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創作小説 よしぞー堂

創作小説 よしぞー堂

現代『ポケットの中の百円玉』 41枚



ポケットの中の百円玉
 

 灰色のカーテンの隙間から、まっすぐに伸びた光が、畳のささくれ立った部分を金色に照らしている。
 壁際に置かれたストーブに、火は点っていない。灯油が切れた事を示すランプも、オレンジ色が並び、空というのを示している。
 薄暗い六畳程の部屋には、素っ気無い冷ややかな冬の気配が満ちている。壁から対面の壁まで一本の紐が伸びており、ハンガーに架けられた皮ジャンと下着が、並んで揺れていた。
 ストーブの横には、台に乗った一四インチテレビが置かれている。ビデオやDVDやコンポやパソコンなどは無い。ただ、古ぼけたレコードプレーヤが、部屋の隅にぽつんとあるだけだった。テレビ台の脇には、ダンボールがあって、すえた匂いを漂わせているようなLPレコードが入っていた。その脇に、一本のマイクが転がっている。世間の影で作られたような、寂しい部屋だった。
 部屋の中央には、ちゃぶ台が置かれていた。灰皿があって、無数の煙草が押しつけられている。灰皿の周囲には、煙草の灰が散っており、その上には、一枚の白い紙が広げられていた。
 迅速に実行しなければならないとか、迷いを捨て躊躇無くとか、銀行? ATM? などと文字が書かれている。切り裂こうとしているような走り書きだった。
 谷岡は空気を吸い込むと、布団の上へ座った。一ヶ月ぶりに畳んだ布団だ。肘近くまで上がった紺色のスゥエットの袖をずり下げ、両膝とすね部分まで破れたジーパンの裾を捲り、くるぶしを掻いた。上下共に洗濯された気配は無く、皺だらけだった。けっきょく最後まで愛着も感傷も生まれなかったなと、谷岡は改めて一五年住んだ部屋を見回したあと、小さく咳をした。空気中に浮かんだ埃っぽい黴の臭いが、とても静かに飛散する。街へ出て二つ目に選んだ、ゴキブリと、ネズミの巣のようなアパートだった。
 始発電車が近づいてくる。窓の震えが徐々に激しくなり、そのうち、部屋全体がそのまま崩れ落ちそうな程に激しく揺れた。
 谷岡は自分の体を持ち上げるようにして重苦しく立ち上がると、窓へ近づいた。鼻の下と、顎に生えた髭は伸び放題で、もみあげとも繋がっており、顔が真っ黒になっていた。細い目の下に浮かんだ紺色のクマが、疲れた男という感じを実に相応しいものにしている。
 谷岡は灰色のカーテンを勢い良く開いた。金色の朝日が、ぱっと入り込んで来たが、部屋の中は少しも明るくならず、相変わらず日陰の底に沈んでいるような薄暗い気配で満ちている。
 自分は日陰の底に沈む虫だなと思いながら、谷岡は、カーテンから手を離し、外を見た。隣家の紺色の屋根と、赤茶色の線路が、清々しい朝日に照らされ輝いていた。新聞配達だろうカブのエンジン音が、近づいて来て止まった。
「そろそろか」」
 何をしているか分からない、胡散臭い外国人達が帰ってくる時間だった。外国人達は多国籍で、白人も居れば、黒人も居て、アラブ人やアジア人も混ざっている。谷岡は、外国人たちがアパート内でパケに入った白い粉を受け渡しているのを日常的に見ていたが、関係無いし、変な事に巻き込まれたくも無いので見て見ぬふりをしていた。だからといって気分が良いものでは無い。もうアパートを出るのだから、警察に通報しようとも考えていた、前日までは。今となって止める事にしたのは、これからやることについて、そこから足がつくかもしれないからだ。用心に越したことは無い。
 谷岡は転がる求人広告を手に取ると、力いっぱい丸めてから壁に投げつけた。ゴミとなった求人広告が畳に落ちるのを見て、唇を斜めに上げる。見る人が居れば、目の下のクマが、より一層濃くなった気がしたかもしれない。
 仕事をしている時は、ちゃんと風呂にも入り洗濯もしていたし、髭も剃っていた。
 食事も自分で米を炊き、おかずを作るぐらいなら問題は無い。そこらへんの主婦より美味い飯を作れる自信もある。高い弁当に頼った事は無い。欲しい物も特に無いので、金は放っておいても貯まるだけだった。生活の不安を考えた事は無かった。最初の頃は、母親の入院費がかかったにしても、生活を圧迫する程でもなかった。それも、母親が亡くなった事ですぐに終わった。
