息子と中国の教育改革
娘のことは何回か書いたが、9月から中1になった息子についてはまだ書いていなかった。単純で、楽観的で、感情が豊かで染まりやすい娘と比べ、複雑で、悲観主義で、ロジカルで、批判精神に満ちあふれた息子。そんな息子は時の運と周囲の環境に恵まれたなんともラッキーな子だ。まず、気の長い父と母の元に生まれたラッキー。・・・まぁそれは置いておいて、小学校入学。うちの近所には、いくつかの小学校があるが、息子が幼稚園の頃はまだ学校間格差が激しく、有名校には優秀な教師やリソースが集中しているという状況で、越境入学がごく普通に行われていた。その学校の実力者につながるコネクションを見つけ、越境費という名のワイロを支払い、少しでも良い学校に子供を入れるということが7~8年前の北京ではごく普通に行われていた。近所で一番良いと言われる小学校は、50万元(約750万円)積んでも入れるかどうかわからないというママ友の噂で、そこまで出すのは無理だけど、まぁ数万元でも積んで少しましと言われる小学校に行かせるかと思っていたところ、息子が小学校に上がる1年ほど前に突然、大規模な教育改革が行われた。コンピューター登録制が導入され、親がコネカネ積んで子供の学校を選択できる余地がぐっと少なくなった。また、有名校が無名校を吸収合併したり、無名小学校から有名中学校にストレートで上がれるように組み合わせたりといった教育資源の平均化措置が取られ、お金を積んでまで越境する理由がなくなった。息子も結局、近所の学区の小学校へ。かつて地方戸籍の出稼ぎ子弟ばかりが通う近所では一番よくないと言われる小学校だったが、区重点中学校に全員持ち上がりで行けることになった。字を書くのが苦手な息子は、中学受験なんてあったら全く太刀打ちできなかったと思うので、本当にラッキーだった。(中国では、公立校でも点数により中学校が決まる仕組みがある。)小学校ではやさしく理解ある先生に恵まれ、連絡帳が書けなくても宿題ができなくても多めに見てもらい、期末テストには息子だけ別室で親の付き添いが許され、なんとか無事、小学校を卒業できた。でも、中学校になったらどうなるのだろう。小学校ですら、夫が横でつきっきりでフォローして頑張っても、出た宿題の半分ぐらいしかできないことも多かったのに、中学校でこれ以上宿題が増えたら、もう無理ではないか。・・・と思っていたら、息子が中学に上がる直前の7月24日、《关于进一步减轻义务教育阶段学生作业负担和校外培训负担的意见》という通知が突然発表された。この通知の中で、学生の宿題負担と学外の塾学習の負担を減らす「双減」が謳われている。この政策には賛成反対含め、様々な意見があるようだが、うちの息子にとっては、まさに救世主。夫は「もういっそ、息子の正規学生の身分を放棄する(仮の学生という身分にして宿題を免除してもらう)」とまで思いつめていたのだが、息子が入学した中学校でも、以前と比べ宿題がだいぶん減ったようで、息子は夫の助けを借りながらなんとか宿題をこなせている。まぁ、宿題をこなすことだけが大切なわけではないが、宿題ができなくて、中学校でこっぴどく叱られたり、逃げ場がない責められ方をしたりすれば不登校になる可能性もあると思っていたので、この「双減」政策には救われた。中学校は思いのほか柔軟で、息子だけ別に呼んで、3回書くところを1回でよいと言ってくれたり、数学やプログラミングが好きな息子を放課後の数学オリンピッククラスに推薦してくれたりして、息子は割とご機嫌で中学校に通っている。なんでも突然発表され、即日施行される中国の政策発表に文句を言いたくなることも多いが、今回だけは、「中国よ、突然の発表をありがとう!!!」と感謝で胸いっぱいのつばめ夫婦なのだった。