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2005年11月14日
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カテゴリ:読書
光堂 赤江瀑 徳間文庫 
アラスジ:久々に訪れた新宿で、涼介は懐かしい映画に邂逅する。二十数年の時を経て、再び目の前に現れたその映画「火雨」の上映を待ちながら、涼介の思いは過去へと遡る。一人上京し慣れぬ大学生活を送っていた彼は、ひょんな事から売り出し中の映画監督である三千社と意気投合する。やがて三千社の所有するアパートに居を移した涼介は、美大生・黒木と知り合う。その頃、三千社は戦争孤児を主人公に据えた映画の構想を練っており、その重要なモチーフである“妖怪”のアイディアを、涼介と黒木に求めた。考えあぐねる二人。そして、ついに黒木は…。表題作『光堂』他、濃密な赤江美学に彩られた短編9作を収録。


先日松田映画を観に行った際、私を渋谷から新宿まで誘ってくれちゃった犯人が、この本w
陶然たる文字に溺れて、はっと気がついたら「次はぁ~新宿ぅ~」とアナウンスされてるんだもん。愕然としましたよ。トホ
しかし、もう何度も読み返しているにも関わらず、それでもそれだけ熱中させてしまう魔力を持つ赤江は凄い。

と言いつつ、この本自体は、赤江の中ではそれほど高く評価していない。
脂の乗った頃に比べると、聊かマンネリ。
ま、全盛期も“偉大なる同じ歌”の繰り返しだった事は、否めませんが。
良いときゃそれが魅力になるし、下がり調子になれば鼻につく。
赤江に限らず、使う“声”が限られる作家は、多かれ少なかれそう言う事態になるのは、致し方ない事かと。
でも、好きだから飽きず読んでしまいます。やっぱり赤江魔力恐るべしw

この『光堂』は、赤江の作品にしてはエロティシズムは押さえ気味で、代わりに“邂逅”がテーマになっていると思う。
懐かしきものとの邂逅が生み出す揺らぎ、それもまた、赤江ワールドにおいて意味を持つ。
エロティシズムと書いたが、何も三流春文学のように、淫猥なことばかり書く作家ではない。
男女(に限らない。男同士もありだ)の波動が生む揺らぎ、フェティッシュな嗜好が生む揺らぎ、家族の、友人の人間関係が生む揺らぎ。
赤江は揺らぎの間を泳ぐ作家だ。
その揺らぎの海の一つに、本書に多く取り上げられた“時間の揺らぎ”もある。
時間とは多分に恣意的なものであり、客観的な時間とは別に、その流れに身を置く者だけの尺度がある。
本書だと、気紛れに降り立った町の夜祭で自分の過去に出会う『夜市』がそう。(ネタバレになるから控えるが、極めて恣意的な時間を描いた話だ)
赤江の世界の住人は、揺らぎに在ってこそ、いきいきと輝く。
懐かしさがゆらゆらと陽炎を立て、邂逅が揺らぎの海になる。
その海に飲み込まれる一瞬、赤江住人たちは最期に異様な光を放ち、それに読者は陶然となるのだ。

本書では、残念ながら、その光が以前に比べて平坦な気がする。
敢えて挙げるなら、『ようよう庭の幻術』が気を吐いているか。(よう=火に華。機種依存文字なので、変換不可)
タイトルからして妖しげなこの作は、赤江お得意の、老獪な女、家族の因縁、友情というには少し濃い男同士の想いなどを取り込んだ、みっしりとした短編。
だが、立ち上る陽炎の揺らぎは濃密であるものの、詰め込みすぎて純度に欠ける気もする。
逆に、ストーリー展開はさほど良くないのだが、場面の印象度が鮮明なのが表題作の『光堂』。
作中で語られる映画が良い。
『火垂るの墓』を彷彿とさせる戦争孤児の映画の話なのだが、妖怪話にだけ反応を示す知恵足らずの少年を主人公とし、幻想的でありつつ悲劇を表現しているこの「火雨」と言う映画のほうが、『火垂る』より興味をそそられる。
この映画の製作に携わった主人公・涼介が、過去と邂逅し、揺らぎの海の一歩手前で物語は終わる。
先ほど、“海に飲み込まれる一瞬、最期に異様な光を放つ”と記したが、実は赤江の凄みは、この一瞬を描いて止めるところにあると思う。
最後まで全てを書かない。
一歩踏み出した処で物語を解き、読者を立ち往生させるのだ。
そう、読者自身が、揺らぎに取り込まれて抜け出せないまま終わるから、赤江魔力から離れられないのかもしれない。
だから、私が電車を乗り越してしまったのも、不思議ではないのだ。(と、いじましく言い訳し続けてみる)

脂浮きしてマンネリとは言え、逆に読みやすいかもしれないので、赤江文学の入門には悪くない一冊かもしれない。
そして、この陶然たる揺らぎに、身を委ねてみて欲しい。

…あら、でも絶版かも。いまや、古本屋の棚にばかり並ぶ作家になっちゃったからなぁ。
文庫版だと辻村ジュサブロー人形の表装なので、その点でも手に入れる価値あり。
機会があれば、お読み頂きたい。





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最終更新日  2005年11月15日 01時38分22秒
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