 その気になれば、もっと良い物件に入居できる財力は十二分にあったのに、わざわざぼろアパートに住んでいたのは、通勤に不便では無い事と、もっと良い場所にと際限無く求める扶養家族も居ないからだ。自分の都合だけ考えれば良いので、雨風を凌げ、ゆっくり眠れる場所なら十分だった。だからウサギ小屋より酷いと他人にからかわれても、全く意に介さなかった。
 谷岡は、小さな団子鼻を節くれだった人差し指と親指で擦った。さてなにをしようと考えて息を吐く。息は白くなって、すぐに霞んで消えて行った。
「掃除するか」
 そう言って、谷岡は玄関口にあるキッチンへ行った。ガスコンロの横に置かれた棚の引出しを開くと、ゴミ袋を取り出し、部屋の真中へ放り投げた。疲れきったようにだらしくなく、ゴミ袋が広がった。
 子供の頃から三十四歳になった今まで、家族を作ろうと思った事は一度も無い。十八で母親と一緒に街へ出てくるまで、人から忘れられたような山間の農村地帯で育った。物心つく前から父親が居ないのが当たり前だった。だからといって、同い年の者が親と並んで歩いていても、嫉妬した事は無い。寂しかったでしょうと他人に言われても、ぴんと来ない。今では生まれた時から父親が居なくても、どうでも良いと思えるように生まれてきたのかもしれないなと、本気で思うようにもなっていた。確信したのは、このアパートにひとり住みはじめて一ヶ月ほど経った頃だ。酒をちびちび舐めつつ、テレビに映った大家族のドキュメントを眺めていた時だ。
「やっぱりみんなで一生懸命協力し合って生きていかないと」
 こいつらなにをやってるんだと、せせら笑った。
 谷岡には、赤ん坊までが鎖で繋がられているように思えて仕様が無かった。固い絆で繋がっていなければならないと、強制させられているように感じられた。そんな生活は、窮屈にしか思えなくて、どんなに考えてもそのような結論に行き着くばかりだった。
 今も未来も家族は必要無い。居なければあとに起こるであろう煩わしい事を、あまり心配する必要も無いのだ。例えば水中を進んでいるのに、錘をつけるなんて愚かだ。そう考えると、自由こそが自分の力だと思った。会社を辞め、母親が居ない今など、本当に自由しかなかった。何をしても自分一人が責任を取れば良い。逆に言えば、何だって出来る。
 一般社会では、逆に笑われる考えだと谷岡も解ってはいたが、今のままで満足しているのだから、雑音なんてどうでも良かった。心の奥底には、ごちゃごちゃ言うけれど本当は羨ましいと思っているのだろうというひねくれた想いもあった。考えてみれば、自分のプライドを守るための屁理屈かもしれなかったが、谷岡は、それでも良いと思っていた。孤独と言う言葉は、頭の中にはもう無かったし、いつ消えたのかも分からない。
 谷岡は、十四インチのテレビと、丸いちゃぶ台と、タンスに顔を向けた。壁にはポスターの一枚も貼られていない。ただ数字だけが書かれたカレンダーが、無愛想に貼りついているだけだ。そのカレンダーも、半年前の六月のままだった。
「殺風景だ」
 剥き出しの壁をさすりながら、他人の部屋でも見ているような口調で感想を言った。
 しかし執着が無かったにしても、寝る場所として世話になったのだから、礼儀として、掃除をしなければならないと考えた。それも正直な気持ちだ。
 求人広告と雑誌が詰まったゴミを、ゴミステーションへ捨てに行った。すれ違う人にひとつも挨拶を返さず、路地を気だるく歩いて部屋へ帰り着いた。キッチンと、洗面所と、風呂を雑巾で拭いたあと、一週間前に約束したとおり、溜まっていた家賃を払うため、大家の家へ出向いた。
 いつもと違ったのは、イヤミを無視した事だ。大黒様みたいに膨れた腹が揺れるのも見たくなくて、ずっと顔を背けていた。
「ちゃんと毎月払ってください。いつ出ていってくれても、構わないんですから」
 接着剤のように絡みつく大家の声に、毎回笑顔を浮かべながらひたすら頭を下げて機嫌を取っていたのだが、もう媚びる必要は無い。
「滞納していた自分が悪いのだから、我慢してたんだけどな、独身とか。陰気な顔とか、だから良縁がないんだまでは余計なお世話だ。ところであんた口臭いよ。鼻毛も出てるし。化粧ぐらいしたらどうだクソババァ。人に文句言う前に、犬とでもやってろ」
 そう言って、谷岡は大家に背を向けて歩き始めた。ヒステリックな叫び声を背中に受けたが、谷岡の心の中には、晴れやかな青色だけが広がっていた。
