コタツで無理問答木枯らしが吹き荒み、 凍てつくような寒さを演出している屋外。 しかし、自分にとってその全ては無縁のもので実感のない存在。 なぜなら、今の自分には最強のアイテムがあるから。 「やっぱり冬はコタツですよね~」 そう言って向かいに座っている琥珀さんに視線を向ける。 「ですね~♪あっ、中の温度は大丈夫ですか?」 「あぁ、丁度いいよ。それにしても驚いたよ。まさかこの遠野家にコタツがあるなんて」 ここは琥珀さんの部屋、この寒さに耐えかね琥珀さんに何とかして貰おうと相談しに行った所、この部屋にはコタツがあると言われ、御一緒させてもらっている。 「甘いですよ、志貴さん。コタツは命の源!日本の英知の結晶なんですから!!一家に一台あって当然です♪」 「うん、言ってることは無茶苦茶だけど言いたい事は分かるなぁ~」 「コタツに入るだけで幸せになりますもんね~」 そう、コタツは一種の兵器だ。 この中に入れば誰でも脱力して無気力になる。 「うん、これはもう一種の魔法の域なんじゃないかって思いますよ」 「あはは~、そうですね~♪」 「でしょ~、これでミカンとかあったら最強ですよ!」 そう、この兵器には必殺のオプションがある。 それこそキングオブ果物、ミカンである!! そして、コタツで食べるミカンは普段の三倍はおいしく感じられるのである。 「えっ、ありますよ、ミカン」 「なんですと!!」 「いえ、ですからミカンなら、ほらあそこに」 そう言って指差した先には確かにミカンが置かれていた。 おぉ、そこにいたのかマイハニー 欲しい!! しかし、このコタツから出てミカンを取る。 この行動がどれだけ大変か!! 寒風吹き荒れる部屋の中、コタツからでてミカンを取るのはかなりの決断を要した。 「あっ、ついでに私のぶんもお願いしますね~」 その言葉を聞いて取りに行こうとした体を止める。 「えっ、琥珀さんも食べるの?」 「えぇ、やっぱりコタツにミカンは外せませんから~」 「うぅ~、了解!」 そう言ってコタツから出て行こうとする。 そして、コタツから完全に出た瞬間、 ヒュ~!! 部屋を流れる寒気が体を撫でる。 「サムッ!!」 思わず条件反射でコタツに潜る。 「無理無理無理無理無理無理無理無理!!」 「うわぁ、志貴さん。ディオみたいですね♪」 「イヤ、そーいうネタはいいから。琥珀さん、無理です。出られません!コタツの外は人外魔境です!」 そう、これも一つの魔力かもしれない。 コタツに一度入った人間は確実に外へはでられなくなってしまう。 「琥珀さん、悪いんだけど代わりに取ってきてくれない?」 そう頼むと琥珀さんもコタツに体を深く入れながら、 「イヤですよ~、第一ミカンを食べたいのは志貴さんじゃありませんかぁ~♪」 笑顔で正論を投げかけてくる。 「うぅ~、確かにそうだけど琥珀さんも食べたいでしょ、ミカン」 「うっ、確かにおコタにはミカンですからねぇ~」 困ったなぁ~、といった表情を見せながら琥珀さんは頬を掻く。 そして、琥珀さんはほんの少し考え込んで、 「じゃあ、志貴さん!ここは一つゲームで決めませんか?」 そう、笑顔で言ってきた。 コタツで無理問答 「またゲームですか?言っときますがTVゲームはお断りしますよ、勝てる気がしませんから!」 そう、この間コテンパンに伸されてから琥珀さんにゲームで勝つというのは、高橋名人に喧嘩を売ることと左程変わらないと気付いたのだ。 目下、そのおかげで自分は琥珀さんの奴隷状態である。 「いえいえ、今回はもっと単純なゲームです。志貴さん、『無理問答』ってゲーム知ってますか?」 「いや、聞いたこと無いな。どうやるの?」 「はい、二人向き合って会話を成させることなく会話をしていくってゲームです」 思わず頭にはてなマークが浮かび上がる。 会話を成させることなく会話をしていく?? そんなこちらの疑問に気付いたのか、 「えっと、例えば志貴さんが『今日は寒いねぇ~』と私に言ったら、私の方はそれに答えず『志貴さん昨日何してました?』と言うように会話が成立しないような言葉で返さなきゃいけないんです」 はぁ~、なるほど。つまり会話をチグハグに進めていけばいいらしい。 よし、これなら琥珀さんに勝てるかもしれない! 「OK,大体飲み込めた」 「はい、じゃあ私からスタートしますね~♪」 「よし、来い!!」 