『「五足の靴」をゆく 明治の修学旅行』
2023/01/31/火曜日/冷ややかな晴れ〈DATA〉平凡社 / 著者 森まゆみ2018年3月26日 初版第1冊発行〈私的読書メーター〉〈木下杢太郎の、天草の帆掛船スケッチ表紙のハードカバー版で読む。断然こちらがよい。というのも五足の靴の持ち主の一人は杢太郎なのだから。そもこの旅は、バテレン耶蘇教に関心を持ち、天草四郎の乱の戯曲を後に成す杢太郎の意向大と想像する。随行は吉井勇、北原白秋、平野萬里ら20代前半の「明星」同人とその主催者である与謝野鉄幹という組合せ。明治40年の彼らの旅を著者がトレースする重ね書き体で、時々時間のあわいが淡くなるのも著者の指向と嗜好。彼らの文中に鴎外『即興詩人』を見出せるのも、ならでは。羨ましい垂涎の旅ではある。)『即興詩人』はアンデルセンの著作すっかりこれを読んだ気でいた自分。ーそういえば森鴎外記念館でこれを買うかどうか悩んだのだったわ。なぜ読んだつもりだったか。それは、マイケル・ブースの『ありのままのアンデルセン』を読んでいたからだった。以下、〈私的読書メーター〉〈マイケルブースと言えば『英国人一家日本を食べつくす』の著者ではないか。これは彼のデビュー作と呼べるものらしいが、独特の辛辣なハッタリに近いユーモア、英国人気質はまさに栴檀は双葉より。ゴッデンの描いた人物像も観察力の高さを覚えたが、こちらは彼の官能の元と行動の裏付けをあらゆる資料を駆使して、『一詩人のバザール』旅行記を辿る過程でアンデルセン人間像を肉付けしていく。脚と体力と資金を酷使、不運天候胃袋に翻弄され、ドナウ川クルージングでは突然の母親登場、アンデルセン自身と一体化していくかのごとき愛と発見の旅記録〉という自分の記録を今更眺る。五足の靴ならぬ、一足の靴(私の)は、コロナの前年アンデルセン生誕の町、オーデンセを徘徊した。大きなアンデルセン博物館が建設中で、東京オリンピックの競技場と同じ2020年開館、開催の予定と記されていた。共に隈研吾の設計そういえば、隈研吾の「負ける建築」展を昨年見たとき、競技場の模型は見たけど、オーデンセは展示がなかった。それ、見たかったのに。閑話休題森まゆみさんの文章は、何というか晒し木綿の手触り使い込まれてふっくら温かい。そして媚びが無い。それがすっきりと気持ち良いのだが五人と森さんが混在して、あれ、これはいつの誰の旅?みたいな印象も与える。まあ、それが妙、でもあろうか。森鴎外はまるで五人の文学精神の岳父というべきか。特に医学と芸術に揺れた杢太郎にとってはポーラス。森まゆみさんはその町内で自身を育んだ、そんな縁も発動力たり得たことと思う。森鴎外記念館には、当時からの庭木の見える落ち着いたカフェがある。