 振り返らずに、皮ジャンのポケットに手を突っ込んで、大家の家の門を出ると、駅へ向かった。そのまま切符を買って電車へ乗り込む。一旦出れば、もうこの土地へ戻るつもりは無かった。
 
 雲の切れ間から見え隠れしている朝日の光が、靄の中を突き抜けていた。朝が来た事を伝える為に、家々の屋根を照らしている。
 谷岡は、住宅街の向こうにぽつぽつと現れ出した山や畑を暢気に眺めながら、欠伸して、席に深く座り直した。
 通勤ラッシュには少し早い時間なので、大半の席は空いている。
 谷岡は通路を歩いてくるスーツ姿の女と視線が合った。
 女は道ばたに貼りついた嘔吐物でも見たように、顔をしかめると、そそくさと隣の車両へ早歩きで去った。
 剃れば良かったかな。谷岡は顎髭を撫でながら、ホームレスになった現実を改めて正面から見つめた。しかしすぐに面倒になった。髭なんて何時でも何処でも剃れる。顎から手を離した。
 トンネルを抜けると、畑や山が一段と多くなった。遠くの山の麓に広がる森まで見える程に視界が開けた。
 谷岡は光でぼやける稜線を見つめながら、口元を緩ませた。足の底から上がってくる振動に、体を揺らす。伐採の結果だろう、黄土色の岩肌が見える山が、後方へ過ぎ去って行く。ぼんやりと見つめながら笑いたくて仕様が無いのを我慢する。アパートから遠ざかるのが、嬉しくてたまらなかった。過去から遠ざかって行くように感じられたからだ。
 谷岡は先程逃げた女の顔を思い浮かべ、自分の背中に貧乏神でもついているのが見えたのかなと、口を抑えて小さく笑った。
 愉快で愉快でたまらない。
 嫌がられれば嫌がられる程、これから実行する事が楽しみになって来るのだ。

 学校へ行く者や仕事場へ行く者、夜勤明けの者で、玩具箱をひっくり返したような騒がしいプラットホームだった。バックが当たったり肩が掠ったり、すぐにもみくちゃにされたが、谷岡は気にする事も無く、気怠い体を引きずって西口を出た。
 駅前には長い自動車の列が作られていた。エンジンやクラクションの音が、冷たい街の空気を揺らしている。
 谷岡は立ち止まって、自分の行くべき場所を探した。地図で調べていた通り、百円ショップの黄緑と、オレンジのカラフルな看板のついたビルが目の前にあった。
 看板に向かって歩き出した時、つま先で小石を蹴った。小石は一段上がった歩道から、転がり落ちた。
 二四時間営業の百円ショップへ入ると、天井から下がるコーナーを示す看板を一瞥し、すぐに、パーティ用品の集まるコーナーへ向かった。そこで黒い覆面を手に取る。黒の毛糸で編まれ、目と鼻と口の部分に穴が開いている物だ。テレビドラマに出てきた銀行強盗を見て、気に入ったものと偶然同じだった。
 それから覆面をぶらつかせながら、台所用品のコーナーへ行き、並んだ刺身包丁を細目で見つめる。良く切れそうな物であればあるほど良いのだが、想定していたのと違っていて、百円では無く、三百円だった。
「百円ショップじゃないのかよ」
 ぶつぶつと呟くが、それでも必要なのだし、だいたい高い方が良く切れるに違いないと自分に言い聞かせながら、包丁を一本取って、刃を守る皮ケースを外し、その鋭い銀色の輝きを見つめた。細い目が見入られたように、もっと細く据わって行く。
 谷岡は、刃の先に人差し指の腹を当てた。冷ややかな気配に背中を撫でられたような気がして、全身が強張った。満足するとケースをはめ直し、覆面と一緒に、レジへ持って行った。
 これならやれる。
 唇の端をずっと楽し気に緩ませながら、レジに並ぶ、数人の先客で作れらた列の最後尾についた。小銭を用意する為に、皮ジャンの右ポケットを探ってみるが、財布が無い代わりに、冷えた感触があった。親指と人さし指で摘んで取り出してみる。
 一枚の百円玉だった。
 百円玉の銀色は薄汚れて黒ずんでいて輝きを全く失っている。
 御釣りで貰ったものをポケットに放り込んだまま忘れていたのだ。
 谷岡は百円玉を見つめ、無くしたと思っていた宝物が出てきたような感じがして、頬ずりしたくて仕様が無くなった。だが、本当にやってしまう訳にも行かず、我慢して、右ポケットへ百円玉を戻した。顔を上げると、ちょうど順番が来ていた。レジ打ちの男が、今にも舌打ちをしそうな不機嫌な表情を浮かべている。
「なにしてるの。急いでいるんだからさっさとしてよ」
