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場末の『Bar』にようこそ

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2004/10/19
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カテゴリ:カテゴリ未分類
夕方、買い物からの帰り道、落ち葉がはらはらと宙を舞った。
「あららら、秋なのねえ」センチな気分で地面に落ちたその葉っぱを見ていたとき、ふとぼくの頭の中に不吉な予感が駆け巡った。
 みすずちゃんは大丈夫だろうか。まさか死んだなんてことは……。
 
みすずちゃんとは、最近ぼくが飼っているコオロギのこと。子供が虫かごに持って帰ってきたのだ。
「逃がしてあげたら?」と言ってみたが、「いやだ」と言うので仕方なく飼うことに。
 しかしいざ飼うとなると、どうして育てるのかわからない。
とにかく餌をやろうということになって冷蔵庫を探してみたが、茄子がない。ぼくの中では、コオロギと言えば茄子、茄子と言えばうっふんと言うほどに相場が決まっているのだ。
わざわざ買いに行くのは面倒臭いし、どうしようとぼくは喘いだ。ふと横の棚を見ると、放りっぱなしの高野豆腐が。
あげてみた。
食べていた。

二匹いるのだが、両方ともみすずちゃん。どっとがどっちか区別がつかないからだ。
虫かごを暗いところに置いてみると、りぃ~ん、りぃ~んと鳴きだした。
おぅーっ!……感動。
嫁ちゃんが寝られないと言って、虫かごはその後ベランダに移動。
夜が明ける前に帰宅すると、ぼくはすかさずベランダへ行ってみる。
鳴いてない。
「おら、鳴けよ」虫かごを足で軽く蹴ってみたが、無反応。
 しばらく離れて観察。気配を殺して待つこと五分。りぃ~ん、りぃ~ん。
 うーん、感動。
 
何日かそんな日が続いていたが、あるときからみすずちゃんの元気がなくなっていった。
 餌も食べない、動きがとろい。
どうしたんだろうか、動物病院はコオロギの診察などはやっていないだろうし。
 少し心配した。

 また一枚、はらはらと舞った枯れ葉がそろりと足元に落ちた。
 ぼくは家路へとすっ飛んだ。どたどたとベランダへ。
 嫌な予感はどうしてこんなに当たるのだろう。
 ……死んでいた。寂しそうにひっそりと、二匹揃って横たわっていた。
 そんなに可愛がってはいなかったけど、やはりその姿は悲しかった。

 虫かごを持って落ち葉が舞った場所まで戻った。落ち葉は吹き飛んでどっかにいってしまっていたけど、その場所の街路樹の根元をぼくはスコップで掘った。
 虫かごから出したみすずちゃんたちは、かさかさとしていて軽かった。
 掘ったところに二匹揃えて置いた。やはり寂しそうだった。上から土をかけようとして、思わず手が止まった。悲しかった。逃がしといてやればよかった。
 そっと土をかけて、手を合わせた。
 さようなら、みすずちゃん。
ごめんなさいと心で謝った。
 秋の風が、新しい土の上を撫でていった。





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Last updated  2004/10/19 11:51:51 AM
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