母の事記憶を辿って行く。最初の記憶にたどり着くと、いつもそれは母の後姿。 古い土間の台所で菜を刻む白い割烹着を着た母、僕は座ってぼんやりと見ている。 開かれた勝手口の向こうには一面の菜の花畑、その黄色い波の向こうから蒸気機関車の白い煙が立ち昇っている。 「おかあちゃん・・」母の背中に声を掛ける。 その家には5歳まで住んでいた。 壁は薄い杉板、屋根はトタン張りだった、雨の日は屋根がバンバンとけたたましく唸り声を上げていた。 雨の日の食事は僕の楽しみだった、床一面に空き缶が並びそれぞれが雨漏りの水を受けて可愛い歌を歌ってくれる。 麦の御飯はいい香りがした、ナスの漬物は皮のところが好きで、いつも皮だけを取り分けてもらう。 朝と夜だけは母がいた、父がいないときも必ず母がいた。 でもどうしても、その頃の母の顔が思い出せない、どんなに心の目を凝らしてみても、母の顔を。 |