 後ろに並ぶ者からも急かす声が上がった。谷岡は、わざとゆっくり左ポケットに手を入れてから、今度はちゃんとあった財布をやはりゆっくりと出し、小銭入れを開いた。ちょうど四百円あった。小銭受けに向かって、財布を逆さにして払う。小銭は小銭受けから外れ、台の上を転がって、レジ打ちの男の足元へ落ちていった。レジ打ちは隠すこと無く舌打ちをした。谷岡は無視し、覆面と包丁の入った袋を受け取ると、列に並んだ人をよりいっそう不快にさせる小ばかにした笑みを浮かべて店を出た。そして、包丁の先に触れた人さし指を鼻先へ持って行った。鉄のような血の臭いがした。嬉しくなって、今にも濁った涎が垂れそうな程、唇を歪ませた。
 
 谷岡は、これから自分がやる事についての段取りを呟く。近い将来行われるであろう警察の捜査が、少しでも滞るよう祈る。二県も離れた降りた事のない駅へ向かい、緩やかな振動に身を任せていた。
 妖気とも思われるような気配を漂わせているからだろうか、その汚らしい井出達の所為か、谷岡の座った席の一角だけに、人が居ない。ときおり悪意ある視線を感じるが、どうでも良かった。財布の中には、レシートを丸めた細かなゴミしかない。お金など無い。壁と壁の間に挟まれたような窮屈さを感じて、喚きたくもなる。だが、もう前に進むしかないんだと言い聞かせた。どうせ後ろに下がっても、何も無い。
 目的の駅に着いたのは、昼ご飯時の十二時過ぎだった。
 ずいぶん時間がかかってしまったなと、駅前広場の中央に設置された時計塔から視線を落とし、大きく手を広げた。
 駅前に天満屋という大きなデパートが一軒だけあったが、床に伏せる病人のような雰囲気を発散させているだけで、頻繁に客が出入りしている様子は無い。通りにも都会ほど人の気配が無い。計画にとって、理想どおりの場所だった。谷岡は満足して、早足で歩き始めた。すべて上手く進んでいる筈なのに、作業スニーカーの裏から、砂を踏みしめているような感触が伝わってくる。谷岡は首を捻った。歩を進める度に、体が沈んで行く気がする。アスファルトで舗装された道は確かに固い。なのに、膝まで沈んで、一歩も歩けなくなる気がした。
 それでも足を無理やり動かすのは、やらなければならない事があるからだ。
 谷岡は額に滲む汗を感じた。体が火照ってたまらなくて、服を全部脱いで裸になりたくなった。膝が震え、一歩も動けなくなって立ち止まったのは、小さなATMの前だった。入り口に並んでいる者は居ない。
 谷岡は病的なほど青白い唇を、小刻みに震わせた。全身、夜の雪山で吹雪にさらされる遭難者のように、震え始めた。唇を噛み締めて、自分はこんなにも弱虫だったのかと、太股を何度も殴ったが、震えは止まらない。落ちつけ落ちつけと言い聞かせ、内ポケットに手を突っ込んで包丁に触れた。
 谷岡は、ATMの中に誰かいるかどうか確かめようと近づこうとした。すると自動扉が開き、小さな影が出て来た。パーマで曲がりくねった灰色の髪をした老婆だった。黒光りする皮のバッグを、無造作に揺らしている。
 谷岡と老婆の視線が合った。老婆は眉間にある皺をもっと深くさせ、死肉を喰らうハイエナを見つめているような警戒と不快感を発した。バッグを両手で抱えると、逃げるようにして、早歩きで去って行く。
 谷岡は、紫と青色と灰色で刺繍されたセーターに包まれた後ろ姿を眺めた。早く遠ざからなければ、できるだけ遠くに。私は安心したいのだと語っているような気がした。谷岡は、自分の頬を撫でながら呟いた。
「あんたの対応は正しいよ。もうやるしかねぇんだ」 
 身をよじらせた茶色の落ち葉が、風に吹かれ、歩道を転がっていく。
 十二月の空気は冷たい。
 クリスマスに似つかわしい、楽しく愉快なリズムの、ジングルベルが、何処かから流れて来る。あと少しで、年も明ける。
 街を行き来する人の表情は、忙しさによって苛立っている。ただ何処か、余裕も見受けられる。くすぐられて吹き出してしまう寸前のような、複雑な表情だった。辛さを抜ければ、後は気楽にイベントを楽しめば良いからだろう。
 谷岡は頭上を見た。汚水が染み込んだ雑巾のような雲に覆われた空が、広がっている。太陽の姿など、何処にも無い。
 そんなつまらない空を眺めていても仕様が無い。谷岡は呆けた表情のまま、計画を実行するには時間的にまだ早いと、再び歩き始めた。
「カラオケルームサンステージ割引きでーす」
 駅前から少し離れて横断歩道を渡ると、大声が響いてきた。
 谷岡は声がやってくる方向へ顔を向けた。
 茶髪の青年が看板を振り上げて、カラオケルームの宣伝をしている。
 谷岡は立ち止まって、看板に書かれたカラオケという文字を、口を開けたまま見つめた。
