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テーマ:読書(8186)
カテゴリ:本日読了
2022/01/07/金曜日/南の窓はうららかでも風少しあり
〈DATA〉 中央公論社/星亮一 2003年12月10日印刷 2003年12月20日発行 中公新書1728 〈私的読書メーター〉〈判官贔屓だ。敗者の歴史とその鎮魂であるお能が好きだ。従って心情的に会津藩士にどうしても肩入れするのだが、そのセンチメントを少し払い除けてくれる本書。慶喜の描き方はいささかステレオタイプと感じたが、会津藩周辺の民百姓がどのようであったかの資料調査が充実している。勝てば官軍の薩長同盟に対して負ければ賊軍の奥羽越列藩同盟。官軍とて所詮寄合軍、巻き返す機会がありながら、実践を知る参謀も武器も兵站知略も無く、最後は最新式銃大砲に向かい槍で突撃するしかなかった老兵や哀れ。而、これはその後日本全体が経験した事に他ならぬ〉 江戸幕藩体制から明治薩長同盟への移行について、私が学齢期に学んだものは世界に冠たる平和な革命、といった教科書を黙読したくらいで、近現代史は遂に授業内で省かれていた。 御一新から150年になる今から5年前辺りから、その当時について書かれた記録や物語を思い出したように読み継いでいる。ついこの前起きた国内戦争の内実は今の地平に繋がっているわけだから。 本書はコンパクトな新書版だが、会津戦争の激戦地となった市町村の史料なども読み込み、激戦地の周囲の村々がどんな様子であったか理解が進む。 一度戦争が始まれば、生命を落とすのはサムライたちばかりではない。会津では籠城に至ったが為に、城内の女子どもも生命を落とした事はつとに知られているが、領地の、武士階級ではない男たちもにわかに軍内に組織されていたのだ。 また官軍の北進にある町々、村々は青天の霹靂のような災禍が襲う。蔵の保存食が供出され、女性らは兵士の慰みに駆り出され、挙句戦略の為に村ごと焼き払われる様が克明だ。浪江町はこの時にも辛酸を舐めている。 民百姓が生き延びる為の選択は道理で、当然強い側に着く。間道や山道を案内し、薩長同盟軍を支援した村人たちのあった事は会津藩に手痛い敗戦を強いた原因の一つとなった。そんな地域は長年会津藩政に恨みを抱いた原因にあると言う。 本書は画像や地図などの資料も豊富で読みやすく分かりやすい。ただ、やや会津藩に辛口のように思ったのは、白虎隊記念館資料紹介にあって、私の記憶に一番残っている資料は紹介されていないなど散見される点。 260年も天下泰平の世で、城内にプールを設営し、水の中の実戦的な騎乗訓練を行うなど、他の藩にはみられない工夫もあった事実を忘れてはいけない。本書紹介、板垣退助が官軍の側から示した敬愛が幾らかの慰めでもある。 同時に三浦乾也が蒸気船造船を仙台藩の元に成し得た後、仙台藩内の半目で冷や飯をかこつ事になった時期とも重なり、その際の仙台藩の仕打ちは私には酷く感じるが、著者は仙台ご出身で、矢張り地元に緩いのはご愛嬌か。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.01.10 09:04:47
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