立川志らくが二つ目の弟子たちを全員前座に降格
落語家の立川志らくが二つ目の弟子たちを全員前座に降格させたとニュースになってました。発端は、落語家以外にも劇団も主催してる志らくの演劇の稽古に弟子達が二つ目に昇格してからは一度も手伝いにも見学にも来ない事を以前からそれとなく愚痴でこぼしてたわけだけど、先日遂に堪忍袋の緒が切れてツイッターで「全員破門にするか前座に降格するかだ」と宣言。…まぁ、こういうとアレだけど、落語長く聞いてきてる身からすりゃ弟子の破門騒動なんてオリンピック周期程度の頻度で落語界じゃ聞く話だし珍しくもない。ただ、見てて「えっ?」と思ったのは、志らくはそれをツイッターで呟いたんで当然多くの人の目に入るわけだけど、その中に「パワハラだ」「理不尽だ」「人権侵害だ」みたいな批判がチラホラ見えたこと。見ながら「時代だなぁ」とか「お前それハラスメントって言葉使ってみたいだけじゃね?」とか色々考えてしまいました。読解力って大事ですよ。志らくは何も弟子に芝居への参加や手伝いを強制してたわけじゃない。だから「強制じゃないのに参加しなきゃ破門は弟子があんまりだ」みたいな批判もある。そもそも志らくは弟子に怒りを感じたわけじゃない。悲しくなっただけだ。「師匠がライフワークにしてる演劇に興味が無い。師匠に興味が無い。落語やりたいだけで演劇やりたいわけじゃないと言うなら俺の弟子でいる必要もないじゃないか」という事実を寂しいと思ってるだけだ。志らくの弟子なら当然、志らくがシネマ落語だとか、落語テイストの演劇や自分の落語に色々なジャンルのエッセンスを取り入れて落語を創作してる事くらい知ってるだろう。まぁ正直、オレは志らくの落語は「…よくわかんねぇな。普通に古典やった方が上手いのに」とか思ってるクチだし、落語は演劇じゃなく「世界一小さなスペースと動きだけで世界を作る芸能」が真髄だと思ってるタイプなので、志らくのやってる事は「オレはよくわかんないけど、何か生もうとしてんだな」くらいに思ってる。オレはそれでいいじゃん?単なる落語ファンだから好きな落語家もいれば金払ってまで聴かない落語家もいる。でも、志らくの弟子で演劇興味ありませんって、それは意味わかんないよね。例えば、バリバリの古典一本で勝負したい落語家希望者が春風亭昇太に弟子入りしないだろ?逆に「オレは古典はやらない!新作落語で食ってくんだ」と言う奴が談春に弟子入りするか?「この人の落語を会得したい。憧れた」という思いがあるから弟子入りするんだよ。別に師匠がタウンワークに「落語家募集」とか広告出したわけじゃない。そもそもね。パワハラだの人権だの言ってる人は落語家をわかってねーよ。落語家ってさ、あれ職業じゃないというか、就職じゃないからね?そりゃ募集なんかできねーよ。修行だもん。修行ってのは誰かに頼まれるもんじゃなく自分が志して入るもんだ。だってもし落語家が求人広告に告知出したらこうだぞ?「落語家見習い募集」■給与 無給(親からの支援、もしくは数年分の貯蓄のある者。寄席働きにより小遣い程度有)■労働時間 不定変動 緊急出勤あり■休日 不定休 ■福利厚生 無し■諸手当 無し(兄弟子や師匠連中のウケが良いと飯が食える程度)…職業じゃないでしょ?これ(笑)労基?なんだそれ?食えんのか?労働基準法?そもそも前座働きは労働じゃなくて修業だよ、今のオレは修行中の無職だ、みたいな世界だ。仕事じゃない現場にハラスメントなんか存在しない。師匠は頼んで弟子になってもらったんじゃないよ。弟子が勝手に「あなたに惚れました」と弟子入りを志願してきただけ。師弟関係って恋愛と一緒です。強烈な片想いの若者が何人も集まってくる。まぁ恋愛は二人も三人も相手したら浮気で不貞ですが、師弟は複数いますから。めちゃくちゃモテる女性の周りにヒモ君が集まる様なもんです。役に立つ男とか一緒にいて面白い奴なら近くに置くでしょう。大して役にも立たない、一緒にいても不快だと思えばフラれる。好きな女性にアプローチして冷たく対応されたり理不尽な要求されたとき「それハラスメントだ!」とか言うか?言っても良いけど言った瞬間にフラれるよね?志らくが言ってるのはそういう事だよ。「俺や俺の趣味に興味ねーなら破門してやるから他探せ。俺に惚れてりゃ普通は俺のライフワークも一緒に知ろうと思うのが自然だろ」ってことだ。その通りでしょう。例えば自分の意中の女性がサッカー観戦が好きだと知ったら、自分にサッカー興味なくても共通の話題作りに調べるくらいするだろ?彼女が劇団の団員なら彼女の出てる演劇を見に行きたいと思うのが普通じゃん?