 一年ぐらいカラオケへは行っていない。自分より一回り歳の大きな客に対応する為に、演歌の練習をしていた日々が、遠く懐かしく思えた。
「本当に悪いけれど、もう人員を整理するしか持ち応えられそうにないんだ。景気が良くなったと言っても、やっぱり、うちのような小さな工場はきつい。わかるよな。退職金はできるだけ努力する。だから、本当に悪いけれど考えておいてくれ。十五年頑張ってくれたのは感謝しているよ」
 半分禿げかかった上司は、二回悪いと言った。それからやはり、二回頭を下げた。
 谷岡は上司の目の奥に、おまえの都合など関係無いという明確な意志があるのに気づいた。
「分かりました。少し考えさせて貰えませんか?」
 答えたが、ぎりぎりまでしがみつくつもりだった。会社に執着は無かったが、生活をしなければならない。辞めても三十四歳で希望通りの会社を見つけられる自信も無い。とりあえず保留したものの、日に日にバイトが止めて行き、仕事も少なくなって、本当にやばいという噂が確信をもって広がりはじめた時、選択するしかない所まで追い詰められた。どちらにしても、仕事が無くなる。さっさと退職金を貰った方が得だと計算して、退職願を書いた。ただ、提示された額より、遥かに少なかった。
 半年ほど経った頃、貯金通帳を出して減って行く金を気にしながら、職業安定所から帰っていた時だった。自分の判断が正しかったのか間違えていたのか確かめたくなって、勤めていた工場へ行きたくなった。
 谷岡は鉄の門から工場内を覗き込んだ。
 あちこち割れたアスファルトの上に、木製のパレットが忘れ物のように散乱していた。そして、それだけだった。倉庫のガラス窓は割れていて、そこからでも、中に詰っていた荷物が無くなっているのが解った。
 谷岡は、夢でも見ているような気持ちになって力が抜けた。同時に無性に腹が立った。
 考えても、何処からその怒りが湧いてくるのか理由が分からない。砂漠に放り出された気分で拳を握り締めた。
 やがて割れて崩れて無くなってしまうだろうパレットから顔を背けた。ポケットに手を入れると、勝負してやると心の中で何度も呟きながら、工場から離れた。
 勝負してやる。勝負してやる。
「勝負してやる」
 怨念に近い真っ黒な感情が、心の中を塗り潰して行くのが、不思議と心地良かった。
 
 街路樹が並んでいる。相変わらず空は灰色に塗り潰されている。ランドセルを背負った子供が、はしゃぎながら走り去って行く。谷岡は、街路樹にもたれかかって子供の頃の事を思い出した。
 ランドセルを背負って、畑と木々の間を抜けると、木造の校舎が見える。夏には、鳥と蝉の声で満ちていて、冬には、雪の真っ白の中に埋もれる。
 生徒は十人程しかいない。みんなひとつの教室で、授業を受けた。
 休憩になれば大人になったら街に出て、夢を叶えると言い合った。テレビに映るコンクリートの高いビルや、人に埋もれる街に憧れていた。谷岡自身も出て行こうと決めていた。畑をたがやし年老いて死んでいくのは御免だった。
 どうしてか今ごろになって、ふと、故郷の喉かな風景を思い出してしまう。何事に対しても執着など無い筈なのに、故郷が懐かしく思えて仕様が無い。
 谷岡は、ATMから視線を外した。内ポケットから煙草を取り出す。箱の中には、ライターと煙草が一本あるだけだった。
 ミスが許されない計画を進めるように、大事に大事に吸ってきた筈なのに、いつのまに、こんなに吸ったのだろう。
 僅かに開いた唇の間から呼気が漏れた。
 息は真っ白になり、冬の空気中に霞んで消えて行く。
 谷岡は、ライターと最後の一本を指で摘んで出した。煙草は湿ってふやけている。乱暴に扱えば、すぐに腹が割れて茶色の葉がこぼれ出てきそうだ。ゆっくり口にくわえ、ライターで火をつける。乳白色の煙がふわりと上って行く。喉の中を、苦く重い煙が落ちていく。
 谷岡は何度も浮かんでくる言葉を、煙と共に吐き出した。
「誰にしよう」
 ジャンバーの内側に手を突っ込む。ポケットから飛び出した包丁の柄を撫でる。指先に触れる滑らかな感触。これからすることへの、微かな恐怖と期待を、安心感によって塗り潰す。
「誰にしよう」
 もういちど呟いて顔を上げた。
 ATMの自動ドアが開き、ニット帽を被った若者が出てきた。警戒する遠慮の無い視線を向けて来た。
 谷岡は、自分のミスに気づいた。すぐに包丁の柄を離し、内ポケットから手を出した。
「オレは馬鹿だ」