このゲームのコツは次に何を言うか頭の中で考えられるかどうかだ。 そんなことを考えていると早くも琥珀さんから第一声が来た。 「いきますよ~、そもさんっ!!」 「せっぱっ!!」 ここまで言ってフト考える。 あれ、このルールって・・・・・、 そしてもう一度ルールを言ってた琥珀さんのシーンを回想。 確か、 『会話が成立しないような言葉で返さなきゃいけないんです』って言ってたから・・・・・、 しばし考え、 「うわっ、しまったっ、俺の負けじゃないか!!」 「はい、志貴さんの負けです♪じゃあおミカン、お願いしますね~」 あ~、なるほど。そんな手で来るとは。 そりゃ、日本人ならそもさんと聞かれたらせっぱって答えたくなる。 そんな愚痴を頭の中で展開しつつコタツから抜け出してミカンを取る。 外気に冷やされ折角温まった体はすっかり冷やされてしまった。 ・・・・・・しかし、そんなことよりも 先程負けたことのほうが悔しかった。 そんな自分の横で琥珀さんは笑顔でミカンを食べている。 「志貴さん、やっぱりコタツにはミカンですねぇ~。甘くっておいしいですよ~」 むむむ~、やはり悔しい。 なんとか一矢報えないだろうか? 次こそ負けないと思うのだが、 ただ、なかなか勝負の種なんていうものは転がっていないし・・・・・・、 しかし、そんな事を考えていたら二度目のチャンスが、 「ありゃりゃ、ポットにお湯がなくなっちゃいました」 来た!! 「あぁ~、それは困ったね」 「はい、お茶を入れようと思っていたんですが」 「じゃあさ、お湯を入れてくるのも『無理問答』で決めない?」 「わぁ~、いいんですか~?」 と、琥珀さんは笑顔で聞いてくる。 ふっふっふ、しかし琥珀さんの勝ちもこれまで!! 次は負けませんよ!! そんなこちらの意気込みに気付いているのか、琥珀さんは終始笑顔のままだ。 「じゃあ、今度はこっちからいきますよ!」 「はい、OKです」 「いや~、今日は寒いですね~」 「今日の晩御飯何にいたしましょう?」 「あっ、コタツ暑すぎません?」 「そういえば、昨日面白いニュースやってたんですよ~」 「今度期末テストでさぁ~」 よし、今回は順調だ。 そう思っていた矢先に琥珀さんから次の言葉が紡がれる。 「いや~、志貴さん。なかなかやりますね~」 その言葉にほとんど反射的に、 「いやいや、琥珀さんのほうこそ~」 そう答えていた。 「はっ!!・・・・・・・・・しまったぁぁああぁぁあっ!!」 くっっそーーーー、その手があったか!! こちらの関心を他所に琥珀さんは鼻先にポットを差し出して、 「お願いします♪」 「はい」 もう一度コタツから抜ける。 しかも今度はヤカンを火にかけてポットに移すまでなのでかなり長い間、外気に晒されていないといけない。 ヤカンに火をかけながら考えてみる。 二度目の負けはかなり悔しいが負けていた訳じゃない。 最後の一言に反応してしまったのは気の緩みが原因だ。 それさえなければ、 今度こそ勝てる!! ポットに移し終えてコタツに戻ると早速次の勝負のネタになりそうなものを探す。 ふと、テレビに視線を向ける。 誰もいじってないので勿論テレビは動いてない。 これだ!! 「琥珀さん、暇じゃない?」 ちょうど急須でお茶を入れている琥珀さんに問い掛ける。 「へっ?」 「いや、なんかテレビでも見たいなぁ~って」 それだけで琥珀さんはこちらの言いたい事を察してくれたらしい。 「じゃあ、勿論『無理問答』ですね♪」 「うん、じゃあ今度はそっちからで」 「それじゃあ、今日はテレビなに見たいんですか?」 「いつからテレビ部屋に置いてるの?」 「今度、一緒にピクニックにでも行きませんか?」 「あぁ~、最近映画見てないなぁ~」 「志貴さん、カッコいいですね~」 「そういえば琥珀さんカラオケってやったことある?」 「あぁ~、志貴さん負けです!!」 えっ? 一瞬、頭が真っ白になる。 へっ、何で負けたんだ? いや、考えろ志貴!これは無理問答なんだ。 つまり・・・・・・・、 その手には乗りません!! 「今度どこか行きませんか?天気がいい日にでも」 そう、先程の一言自体が無理問答に組み込まれた一言。 ここで、『えっ、なんで?』とでも聞き返そうものならきっと負けていただろう。 ふっ、甘いぜ琥珀さん!! 「うわぁ、志貴さん引っ掛かりませんでしたね~」 「いや~、流石にそう何度も負けられ・・・・・って、しまったぁぁああぁぁあっ!!」 