雪
しんしんと積る雪の上、男は静かにたたずんでいた。刃から滴る血も拭わずに、男は刀を納められないでいた。「そうだ。血を払い刀を納めなければ・・。しかし、なぜ?次のために、明日のために。・・・次?明日?明日とはなんだ?そんなものは永遠にやってこないではないか。私はここから一歩も動いてはいない。そう、この世界に生まれたあの日から、一歩も動いてはいないのだ。おぉ、ただの物質になり下がっても、なお私を見下すのか。そうだ、私をもっと嘲るがいい。お前は永久に私の前に立ち、私を笑うのだろう。そうだとも、誰が私を笑わずにいられるものか。静かすぎる。この世界は静かすぎるのだ。それが私には耐えがたい。まるで私への当てつけではないか。静止することが罪であるとでもいうのか。ならば誰か私に明日を教えてくれ。見かけの変化はただ観測の変化にすぎない。私はここをずっと動いてはいないのだ。だが、もはや何も言うまい。めぐる世界に相対し、私の存在を刻みつけるだけだ。私にはそのぐらいしかできない。お前は永久にそこで私を見下し続けるがいい。私はここにいつまでもいるのだから。」男は刃の血を拭い、静かに鞘へと収めた。