 泥と埃で黒ずんだジャンバーを着たみずぼらしい男が、ATMの前に突っ立っている。目撃者の記憶に残るだろう。すぐに足がついてしまう。
 谷岡は根本まで吸った煙草を地面に捨てて、踏みつぶした。心臓の鼓動が、周囲の音を消していく。世界が、コンクリート色に見えた。 
 子供の手を引く若い女性が、前から歩いて来る。
 それもコンクリート色だ。
 ぜんぶコンクリートだ。
 子供が遠い親戚のおじさんでも見るような目を向けて来た。綺麗で苦労知らずの目だ。親子がビルとコンビニの角を曲がっていく。入れ替わるようにして、老人が歩いてくる。シーズー犬を引っ張っている。
 そのシーズー犬が、足元へ来た。頭にリボンを着けている。勝てると思ったのだろうか、谷岡に向かって牙を見せ、吠えはじめた。
「なめるな」
 谷岡は四つんばいになると、犬に顔を近づけて唸った。
 老人はやばい奴にひっかかったと言いた気な苦い表情で、紐を引っ張った。
 犬はすぐに仰向けになって寝転んだ。
 谷岡は立ち上がり、汗まみれになった顔を手で拭った。呆れた様子で口を開けたまま突っ立っている老人に向かって怒鳴った。
「ちゃんとしつけろや」
 腹の奥底から、形のはっきりしない感情の塊が沸き上がっていた。
 寒さに震えながら布団を握りしめていたとき思いついた計画だった。
 実行できるかどうか疑問ではあった。でも、なけなしの金で刺身包丁と覆面を買った。
 家にあった包丁は、錆びて刃先も欠けていた。人に恐怖を与えられない、自分の身さえ守れないと考えて、新品を買った。
 確かに強盗をしようと決めている。
 馬鹿馬鹿しく稚拙な計画なのも十分に解っていたが、背中を押されているような焦りさえあって、やりたくて仕様が無い。
「いまさら辞める?」
 谷岡は内ポケットに入れた包丁をジャンバーの上から守るようにして押さえた。
「一回ぐらい、悪い事をしても良いじゃないか」

 アーケードには、夕食の材料を持った主婦や学生らしいカップルや、立ち話をする人で溢れている。路地から老人が、甲高いブレーキ音を鳴らしながら、錆び付きの目立つ自転車で乗り込んでくる。スーパーの前には、出店があった。焼き鳥の香ばしい醤油だれの匂いを漂わせている。老若男女の声が混ざり合って、生活感に溢れ返っている。出店の香ばしい焼き鳥の匂いを嗅いでいると、唾液が染み出してくる。谷岡は早歩きで通り過ぎようとした。止まってしまうと、一歩も動けなくなる気がした。
 計画が成功すれば、山ほど食べられる。今は我慢すれば良い。それでもいらつきが抑えられなくなって、スーパーの前に立ち並んだ自転車を倒した。ドミノのように倒れて行くのが、可笑しくて笑いながら逃げた。頭の中が、真っ白に霞みがかっていた。自分がどこへ向かって行くのか解らない。油断すれば、自分自身さえも放り投げてしまいそうだった。怖くて怖くてたまらなかった。
 待ち伏せし、弱そうで金をもっていそうな人間を見つけ尾行し、人気が無くなった所でズボンのポケットから覆面を出し、素早く被り、包丁を突きつけ金を奪う。簡単だ。
 汗に濡れた手が渇く気配はない。喉を重苦しい唾液が落ちる。
 アーケードを抜けると、魂さえ凍らせようとしているような冷たい風が吹きつけてきた。錆びた自転車と、破れたダンボールが歩道の脇に転がっている。車の走る音だけが、風の中に響いている。
 このまま凍り付いたら、誰にも迷惑をかけず楽になれるな。
 谷岡はジャンバーを羽織りなおして立ち止まった。
 貸し店舗を伝える看板の貼られたシャッターの前に、若い娘が座っていた。
 二十そこそこだろうか。やんちゃな金髪が、顔の幼さを際出せている。スカジャンとジーパン。女らしい格好ではなく、何処か気配さえ男っぽい。
 娘は胡座を掻いて、抱えたギターを掻き鳴らし歌っている。額には汗が滲んでいる。頬は、さくらんぼ色に染まっている。流行のポップスを歌っていたが、その日はじめて路上に出たように、ぎこちない。ときおりひどく音程がずれている。
 それでも娘は自分の世界に入り込んでいるように、弱々しい表情など一切見せず、体を揺らしながら堂々と歌い続けている。
 谷岡は、磁石に吸い寄せられる釘のように娘へ近づいた。
 興味をそそられた訳でもない。
 歌が聞きたくなった訳でもない。
 自分でも分からない内に、足が動いていたのは、生まれて初めての経験だった。
 娘は谷岡に気づかないまま歌い続けている。
