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カテゴリ:読書
十三の黒い椅子倉阪鬼一郎 講談社
アラスジ:詩人・赤池朗馬によって編まれた、椅子アンソロジー『十三の黒い椅子』。出版前に作家の1人が物故する不運に見舞われたものの、バラエティに富んだ中々な作品が出来あがった。しかし、その出版パーティの帰り道で、更にもう1人、作家が…。 倉阪鬼一郎の作品を読むのは、1つ2つの短編を除いて2作目だ。 以前に読んだのは、割りと初期の作の『迷宮』と言うホラー幻想ミステリ。 かなりの筆力を感じさせたものの、あまりに多ジャンルを融合させた為に、ラストで爆発しちゃったと思う。 まぁ、奇才っぷりは伝わってきたのだが。 それにもまして“奇人”レッテルを刷り込まれてしまったのが、西澤保彦が書く『森奈津子シリーズ』での黒尽くめの男・“クラニー”倉阪像。 嘘か真か、西澤描く処の作家陣が如何にもそれらしいので、私の中では黒猫みーちゃんを肩に乗せたクラニーがデフォになってしまっているw そのクラニーが編纂したアンソロジーか、と興味をそそられて図書館からお連れ申し上げたのだが…これが、まぁ一杯も二杯も食わされてしまった。 とてつもなく手が込んでいる。 まず、アラスジに書いた“赤池”の編纂したアンソロジー12作が、底本として書かれる。 目次、あとがき、奥付に到るまで完璧。ミステリ仕立てや幻想譚、挙句、脚本や詩にまで及ぶ収録作品全てがそれなりの出来で、各々単独でも読ませる。 が、その合間合間に赤池の日記や関係者のweb掲示板やブログが挿入され、このアンソロジーがメタな存在だと知らしめている。 この掲示板が、顔文字が出てこない以外は、いかにもありそうな感じで笑ってしまった。(因みに作中にURLまで載せている凝り様だが、当然の事ながら実在はしていなかった。残念w) まぁ、この程度のメタなら良くあるパターンとも言えるので、それなりの予測をして読み進めていたのだが。 想定外のドンデン返しの嵐。 え?え?え???? となっても、ドンデン返しが終わらないので参った。 竹本健治の『ウロボロスの偽書』でミステリを読むようになった横道モノなので、多少のひねくれ加減なら許容範囲なのだが、ここまで捩れるとオツムが付いていきゃあせん。 いや、こっちの頭が悪いんだけど、それにしてもやり過ぎだよクラニー。 言いたい事は何となく判らなくもないが、二転三転を過ぎると、鼻につく。 かなり趣味性の高い、読者を選ぶメタミステリの典型かもしれない。 嫌いじゃないけどね。 でも、いみじくもラストで出て来たお嬢の科白の通り、直後にばったりと寝てしまったw (で、今頃起き出して、感想書いていりゃ世話ないよ。) 竹本もだが、この手の作者は読者を共犯に引き込みたがる。 ま、ミステリは、読者と言う共謀者がいなければ成り立たない世界なんだけどね。 読者を檻に誘い込む迷宮を作る為に、更なる迷宮が積み重なれる。 そして、その迷宮を解体する事で、事後共犯である我々読者すら解体されてしまうのだ。 事件は起き、事件は消える。 物語は渦巻き、物語は吸いこまれる。読者の中に。 或る意味、究極のミステリ。 クラニーは「特定のモデルはいない」と明言しているが、何となく“アノ人かしら”と思いつつ読む愉しみ付き。 くらくらするほど豪華なマニエリスムを愉しみたい向きには、お勧めな一冊。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年09月10日 03時06分07秒
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