我思う、ゆえに我あり

2009/04/26(日)13:16

アメリカの自浄作用

時事(190)

戦前の有名な外相で戦後首相にもなった、幣原喜重郎の口述本に、「外交五十年」というのがある。 その中では、幣原はアメリカ大使館で書記官クラスのときに、ブライスというイギリス大使にかわいがられたようで、(実はこれは非常に珍しい。いまどきそんな書記官はいなかろうよ)いろいろ外交について教わっている。 ブライスの教えの中に、「アメリカの自浄作用」というのがある。 あるとき、イギリスとアメリカが何か(イギリスに不利になるような法律を通そうとした、だったような)についてもめていて、駐米英国大使として折衝を重ねたが、決裂に終わった。 そんなとき、幣原はその後のイギリスの出方を問う。抗議するの?帰国するの? いえいえ、そんなことはしません。済んだこととします。 ほほう、何で? そんなことくらいでイギリスはアメリカと戦うわけにはいかない。ので、あっさりおりる。 でも、イギリス的には困るのでは? それはそうだが、アメリカには、自浄作用があるので、いっときはわがままなことをするけれど、後で自分で直そうとする力が働く。ので、放置します。 そんなもの?なーんて若き幣原は聞いておいたのだが、2,3年して本当に法改正をアメリカがやって、イギリスに不利ではなくなった。 で、幣原が深くブライスに感心した。 というエピソードが記されている。 そんな自浄作用がいま働いている。それは、ブッシュ時代に逮捕したテロリストに対して拷問を行っていたのだが、それをオバマ政権になって、人権違反ではないか、と調査する方向で進んでいる。 もちろん、選挙キャンペーンの時代からブッシュを攻撃していたことの一つで、ブッシュ政権のやったことをことごとく覆している最中のオバマ政権なので、当然といえば当然なのだが、それでも、これはブライスが「自浄作用」と呼んだものに相当するのかな、と思う。 国防総省の方も素直に拷問時の写真を公開するとして、抵抗していない。 なぜこうした自浄作用現象がアメリカで起きるのか? 簡単にいえば、政権交代があるから。 同じ人が、今までの政策は失敗でした、ごめんなさい、方向転換します、ってそうそういえない。何が何でも、我は正しい、と主張して乗り切ろうとしたがるもの。 けれど、政権交代があれば、今までの政策を否定することは簡単。むしろ、否定したがる。正直、今オバマ政権は片っ端からブッシュ政策をひっぱがしている。 まあ、もちろん、同じ政権でもできないことはない。が、かなり時間がかかったりする。例えば、薬害エイズ訴訟。96年に菅直人が厚相のときに謝罪して、ようやくミドリ十字や関連した医者が逮捕されて裁判ができた。これだって、70年代からやっているから、2,30年の月日がたっている。 公害病だって、国が補償するようになったのには、20年くらい時間がかかっている。 ゆとり教育は10年くらいだから、早い方か。 さらに、戦時中の補償だとか、未だに解決していないものも、あまたある。 ので、政権交代は、いわば、前政権の垢をそぎ落とす、いい機会になる。 けれど、今日のワシントンポスト紙に、前CIA長官の意見が載ってました。 あまりCIAのやっていることを政争の道具にして、秘密をぺらぺらしゃべりすぎると、国家を守れなくなるよ。 自浄作用も、程度問題?ってことですかね。

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