上がった。
俺は、笑わなかった、ではなく、笑えなかった。
 途切れ途切れでも、懸命に自己紹介をする湯谷を見て心が揺れた。
たぶんひとめぼれというやつなんだろう。
中学生の時も、女の子に魅入るなんてのはなかった。初恋は素ちゃん。それはあこがれだ。好きだったから初恋だけど、厳密にいうと、恋とは違う気がする。 
俺は湯谷のため、なにかしたくなった。
弱々しいこの子を、世界から守りたくなった。 
俺にとって湯谷雅子は、そういう女の子だ。 
 いまも変わらず。



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