2010/03/24(水)13:12
木村汎著「プーチンのエネルギー戦略」読了
この間木村汎著「プーチンのエネルギー戦略」を読み終えました。
アカデミアが書いている割には、ずいぶんとジャーナリスト的な書き方で、まあ入門書的な本といえるかもしれません。
なので、分析がイマイチ。
例えば、プーチンのエネルギー戦略は、エネルギー資源を国家管理下におき、外国資本に搾取されないようにし、(もちろん自らが肥えるということもあるが)外交ツールの一つに使おう、である。
ってか、当たり前じゃんか?
メジャーが入って採掘をするということは、資源国に採掘能力を持たないということだから、
その分搾取されるのは、当然である。だから、それを排除しようとし、あまつさえ利用しようとする。
資源国なら最初に考えることである。
もっといえば、どこの資源国も、単なる商業取引以上のものを要求する。それが、先端技術の武器だったり、工場だったり、特定外交政策への支持とか。日本くらいが商業取引くらいで何とかなれると勘違いしてるだけである。
なので、どちらかというと、どんな外交ツールに資源を使おうとしているのか?
これが本来このタイトルを掲げるのなら答えるべき問いである。けれど、著者は、あまり明確な答えを出していない。東欧をヨーロッパとのバッファーにしたい、という程度。
それだけなの?
だったら、さほど害はないが、もう少しあるように思われるんだが。。。
もちろん、プーチンの頭ではその程度しか考え付かない、といいたいのならそれでもかまわない。が、その点を批判するとか、どう使おうか考えあぐねているという言い方でも良いから、分析があってしかるべきだろう。
それに、それほど国有化資源を有効活用すると書いていながら、具体的にどんな国有企業があって、どういう構造なのかとか、外交ツールの説明がないというのは、いかがなものか。
他は、例えば、2006年にロシアは値段の折り合いが付かず、ウクライナへのガス供給を一時止めた。で、ウクライナはロシアからヨーロッパへのガス供給パイプラインの通過国でもあるので、ヨーロッパ向けのガスをねこばばした。
で、ヨーロッパから猛烈な抗議がロシアへ来て、急遽ウクライナとロシアと話し合いが始まり、政治的妥結を見た。
ことの起こりは、ロシアがもともとウクライナにガスを安く供給していて、ウクライナを衛星国として遇していたわけだが、オレンジ革命がおきて、ウクライナに対し、いきなりロシアからガス値上げと言ってきて、おいおい、そりゃつれなかろうぜ、とロシアと値段交渉が始まった。
と本書では解説している。
けれど、ちょっと待って。何でオレンジ革命がおきたのかしら?という問いはなぜおきない?何とか色革命はみんなアメリカ(CIA)が仕掛けたもの。
一般に、革命というものは、お金と武器がないと成立しません。不満分子はどこにでもいるけど、革命をやるだけのお金と武器があるかないかで、発生するかどうかが決まります。
なので、お金のない国がいきなり革命をやらかした、というのは、どこかが絶対に裏で糸を引いていると考えて差し支えない。
ということは、ロシアに言わせれば、アメリカが自分の裏庭に殴り込みをかけた、と思って当然である。そうでなければ、いきなり大国の隣の弱小国が近所の大国に強気には出られない。炊き尽きているのは、アメリカだ。
で、ロシアとウクライナが政治的妥結を見た、ということは、アメリカ、ヨーロッパ、ともナシがついた、ということでもある。
通常この場合、妥協点は、アメリカがオレンジ革命など、色革命作戦をやめ、ウクライナはアメリカの誘惑に負けたことに対する懲罰として、多少の値上げに応じざるを得なくなった、というところだろう。
ここまでは、この本を読む前から察しはついている。問題は、具体的にどんな妥結なの?というところで、残念ながらそこまで踏み込めていない。
だから、基本的に日々の新聞から情報をとってつなげた感が拭えない。専門家に言わせれば、ロシアのメディアも、国営と政府批判もするメディアがあるというけれど、どちらも国が実質管理していて、批判できる範囲が決まっているという裏事情もあるから、ロシアの新聞を読むのは大変重要ではあるが、そればかりにかまけていても、真相には行き着けない。
だから、最近のエネルギー開発プロジェクトとその顛末やイベントを取り上げてそこから読めるプーチンのエネルギー戦略、という書き方をしているので、非常にジャーナリスティックに感じるし、最近の事象を追いかけるだけで、エネルギー戦略を全部網羅してますか?という疑問が残る。