カテゴリ:story
この近辺に動物園があったことを思い出す。
このペンギンはそこから迷いでたものだろうか? それにしてもあまりに哀れだ。雨に打たれてひたすらヒタヒタ歩く姿。 僕はギリギリまでペンギンの側に車を寄せた。 するとペンギンは足をピタリと止め、こちらを振り返り僕をじっと見た。 その目つきのあまりの鋭さに思わずはっとしたが、車を降りてゆっくりと ペンギンに近づいた。 「久しぶりだな」 ペンギンがしゃべった・・・・。 僕は自分の耳を疑った。すると、もう一度確かな声で 「久しぶりだな 俺だ」 と繰り返した。 「お前がしゃべったんだよな?」 僕は思わずペンギンに問いかけてみた。するとペンギンは 「そうだ 驚かせたか?」 驚くもなにも訳かわからない。続けて僕は 「・・・・久しぶりってどういう意味だ?」 「俺だよ オヤジの声も忘れたか」 そうだ、この甲高くて少しかすれたような声は確かにオヤジの声だ・・・・。 とにもかくにも、信じるとか信じないというより、どうにも訳がわからず、僕は咄嗟にオヤジペンギンを小脇に抱え、急いで車に戻った。 オヤジは半年前、家の屋根から落ちて死んだ。 その日は台風が近づいてくるというので、すでに降り出している雨の中、瓦を固定しなければと、家族が止めるのも聞かずにオヤジは屋根へと上っていった。案の定、足を滑らせて落ちてしまった・・・・・ 死んだはずのオヤジを名乗るこのペンギンは一体何なのか。オヤジペンギンは助手席で、濡れた羽を懸命にはらっている。 僕のほうも、全身ひどいありさまだ。このままこのオヤジペンギンを修羅場へ連れていくわけにもいかない。 家に戻るしかない。 シフトレバーに手をやったその時、僕の手に冷たい感触が。ペンギンの羽だった。 「どこへ行く」 僕が、家に帰ろうとしていることを伝えると、 「家には帰るな この姿を母さんにだけは見せたくない・・・・・」 何言ってんだか。 しかたなく僕はこの悪い冗談のようなオヤジペンギンの話に付き合ってみるしかなかった。 つづく・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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