 スーツ姿のサラリーマンが、見向きもせずに通り過ぎて行く。次に、老婆と手を繋いだ男の子が来たが、やはり何の興味も見せず、通り過ぎて行く。一瞥する気配も無い。ギターで歌い続ける娘と、見物している男が一人居るのに、見えていないような態度だった。
 もしかしたら世界が滅亡する日が来ても、この場所で、このガキは、歌い続けているかも知れない。谷岡は思い、そうすると、蚊の大群に纏わりつかれたように、体の末端や脳天まで痒くなった。
「やめろ。不愉快だ!」  
 谷岡の怒鳴り声が響き渡った。
 ギターの弦をかき鳴らしていた指が止まった。
 谷岡は、娘を睨み続ける。
 娘の目が丸くなった。怪物でも見ている表情だったが、すぐに自分の信じる正義を語る人間のように、鋭い目つきとなった。
「すいません。でも、やりたいんですよ」
 娘の口から、頬と唇に唾液が散った。
 谷岡は言い返せなかった。エネルギーに飲み込まれ、目の端を怒りによって小刻みに震わせた。自分はこんな小娘にも勝てないのか。悔しくて情けなくて、黙っていられなくなった。
「おまえに何が解るんだよ。わかんねぇだろ。おまえの目に何が見えてる? 負けきって、今にも死にそうなちんけなオヤジか? おまえにわかられてたまるかよ。そんなに世間は甘くねぇよ。オレだってギターぐらいやったことあるんだ。忘年会では、拍手喝采を浴びたことだってあるんだ。本気で歌手になりたいと思ったこともあるんだ。今はこんな感じなんだよ。おら、見ろよ。見て見ろよ。髪は伸び放題で、脂ぎっていて、目が死んだ魚みたいだ。いまにも倒れ込んでしまいそうな惨めな男だ。おまえはもしかしたら、二十年後、こんな風になっているのかもしれねぇぞ? 良いのかよ。覚悟は出来ているのかよ」  
 谷岡が睨んで一歩近づいた。
 娘は今にも泣きそうに顔を歪めたが、またすぐに歌い始めた。
 谷岡は出来の悪い子供に、数学を教えているような苛つきを覚えた。意地悪い気持ちだけがあった。
 そのとき娘が、敵意剥き出しの目をしたまま顔を上げた。
 殴ってくる! と谷岡は思ったが、予想に反し、娘は目を瞑ると、ギターの弦をでたらめとも言えるほど、無茶苦茶に掻き毟ってがなりたてた。
「やりてぇんだよ。邪魔すんな!」
 谷岡はそれ以上何も言えなくなった、というより、言いたくなくなった。
 右ポケットに手を突っ込んだ。指先に、固く冷たい感触があった。
 摘み出してみる。
 銀色の百円玉だ。
 谷岡は周囲を見回した。コンビニがある。
 パン一個ぐらい買える。
 娘の脇に置かれたギターケースを見た。
 一円も入っていない。
 谷岡は、コンビニへ顔を向けた。
 腹が鳴った。
 娘に視線を戻す。
 娘は酔っているように、体を揺らしながら愛の歌を歌い続けている。
 ゆったりとしたせせらぎのようなメロディ。けして上手くは無いけれど、素朴で気持ちが篭っている。
 谷岡は空気中で飛び跳ねる音符の幻を見た。幻の音符が、体に飛び込んでくる。谷岡は優しく撫でられているような気がした。脳に直接囁かれているような感じで、気持ち良くて仕様が無い。体が浮かんできそうな気がする。見える風景が、全部緩やかに滲んで行く。そうすると、この娘に、最後の百円をやろうという気持ちが湧いてきた。娘はこれから茨の道を歩まなければならない。もしかしたら、やらない方が良いのかもしれない。そうすれば現実を知って、諦めるかもしれない。でも同時に、娘が進む姿を見たいとも思った。谷岡は、百円玉を指で擦った。どうする、どうする、どうする。頭の中が、ひとつの単語で一杯になった。ふと、母親の笑顔が浮かんだ。母親は自分に色々と与えてくれた。自分は誰かに与えたことがあるだろうか。
「くそったれ……」
 谷岡は百円玉をギターケースの中へ投げ入れた。
 娘が信じられないと言いた気な表情で顔を上げた。
「演歌、できるか?」
 谷岡は、無性に演歌を歌いたくなった。隙間から染み込んでくるようなど演歌なら、なお良い。
「一曲だけなら」
「曲名は?」 
「森田正樹のおふくろ慕情」
「なんべんも歌ったことがあるわ。やってくれ」
 まだ幼さの残る娘の瞳が、ダイヤモンドのように輝いた。
 谷岡は、自分がこの娘のような目になるのはこれからもう無いだろうと思った。
 その時、視線を感じて振り返った。
 歩道の端に、葉のついていない木が並んでいる。風に吹かれ、枝が揺れ続けている。その木の下に、ひとりの外国人が立っていた。
