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2023.09.10
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テーマ:読書(9586)
カテゴリ:本日読了
2023/09/10/日曜日/暦では白露





〈DATA〉 影書房
著者 簾内敬司

1989年5月10日  初版第一刷
1990年2月28日  初版第二刷

〈私的読書メーター〉読書中「福田村事件」を観て映画と小説が交叉するようだった。戦後10年ほどして谷間の寒村の、見捨てられた湿地の窪地に一人の背の高い男が住み着いた。小学生3人組のぼくらにも村人が男を忌み嫌い、今にも襲い掛かろうと算段の様子が見える。その空気に乗じてぼくらは肝試しに男の陰踏みに打ち興じる。町から母娘二人して逃げ帰った公子の影も面白半分に踏みつけると公子は痛い!と蹲った。ぼくらが人の心の痛みに触れたとき、窪地の男への憐憫が芽生え、公子の母、祖母の悲哀に抉られる。故郷を離れ成人した僕にある日公子の自殺が伝えられる。〉


ストーリーは三つの構成からなる。
「影踏み」「魂の力」「菩薩花」

半分は著者の自伝的要素を含むように思われた。

「魂の力」
母千代の魂の抜け殻としての死を見て公子が身体の奥の奥から絞り出す声。

村人の「心ない」噂や眼差し態度に潜む毒。

心を理解する魂が無くて、人間は生き延びられるか。

公子や母、祖母がようよう生き延びられたのは僕の母が、いくばくかでもその魂を持ち得た隣人であったからだろう、と著者は描いているような場面が幾つか描かれる。

しかし村人の毒は徐々に千代を侵食する。

熱さも冷たさもひもじさも睡眠も、何も感じない肉体になり、魂はただただ会いたい人へと抜け出していく。

そんなモノ想いに取り憑かれるような、まるで平安貴族の恋物語を我が身の上に感じとれる経験もしくは感性がなければ、読み手はおそらく大仰に感じられる章だろう。



認識を他者と共有する困難さを考える時、認識の階層について思う。

私たちは計量できるものについては共通認識が持てる。すなわち科学の領域。

歴史も一応人文「科学」であるが、これについてはどうだろうか。

知られている史実に捏造や加変があるとしたら、共通理解はせいぜい地理地質の分野までだろうか。

その先の計量不足な情の絡む分野ともなれば人の数だけ認識の数も増す。

そんな私たちが認識を超えて共同体を育てていくには、過去の過ちから学んでそれを個々に克服する作業が必ず問われる筈だ。


さて、この本について誰もが過たず共通に認識できるのはコンテンツではなく、パッケージだ。

私は 岡茂雄『本屋風情』読んで以来、パッケージの方にも関心が向く。
それは絵画を囲む額縁の如くして。


本の重さとか四辺の長さとかページ数とか発行日、出版社、責任表示としての発行者名とか、本のパッケージを具に眺める。

で、本の本体にISBNが無い、ことを発見する。

おおよそ1980年代半ばには、ISBNバーコードが日本の刊行冊子殆ど全てに付与された。本書発行の年代から考えるとそれがないのは少し不思議だ。

装丁は大変しっかりしている。
一体影書房とはどんな出版社なのだろうか。と別の方に関心が湧く。

ネットで調べてみた。

こだわりのある出版社であることが分かる。

韓国の詩人など早くから朝鮮文学を日本に伝えている。影書房を立ち上げた松本昌次という出版人もとても興味深い。

そしてこの本の初出が影書房の季刊誌「辺境」
の6.7.8号に連載されたことがよく理解される。

辺境には第一次、第二次、第三次が存在し、前の二つは井上光晴が編集人で、豊島書房から出たこと。

第三次が影書房から全10巻出されたことが分かる。
その掲載を見ると、列島の周縁から遠い声、小さい声を拾いあげていることがよく眺められる。

本作続編の『涙ぐむ目で踊る』は、その季刊誌に連載されていない。さて、それは?











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最終更新日  2023.09.10 09:49:23
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