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2005年08月05日
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カテゴリ:読書
仮面物語 山尾悠子(徳間書店) ※絶版
アラスジ:世襲性で階級に縛られた世界の、とある都市国家“鏡市”。その鏡市の君主“帝王”は、不具の身となり隠遁生活に入っていた。帝王の一子、“聖夜”も謎に包まれている。五年前、彼らの身に起きた或る事の為に。“影盗み”の為に。
この世界では、瀕死の者のデスマスクならぬ生き写しの彫刻を作り、葬儀の際に披露する風習があった。毛穴まで克明に写し取る技術を持った彼ら“彫刻師”は、縛られた世界で唯一、合法的に放浪する事が出来る存在。そんな彫刻師の一人、“善助”は、人に言えぬ秘密を抱えていた。
善助が鏡市に流れついたと時を同じうして、隠匿されていたある噂が流布し始める。人の“たましいの顔”を瞬時に見抜き、形に作り出してしまう、“影盗み”の伝説の噂が…


私が住んでいる街は片田舎で、書店やCD店が次々に消えていっている。
残された数少ない書店も、雑誌や売れ筋コミックと言った使い捨てな商品ばかりが並ぶ、つまらない店になったしまった。
頼みの綱の図書館も、呆気に取られるほど蔵書がない。
否、図書館ではなく“図書室”だ。正直、高校の図書室の方が、よほど蔵書が多いだろう。小説に限ってみれば、個人レベルでもっと多く所有している人もいるのではないだろうか。
そのくらい御粗末なのである。
が、そんな図書館ではあるが、この本を蔵書しているという一点だけで許そう。
それほど、この『仮面物語』の価値は高い。

山尾悠子―伝説の作家。
70年代後半から80年代初頭、鮮烈なイメージを振りまく一瞬の光芒を放ち、そして突然筆を折ってしまった人。
残された僅かではあるが珠玉の作品と、その美貌で、一部の者には強烈な印象を残した。(本当に美人だったのだ!)
以来、二十数年、密やかに、しかし熱烈にその存在は語り継がれていた。
その巨星が、近年突然復活した。
過去の作品を纏めた『山尾悠子作品集成』が刊行され、続き、新作『ラピスラズリ』を上梓。渇望していたファンは、欣喜雀躍である。
(因みに、作品集成は高額の為に購入を控えている。ラピスの方は、買ったものの勿体無くて手をつけられず、本棚の上座に飾って眺めるだけ。貧乏って…)
しかし、処女長編作であるこの『仮面物語』は作品集成にも収録されておらず、まさに幻の作品であると言えよう。

山尾悠子を一口で言うと、クリアな幻影を観る人。
幻想文学とSF界、両方からその旗手と目されていた。
この仮面物語も、そのイメージは非常に鮮烈で、ありありと情景は目に浮かぶ。
揺らめく蝋燭の火影、ねじ巻きの金属音、映し合う鏡像、徘徊する虎、石畳、霧、霧、霧。
巧緻な筆致で紡ぎだされる事柄は、そう、まるでインドネシアの影絵のようだ。
どれも、昏い輝きを放って、明確にイメージされる。
が、それが意味する処となると、途端に困惑してしまうのだ。
感覚では判るのに、難解。
感情移入出来る登場人物はおらず、ただ彼らが己の願望のままに突き進む姿を、読者は息をひそめて見ているしか出来ない。

一応、大まかな話の筋はある。
自己の意思と無関係に、他者の魂を写し取ってしまう影盗みの葛藤。
魂の顔と言う深淵を覗きこむ、抗いがたい狂気。
その狂気に突入してしまった帝王は、我が子だけはそれから守ろうとする余り、より深く重い闇に踏み込んでしまう。
守りとは形を変えた束縛であり、更なる狂気への加速に拍車をかけるだけ。
結局、大いなる狂気が全てを支配し、そして全てが解放される。
闇は光の形を変えたものに過ぎず、魂の深淵も己自身である事に変わりはない。
「あなたはだれ」
問いかけられて、誰もが答えを持ち、誰もが答えを見失う。
そんな話である。
(って、全然違う気がする。それに、話の筋について書いてないし。ウーム)

幾つか、何かを象徴していると思われるモチーフが出てくる。
ほの紅い透明な結晶の殻を作る石蚤(刺されると五芒星形の紅斑を残す)、卵状の何か、水盤、虎。そしてスピンクス。
例えば、館中を徘徊する虎は、ブレイクの詩『虎』を想起させる。
想起はするものの、その解釈を何処までしていいものやら、判断に苦しむ。
スピンクスは、人間の本質を突いたかの有名な謎かけをする異形の存在であるが、その意味する処とは。
浅い考えで無理に分析をしようとすると、途端に壁に塞がれてしまうのだ。
否、鏡の迷宮に囚われてしまうと言った方が、まだ近いかもしれない。
ダイヤモンドのように多面性をもった鏡に反映され、幾つにも増幅された煌きに、目は眩んで立ち尽くすしか出来なくなる。
しかも、唯の煌きではない。影の、闇の、輝きなのである。
こんな世界を見せられたら、ただ、そのイメージに身を任せるしかあるまい。

しかし、これだけの物を書けた人が、何故に斯くも長い間、筆を折ることが出来たのであろう。
日本の幻想文学界にとっては、立ち直りがたい打撃であった。
彼女の不在が、幻想文学に止めを刺したといっても過言ではないかもしれない。
今再び、星は空に昇った。
しかし、その輝きがまた以前と同じものなのか。
怖くて、空を見上げるのを躊躇っている私がいる。

余談だが、嗜好作家ってリンクするんだなぁと感嘆。
と言うのも、以前書いた皆川博子と赤江の関係に続き、この山尾悠子も赤江シンパであった事に、今日やっと気がついたのだ。
赤江の本の解説を山尾も書いていたのに、さっき調べるまで、全く気がつかなかった。(しかも、最も愛読している本なのに。マヌケ過ぎだ。)
他の作家でも予備知識なしに好きになってから、実は他の愛好する作家と因縁がある人であったなんて言う事が多々あり、ちょっと驚いたりする。
無意識に、同じ世界を求めている人を追っているのだろう。
“眷属”
そう、眷属と言う言葉が、1番ぴたりとくる関係。

もし、貴方が、流麗な文章、硝子の煌き、闇の重なり、そんなものに心惹かれるのなら、是非、山尾悠子の世界に飛び込んで欲しい。貴方も眷属だろうから。
古書店や図書館で、山尾の名前を見つけたら、迷わず手に取るべきだ。
一時の酩酊を。
それは、決して忘れる事の出来ない一時となる。
永遠の酩酊を。





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最終更新日  2005年08月06日 13時49分16秒
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