 谷岡はじっと、外国人を見つめた。何処かで見た顔だと思って考えてみると、アパートの住人なのに気づいた。こんな所で何をやっているのだろうか。見つめていると、外国人が近づいて来た。泥の中を歩んでいるように、その一歩一歩は重苦しいものだった。
 外国人は、谷岡の目の前で立ち止まった。目には輝きが無く、真っ黒だった。何か、炭で塗り潰したような色だった。
 何か用があるのだろうか。谷岡は首を捻った。すると外国人は、無表情のまま薄汚れた紺色のジャンバーの内側に手を突っ込んで、何か取り出し、差し出して来た。
 手に摘まれた物は写真だった。
 若い女と子供が、並んで幸福そうな笑顔で映っている。本当に何の心配も無く、安らいでいるという感じだ。
「ワタシハ、コノクニニ、クルベキデハナカッタノカモシレマセン」
 そう言って外国人は、写真をポケットにしまうと、再び何か取り出した。外国人が出したものが一振りのサバイバルナイフだったので、谷岡は一歩下がった。
 外国人が笑った。目の端と額に入った何本もの線が、深くなった。
 谷岡はその外国人が、アパートに来た時の事を思い出した。
 何処出身だか解らない外国人の中で、ずいぶん綺麗な顔をしているなという印象を持った。そういえば、あまりに腹を空かせていたので、賞味期限を越えたカップラーメンをひとつ、やったのを思い出した。
 あれからもう二年ぐらい経ったろうか。日本に来てから、顔の皺が深くなったというのは解った。
「ワタシハ、コレカラワルイコトヲシマス。ワタシハ、ニホンジンガ、ダイキライデス。デモ、アナタハ、ワタシにヤサシクシテクレタ、アリガトウ、サヨウナラ」
 外国人は黙って笑顔を浮かべたまま走り出した。
 谷岡は、遠ざかる背中を見つめた。もしかしたら、良い友達になれたかもしれないなと思った。何をするかは解らない。何か覚悟を決めているのは、谷岡にも解った。止めるべきだとも思った。でもきっと止められないだろう。やらなければならないから、行くのだ。
 そして、再び娘へ顔を向けて言った。
「やってくれ」
「お金くれたのあんたがはじめて。ありがとうございます。それじゃぁ」
 オフクロ慕情の、重く、渋く、景気の悪いメロディが流れてきた。
 谷岡は、母親を思い出した。死んでもうずいぶん経った。若い頃、洗濯物を干していた笑顔は、陽光に照らされ、輝いて、とても綺麗だった。病院のベッドの上での顔は、疲れて皺だらけだった。そして、長い溜息で終わった。
 谷岡はその溜息を両手ですくおうとした。駄目だった。指の間から擦りぬけ、冷たい病室の中へ、霞んで消えた。
 谷岡は目を瞑り歌い始めた。
 歌うことしかできない。とにかく歌いたくて仕方がない。歌い終わったら、何か変わっているだろうか。たぶん、変わっていないだろう。ただ、計画が失敗に終わるであろう事は分かった。もう計画を実行するつもりは無い。
 谷岡には、ギターの音が泣いているように聞こえた。頭の中に、子供の頃の記憶が蘇った。畑の中で、ひとりぼっちで夕焼けを眺めていた。かくれんぼをしていた筈だったのに、いつの間にか、みんな帰ってしまった。
 空は夕焼けの朱色に染まっていた。酷く静かな風景だった。
 カラスが鳴きながら、山の方へ飛んで行く。
 風が森を揺らし、ざわつかせる。
 世界でひとりになった気がした。胸の奥が苦しくなって、誰でも良いから人を見たくなって仕様が無くなった。そんな想いになったのは、後にも先にもそのとき一回きりだった。
 谷岡は家へ向かって帰ろうとして、顔を上げた。遠くから、自分を呼ぶ声が聞こえた。声がやってくる方に顔を向けると、小さな体が近づいて来るのが見えた。
 母親だった。
 畑の間の細いあぜ道を、手を振って歩いて来る。
 谷岡は嬉しくて嬉しくて笑いながら母親に駈け寄って、胸に顔を埋めた。
 母親の作業服は、土と汗の匂いが染み込んでいた。ずっと嗅いでいると眠ってしまいそうな、とても温かく、良い匂いだった。
 そんな子供の時の思い出を振り返りながら、メロディの中に身を浸した。
「故郷のーおふくろー別れてー十年ー♪」
 冬の底は、冷ややかで寂しい。
 道路を、自動車が走って行く。もう、谷岡と娘を見る者は居ない。
 雲と雲の隙間から、太陽が顔を出した。薄暗かった世界が、明るくなる。
 ギターケースの中の百円玉が、優しく輝いた。









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