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カテゴリ:読書
カケスはカケスの森 竹本健治 徳間書店
アラスジ:女子大生・桜子は、幼馴染みの青年・真澄に誘われ、真澄の伯母・翠が住むベルギーの古城へと赴く。翠とその娘・麻耶は臈長けて美しく、優しく一行を迎え入れてくれたのだが、どことなくギクシャクした雰囲気。異端審問に携わった家系の所有していた城ゆえか、古城は一種異様な雰囲気に包まれていた。怯える桜子たちの予感そのままに、不可思議な小さな出来事が続き、やがて1人、又1人と惨殺され…。 「1番好きな作家は?」と問われると答えに窮するが、「取り敢えず5人挙げよ」と言われるなら、迷わずその中の一人に入れるのが、この本の作者である竹本健治。 因みにその他の4人は、順不同で赤江瀑・中井英夫・野阿梓…んー、もう一人は迷うのだが、メジャーな所で京極夏彦になるかな。 結構、判りやすい趣味ざんしょw 京極堂以外は、どこかしらリンクしあっている作家陣だ。 (竹本健治は中井英夫の弟子筋。弟子と言うと語弊があるが、彼を世に出した手の一つが中井である事は間違いない。) その竹本健治の作品で最も好きな本は、これまた迷うのだが、一応『ウロボロスの偽書』を挙げる。 なんせ、この本から私のミステリ読書が始まったので。(邪道の極みだw) で、最終決戦まで競り続けるのが、今日読んだ『カケスはカケスの森』。 裏No.1と言っても良いかもしれない。 この物語は、二人称で語られる、かなり変わった形式を取っている。 最近はゲームの影響か、二人称小説も増えているようだが、この『カケス』が出た頃にはかなり珍しい存在だったと記憶している。 短編なら兎も角、それなりの長さの推理小説としては、異色と言えよう。 アンチミステリの傑『虚無への供物』の正嫡と言われた『匣の中の失楽』で、鮮やかに出現した作家だけあって、一筋縄ではいかぬ作品を書く人である。 (ウロボロスシリーズも、ほんっとトンでもない作品だしw) “あなた”と語りかける事で、読者を揺れ惑う不安定な世界に、巧みに導く。 美しくも物悲しい音色を帯びている竹本の文章と相俟って、心の怯えを更に掻き立てる。 ミステリなのだが、まるで幻想文学のような雰囲気を醸し出している。 本の中から“あなた”をじっと見つめる、蒼ざめた少女の大きな瞳。 可憐でおぞましいその瞳の持ち主は、一体誰なのか。 折々に挿入される“あたし”が“彼女”なのだろうけれど、本当に“あたし”は“あたし”一人なのか。 中世の「魔女狩り」の闇、十数年前の「少女殺し」の闇、そして古城に繰り広げられる殺略の闇。 どの闇を抱えた“あたし”が、“あなた”を見つめていたのか。 ミステリ的解決は一応なされ、犯人は特定されるものの、本当の“あたし”が誰だったのかはカケスの森の奥に置き去りにされたまま、物語の幕は閉じる。 閉じる?本当に? 狂気は消滅する事無く、世界は不安定なまま置き去りにされる。 “あたし”と共に。 幻想譚としても見事だが、ミステリとしても標準以上の秀作。 謎を全面的に解明せず、読者に含みを持たせて終わるので、多面的な解釈を好む者には高く評価される作品だと思う。(きっぱり割りきれるミステリが好みなら、お勧めしないが) 竹本健治は読者を選ぶ作家だが、その枷を掻い潜って得る歓びは、深く大きい。 一読に値する作だと思う。 舞台は暗転し、カーテンは下ろされても、その奥に隠された森は果てしなく続いている。永遠に。 “あなた”が“あなた”の領域に戻るように、“あたし”も“あたし”の森に棲み続ける。 “あたし”はここに居る。だから、“あなた”はいつだって“あたし”に逢える。 この森に。 この頁に。 “あなた”の心の中に。 美しく妖しい森を、是非、“あなた”にも彷徨って欲しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年10月13日 01時09分58秒
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