我思う、ゆえに我あり

2010/08/28(土)14:44

ポール・ポースト著「戦争の経済学」読了

仕事(320)

先日、「戦争の経済学」という大変興味深い本を読みました。 何か目新しいことを言っているわけではないんですが、基礎知識のおさらい、という意味ではとってもいい本です。久しぶりに、ちゃんと社会を科学している本だ、と思いました。漠然と、こう、と思っていることをきっちり検証して書いてあります。 経済学者らしく、戦費について書いていたり、GDPがどれだけあがったか、戦争はペイするのか?という疑問を正面から書いてます。 どういうときに戦争はペイするのか? 戦争前に低い経済成長で遊休リソースがたくさんあり、戦時中に巨額の政府支出が続き、期間が短く、節度を持った資金調達が行われているとき。 この条件は、アメリカにとって、第一、第二世界大戦、朝鮮戦争のときまでは該当した。 けど、ベトナム戦争以降、該当していない。 ベトナム戦争では、戦争が長期化したため、労働力が戦争に取られて、経済成長を阻み、湾岸戦争では、期間は短かったけど、戦費も安かったので、政府支出は少なく、逆に失業率は上がった。イラク戦争では、多少経済成長が見られたが、やはり戦費も安くあげたので、長続きしなかった。 湾岸戦争以来戦費が安く上がっているのはなぜか? 一つは、労働集約型産業から資本集約型産業に転換していることがあげられる。米兵の死者数があがれば、その分政治家にとり、政治リスクが高まる。そのため、武器の命中精度を上げたり、遠距離操作・無人化を図ったり。 もっといえば、そういうところにお金を落とせば、政治家にキックバックが防衛産業から期待できる。兵士を雇っても、キックバックないし。 そして、戦費が高いというのは、すぐに議会から槍玉に挙げられるから、わざと戦費に計算しないように、粉飾会計をやっている。 その粉飾を手伝ってくれるのが、民間軍事産業。元軍人たちを使う会社だ。米軍が支給する金額よりもはるかに高い報酬で雇うから、優秀な軍人が米軍から転職する。米軍は、民間軍事産業に優秀な人材を与えるための訓練場にされている、ともいえるんだが。たとえ戦場で死んでも米兵死者数に含めなくていいし、民間軍事産業への支払いは、戦費にならない。 後、防衛産業の育成とか最近防衛省が言い始めているけれど、この本も触れています。 まあ、防衛産業は、基本的に顧客が政府のみだから、(特に日本のように武器輸出規制をかけている場合には)防衛予算で、全体の規模が決まる。なので、日本だと会社数は多くもならないけど、減りもしないように予算が配分される形になる。それは、各会社の先端技術がなくならないように、仕事を与え続けるという意味だ。そうした結果、各社が1社しか持っていない、何かしらの先端技術を持つようになり、相互独占という状態が生まれる。 そのため、政府の足元をみて、企業には請負仕事の予算を減らそうとするインセンティブは生まれない。 けど、防衛予算は、企業の成果次第で上下するものでもない。全然関係ない政治環境の下に増減する。 なので、企業としては防衛産業一筋にしないで、多角化が自然である。 この本、オススメです。

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