そういう相手への気配りや機嫌を察知するセンサーとか身に着けるのが前座期間だよね。あとね…落語家なんて師匠をしくじる事なんて誰でも一度や二度はあるもんなのよ。破門の危機なんて常に隣り合わせだ。常に師匠を観察して、何かしくじって怒らせた時の怒り具合で「これはまずい、破門もある」と感知したら、すぐに何かアクションを起こさなきゃダメだ。師匠の口から「破門」が出た瞬間に裁判なしで刑が執行されるからね。これに関して伊集院光がラジオで凄くわかりやすいエピソードを語ってた。今の圓楽、当時は楽太郎ですな。笑点の紫の人です。伊集院光は三遊亭楽大という名で楽太郎の弟子をしてた時期があります。廃業してタレントになりましたけど。その伊集院が前座の頃、師匠の楽太郎が終電の新幹線で仙台まで行くのを駅まで見送りにいかなきゃいけないのを、当日忘れるという大失態をやらかした。カバン持ちじゃないよ?荷物忘れたわけじゃなく単に見送りを忘れて行かなかっただけ。ただ、それまでも何度かしくじりをやってた伊集院は「あ、この感じ、師匠帰ってきたら破門間違いないな」と空気で察知。そこでどうしたか?既に終電の新幹線は終わってる。師匠は仙台に時速300キロ以上の電車で向かってる。伊集院は当時、中型バイクを持ってたので、徹夜で夜通し仙台まで東京から走った。そして早朝に師匠の泊まるホテルにつく。寝てる師匠を起こして自分の詫びを聞いてくれってのは非礼なので本来は師匠が起きるまで部屋の外で待って詫びを入れるのが正解だ。ただ、伊集院はその日も寄席の前座で出番があるので長居はできないので東京に戻らなきゃいけない。そこでフロントに一筆残して伝言を預ける。自分の非を詫び、寄席の仕事もあるので会わずに帰る非礼を詫び、帰ってきたら再度改めてお詫びに伺いたいと思いますと。そうすると、楽太郎としてはフロントから何時ころに預かったと聞く。そうするとコイツが始発より前に夜中に何らかの方法で仙台まで来て詫び入れに来たとわかる。そしてこんな事態でも寄席の仕事の為にトンボ返りするくらいに落語に対する意欲もあるし暗に「続けさせてくれ」というメッセージにもなる。この一手でクビの皮をつなげた。ちなみに、三遊亭がどの程度の規律と厳しさかは知らんけど、このケース。要するに師匠に対する遅刻とか欠勤だね。落語家でこのケースはおそらく十中八九は破門です。頭丸めて土下座して謝れば執行猶予つくかもしれませんけど。まぁ間違いなくこれが談春なら申し開き聞かずクビだろうな。まぁ談春の場合、破門が当たり前すぎて、逆に今残ってる唯一の弟子である立川こはるの株が上がると言う現象も起きてるけど。あの談春門下のジェノサイドを生き残った女の子とかいったいどんな子だ?みたいな。今の子には師弟関係とか理解できないと言う指摘を見て「そんなもん恋愛と同じだよ」なんて思うけどね。というか、志らくなんてまだ弟子に対しては緩い方だと思うけどね。基本は来るもの拒まず、俺の癇に障るような事や邪魔さえしなきゃ居てもいいよみたいな一門だったし。立川こしらなんか志らくの弟子じゃなきゃ真打になってないぞ多分。あれもし談春の弟子だったら3日でクビだよ(笑)今回の志らくの弟子の一番のミスは、師匠に「降格か破門だ」と口に出させるまで気付けずアクションもしなかった点に尽きるよ。師匠を観察してりゃ弟子が演劇に関心ない事を憂いてるくらい気付くでしょ。部外者のオレですら薄々「弟子には不満だろうな」と気付くくらいなんだから。その師匠に気に入られるために演劇に参加申し出るとか手伝いに行く事が師匠の喜ぶ事だってこともわかってたはず。気付かなかったはずないのよ。わかってて何もしなかったのが志らくにも見えてしまったから「お前ら俺に興味ないなら俺の弟子でいる必要ないだろ」となる。これって落語に限らず一般の会社なんかでも当てはまる事だと思うけどね。でも結局は破門にせず全員を前座に降格して再修業って措置だそうなので、寛大な措置だとは思うけどね。なんだかんだ志らくは弟子には甘いのよ。でも思うよね。今回の件が本気でハラスメントにしか見えない人は愛情を知らずに育ってきた不遇な人だと思いますよ。教師と生徒じゃない、上司と部下でもない、師弟です。いわば親子です。なんでも許せば愛で罰が虐待みたいな安っぽい関係でもない。そういう奴がモンスターペアレントとかになるんだよ。師弟間の本当のハラスメントは怒られもせず師に無視され放置されることだ。弟子にとって「師匠が自分に対して関心を無くした。諦めた」はハラスメントどころか死刑宣告だよ。人間、本気で向き合う気が無い相手には怒りの感情すら湧かないからさ。