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新米おんな社長の奮闘記(古米になりつつある)

新米おんな社長の奮闘記(古米になりつつある)

「女って・・・編」

ショートショート「鯉の行方・女って・・・編」

 ほとんどといっていいほど、毎晩10時から12時まで、克彦と美奈子は一緒にすごしている。食事にでかけたり、美奈子の家でテレビを見たり、たわいもなく街を歩いたり・・・。克彦は、12時37分の最終電車に乗って、家に帰る。美奈子は、彼を見送ってから布団に入る。そんな生活が、もう6ケ月だ。

 美奈子の家をでて帰途につくと、克彦はいつも思う。美奈子は、自分のことをどう思っているのだろう。「奥さんと別れて」とか「このままずっと一緒にいたい」とか、普通の女性なら言いそうなことを、一切口にしない。「オレは暇つぶしの相手か?いや、それなら、毎日一緒にはいないはずだ。」克彦は、自分と美奈子の距離を、どう測っていいのか迷うことがあるのだった。

 「おはよう」食事の支度をする妻に克彦は言った。「おい、由加里はどうした?」「夏休みよ、まったく、娘の通知表も見てあげない父親なんてねえ。仕事が忙しいのはわかるけど・・・そこまでとはね。」たしかに、食卓の上に、由加里の通知表が置いてあった。昨夜帰ってきたときには、まったく気がつかなかった。開いてみると、あまり芳しくない数字が並んでいる。「どうしたんだ、こりゃ。」「どうしたもこうしたも、結果だけ見てそんなこと言うなら、どうしてもっと毎日いろいろ言ってあげないのよ。アタシ一人じゃ限界あるわよ。まったく、毎日毎日、仕事なのはわかるけど、なんでそんなに遅いのよ。仕事のできるできないは時間じゃないと思うけど、だいたい・・・」克彦は、言葉の途切れるのを待つこともせず、そそくさと玄関をでていった。

 「朝めしくらい、気分よくゆっくり食いたいよなあ。」ふと、美奈子のところで朝食をとる姿を想像した。彼女は、にこにこ笑いながらコーヒーを入れてくれるに違いない。いや、和食もいいなあ。その日、克彦は美奈子に言った。「たまには、朝まで一緒にいようよ。」「あら、めずらしいこというじゃん。どしたの?奥さんとケンカ?」「いや、ケンカはいつものことだけど、・・なんだか疲れちゃったよ。」テレビの前で座ったままの克彦に、美奈子が後ろからそっと近づいた。克彦がその気配を感じとって、美奈子を引き寄せた。「今日は、帰らない。」美奈子は、克彦にされるがままになっていたが、時計をみてつぶやいた。「シンデレラの馬車の時間だよ。電車がいっちゃう。」「今日は、いいんだ。」と言う克彦を諭すように、美奈子が言った。「ほらほら、魔法がとけると、ここもかぼちゃの部屋になっちゃうかもよ。はやくはやく、電車にのらなきゃ。」そういって、克彦に上着を着せる。逆に、克彦はされるがままに上着を着、見送られて帰途についた。

 ああ、また、家に帰るのか。美奈子と一緒に、ずっとずっと一緒にいたいと思っているのに・・・妻子ある身の自分に、何も言えないのではあるが、美奈子は自分をどう思っているのか。気になる克彦は、明日は、少し早めに美奈子に会いに行こうと思っていた。「なんだか、毎日毎日、美奈子のところに行く時間が早くなっているような気がする」

 克彦を見送って、美奈子はため息をついた。「ずっと一緒にいると、今度は、私が今の奥さんの立場になるってことで、そうすると、長く一緒にいるとだんだん疲れてきて、いまの私のような立場の女性がきっと外にできる・・。疲れた顔の自分は見たくないし、彼と一緒にいて、疲れたくないし。疲れる一歩手前のつきあいが、ベストなんだと思うんだけどな。」美奈子の思いに、克彦はいつ気がつくのか・・。          END


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