「あはは~、惜しかったですね~志貴さん」 まさか二段構えとは、 琥珀さん、実は飛天御剣流の使い手なんじゃないか!? こうして三連敗目を喫して、しぶしぶながらテレビのリモコンを取りに行く。 しかし、それにしてもこのまま負けっぱなしっていうのも悔しい。 せめて一回くらい勝たないと自分のプライドが泣くってものだ。 「琥珀さん!!」 テレビをつけ、戻り際に一言 「俺と最後の勝負をしましょう!!負けたほうは勝者の命令を一回聞くという条件で!!」 言った。 このまま琥珀さんの勝ち逃げでは終わらせない。 そんな気持ちが届いたのか琥珀さんは、 「いいんですか?次負けたら四連敗ですよ~」 なんて笑みを深めながら言ってくる。 「くっ、その勝者の笑みもこれまでです!次は絶対勝ちます!!」 「ふふふ、それは楽しみです♪」 口元に手を当てつつ笑う琥珀さんの眼は捕食者のような目になっていく。 思わずたじろぎそうになる自分を必死に押しとどめる。 大丈夫、さっき思い至ったこの作戦で全て上手くいく。 「それじゃあ、最終戦」 「始めですね♪」 その発言と共に一言、 「リボン、似合いますね」 「今日どこ行ってたんですか?」 「琥珀さんの声が聞けただけで、毎日幸せです」 「えっと、秋葉様はなにをしていらっしゃるんでしょう?」 「俺は琥珀さんがいてくれたら他に何も入らないよ」 「あ、っと、ところで今日の晩御飯は何にいたしましょう?」 いける!! 心の中で叫び、決めのセリフをぶつける。 「琥珀さん、世界で一番、誰よりも好きです」 「あっ、その、・・・・・・卑怯ですよ志貴さん、・・・参りました」 顔を真っ赤にしながら俯きがちに一言だけ、琥珀さんは言った。 これは、つまり、 「やったーーーー!!勝ったーーー!!」 勝利の叫びをあげる!! 正直真っ当な手とは言えないが、それでも勝ちは勝ちだ! そう、琥珀さんは与えられることに慣れていないという点を利用した作戦だった。 勝ちたかったとはいえ随分情けない手を使ったものだ。 「まったく、随分卑怯な手を使いますね、志貴さん」 と、喜んでる横で琥珀さんがホッペタを膨らませていた。 「あっ、えっと、その、ゴメン!けど、全部本当のことであるから!」 「い~え、許しません!!いくら勝負だからってあんな手を使うなんて。だからお仕置きです♪」 そう言うと琥珀さんはこちらの顔に手を伸ばしてきた。 叩かれる。 そう判断して思わず目を瞑る。 そして、頬に手が触れた瞬間、 唇に温かいものが触れていた。 そして、ゆっくりと離れていき、 「私も志貴さんのこと大好きですよ♪」 そんな言葉が部屋に響いた。 一気に顔の温度が上昇する。 そんな奥の手が最後に残されてるとは思わなかった。 琥珀さんの方は、そんなこちらの顔を眺めて満足そうに頷く。 「それじゃ、志貴さん。負けは負けですから一つ命令を」 微笑みながら琥珀さんは言ってくる。 あんな事されて、そんな事を言われて、 悔しいがどうやらこの一言でこちらは負けたような気持ちになるみたいだ。 そんな事を思いながら、一言、向こうの耳元で告げる。 「あの、その、ですね。・・・・・・・ゴニョゴニョ」 「えっ・・・・・と、それはっ、ですね、・・・・・・・ゴニョゴニョ」 結局その日、遠野志貴は琥珀の部屋から出てくることは無かった。 たった一つの命令で志貴が望んだものはなんなのか? その後、あの部屋で何が起きたのか? それを知っているのは、 きっと、 部屋に置いてあるテレビとミカン。 ・・・・・そして、一台のコタツだけだった。 そんな訳で後書きです。 えっと、まぁ、今回のネタは知っている方も多いんじゃないかなぁと思います。 今回の無理問答は、某お正月番組の『さん○く』って番組でやっていて、これはいつかSSで使いたいと思っていたんですよ。 自分達は友人なんかと学校で暇つぶし代わりにやったりしました。 雰囲気が出てるかどうか微妙ですが楽しんでいただけたらなぁと思います。 えっと、そして『あーゆーはっぴぃ』の方はもう少々お待ちください。 来週辺りにはアップしますんで。 まぁ、そんな訳でして今回は後書きも短めにこの辺で。 感想と言う名のエサを与える BACK ジャンル別一覧
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