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夕方、買い物からの帰り道、落ち葉がはらはらと宙を舞った。
「あららら、秋なのねえ」センチな気分で地面に落ちたその葉っぱを見ていたとき、ふとぼくの頭の中に不吉な予感が駆け巡った。 みすずちゃんは大丈夫だろうか。まさか死んだなんてことは……。 みすずちゃんとは、最近ぼくが飼っているコオロギのこと。子供が虫かごに持って帰ってきたのだ。 「逃がしてあげたら?」と言ってみたが、「いやだ」と言うので仕方なく飼うことに。 しかしいざ飼うとなると、どうして育てるのかわからない。 とにかく餌をやろうということになって冷蔵庫を探してみたが、茄子がない。ぼくの中では、コオロギと言えば茄子、茄子と言えばうっふんと言うほどに相場が決まっているのだ。 わざわざ買いに行くのは面倒臭いし、どうしようとぼくは喘いだ。ふと横の棚を見ると、放りっぱなしの高野豆腐が。 あげてみた。 食べていた。 二匹いるのだが、両方ともみすずちゃん。どっとがどっちか区別がつかないからだ。 虫かごを暗いところに置いてみると、りぃ~ん、りぃ~んと鳴きだした。 おぅーっ!……感動。 嫁ちゃんが寝られないと言って、虫かごはその後ベランダに移動。 夜が明ける前に帰宅すると、ぼくはすかさずベランダへ行ってみる。 鳴いてない。 「おら、鳴けよ」虫かごを足で軽く蹴ってみたが、無反応。 しばらく離れて観察。気配を殺して待つこと五分。りぃ~ん、りぃ~ん。 うーん、感動。 何日かそんな日が続いていたが、あるときからみすずちゃんの元気がなくなっていった。 餌も食べない、動きがとろい。 どうしたんだろうか、動物病院はコオロギの診察などはやっていないだろうし。 少し心配した。 また一枚、はらはらと舞った枯れ葉がそろりと足元に落ちた。 ぼくは家路へとすっ飛んだ。どたどたとベランダへ。 嫌な予感はどうしてこんなに当たるのだろう。 ……死んでいた。寂しそうにひっそりと、二匹揃って横たわっていた。 そんなに可愛がってはいなかったけど、やはりその姿は悲しかった。 虫かごを持って落ち葉が舞った場所まで戻った。落ち葉は吹き飛んでどっかにいってしまっていたけど、その場所の街路樹の根元をぼくはスコップで掘った。 虫かごから出したみすずちゃんたちは、かさかさとしていて軽かった。 掘ったところに二匹揃えて置いた。やはり寂しそうだった。上から土をかけようとして、思わず手が止まった。悲しかった。逃がしといてやればよかった。 そっと土をかけて、手を合わせた。 さようなら、みすずちゃん。 ごめんなさいと心で謝った。 秋の風が、新しい土の上を撫でていった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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